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2002.02【特集記事−本誌編集部より−】
不況をよせつけない現場改善力養成のノウハウ!

 
日本の製造業が続々と中国へ進出(?)している。しかし、この展開は喜ぶべきことなのか、悲しむべき事なのか。そして、ほんとうに日本の製造業は、国内で生きていく道がないのか?そのような疑問を、多くの現場改善コンサルタントの先生方に投げかけたところ、共通して返ってきた答は、「まだまだムダの山積み、それと改善力の低下」ということであった。
中国へ出ることの良し悪しを問う前に、現場の改善パワーの低下を問題にすべきだということが明確になってきた。では、何故改善力が低下しているのか?端的に言うと、知恵と集中力がたりないということらしい。それは、「物づくりの哲学、工場改革の哲学を自分で発見する努力が忘れられている証拠だ」と皆さん指摘された。では、まずどのように自分で工場改革の哲学をつくりあげ、ムダをなくし、改善を成功させるか。そのノウハウのポイントをまとめてみたい。
まず、今、管理者に何が欠けており、何が弱点なのか?

(1)管理者や監督者の主体性喪失

管理者や監督者が物の流れの管理をきちんとしていないことである。このことは生産管理の重要性の理解不足といってもよい。
監督者の中には、自分自身が作業者として作業に埋没し、物の流れを見ていない人が多い。
管理者や監督者は何をやらねばならないか、この問いがされていない。
きちんとした生産計画を立てないで、調整でさばいているケースが多い。

(2)従来からの一見もっともな考え方に埋没

  • どんな改善にもお金と時間がかかる。
  • 製造ロット合併(納期の異なる同製品をまとめてつくる)は知恵であり、段取り回数を少なくするため、どんどん製造ロットを大きくする。
  • 必要なものだけつくることの意味が分からず、機械を止めないことのみ重視する。

(3)改善のすばらしさ、重要さの認識不足

会社での地位が上がるほど、大きな改善ができなければならないのである。
この認識が欠如しているのである。
特に、工場では一番改善力ある人が工場長でなければならない。
長に改善力がなければ部下の指導はできない。

(4)自己過小評価

自己の有している改善力に気づかないで、改善を積極的に進めない傾向にある。
しかし、その弱点はせっぱつまらないとわからない。骨身にこたえないのである。
土壇場になると、見えるものが違ってくる。まず、その場面に自分を置いてみることだと言われる。
改善力をつけるということは、
  1. 本来誰でも持っているが、使われていなかった改善の能力を体験すること
  2. ムダをみつけ、除去する力をつけること
  3. 月次目標と施策を決める力及び達成する力をつけること
  4. 一日改善会で目標を達成する力(特に常識を打破する力)をつけることである。
物づくりの中には多くのムダが存在している。トヨタ生産方式では7つのムダが存在していることを明らかにしている。
  1. 在庫のムダ
  2. つくり過ぎのムダ
  3. 不良のムダ
  4. 手待ちのムダ
  5. 加工のムダ
  6. 動作のムダ
  7. 運搬のムダ
この中で特に誤解されやすいのは運搬のムダである。運搬はまとめて、回数を少なくすることが効率的でムダのないことだと考えている人が多い。しかし、正しいとらえ方は、工程間の有機的つながりを重視して、小刻みな多回運搬に価値をおくのである。
これは『物の流れを早くする』ことの実践活動をすれば容易に理解できることである。
加工のムダとは製品に付加価値をつけない動きのことである。製品に付加価値を付ける動きだけを「働いている仕事」という。例として、ドリルで穴をあける作業の場合、ドリルがワークに触れ、穴をあけているときだけがお金を生む(付加価値をつける)仕事をしている。
それ以外は、お金を生む仕事をしていないのだから一秒でも短い時間で、できるようにしなければならない。
このように今まで当たり前として見過ごして来たことをムダだと発見する認識が大切である。
ムダの正しい理解の上に立って、これらのムダを取り除く力をつけることに力点を置くのである。
ムダを発見する力、取り除く力のない人が、ムダを取ろうとするのはムダである。
図-1(付加価値密度図)に示すように、単位時間に付加価値を生む仕事の密度の高い状態にもっていくのが理想である。
基本的にはM(不稼働中のムダ)ならびにm(稼働中のムダ)の存在に気づき、これらを取り除くことが必要である。
更に一歩進めてMとmを生じさせない方向にデザインすれば更によい。
このような物の見方と二つのエムを除く力が『改善力』である。
ムダは重複と考えることもできる。
打たなくてもいい石(ムダ)を重複して打つ。この重複をとっていくのが上達である。囲碁はムダのない(重複のない)機能を追求していくのであり、結果は機能美につながる。
図-1 付加価値密度図

トヨタ生産方式も囲碁もムダとりに関しては共通性がある。
ムダとりが局所的な効果で終わらないように、方針管理(目標達成のための品質管理アプローチ)を適用してムダとり速度を飛躍的に上げるのである。
トヨタ生産方式の構築に、方針管理という品質管理の方法を積極的に活用していくのである。
ムダとりで付加価値を上げていくのだから基本的にお金をかける必要はない。
囲碁と同様、正しいムダ理解とムダ除去の実践の繰り返し以外に上級者にはなれない。

改善力とはムダのない機能美を追求する力なのである。
『ムダとり』から『ムダを生まない仕組みづくり』に移行していく。
次に工程設計の改善の切り口の発見を詳細に述べてみよう。

1. 工程の改善切り口はどこか1つに絞る。

改善切り口は、次の10項目の中から選んでやってみてほしい。その中でも一番やりやすいのは、(2)の手待ちのムダで切る である。

(1)工程別ムダとり
小改善から入り、日常業務のなかに小改善活動を定着させる。

(2)手待ちのムダで切る
ライン編成効率(E)を計算してみる。または、作業者の動作を見て判断する。

(3)在庫や仕掛りのムダで切る
小ロット生産にしていく。しかし段替えロス時間が小ロット化率だけ入りこむ。

(4)少人化で切りこむ
たとえば、2人組立少人化Uラインにするという結論を先に出して、それに合わせていく。

(5)段替え改善から切りこむ
「ゼロ段取りの技術」から入り、段替えロス時間を最小にする。

(6)不良・クレームから切りこむ
Uラインの形を先につくり、トラブル発生箇所を退治していく。
5WHYの実施。工程ごとにバカヨケ

(7)欠品防止から切りこむ
連続品は「かんばん」にする。
引当品「チクラーシステム」を入れる。

(8)チョイテイ防止から切る
予防保全・瞬間保全

(9)1個造りから入る
全工程を1個造りにしてしまう。

(10)短期間で切っていく
工程を連結していく。工程を連結すれば、するほど納期は短くなり、その短縮率は工程連結数(N)の逆数(1/N)になる。

2. C. T(サイクルタイム)どおりになっているか。
C. Tとは、1個当たり何秒でつくれば、お客様の要求に答えることができるかという時間のことである。

3. ライン編成効率はいくらか。改善しなくとも少人化できないか。
まず、工程のH. T分析をする。1個当たり生産するのに手扱い時間がいくらなのか測定してみる。必ずや少人化に成功するであろう。
問題を発見すると即日(その日のうちに)改善する。これが改善力である。そのパワーアップのために「長」と名付いた、現場の班長、係長、課長は日頃次の7つの能力を必ず身につけなくてはならない。
1. 目標設定能力
改善目標は、高ければ高いほどいいように思われるが、そうではない。手が届きそうで届かない目標が一番向上する目標になる。

2. 方針伝達能力
会社方針をそのまま読み上げ、現場のオペレーターに伝達している朝のミーティングを目にしたことがある。当然オペレーターは、誰も真剣に聞いていない。「おれには関係ねえや。そんな方針聞いたって、具体的に現場では何をやったらいいのか、わからねえや」と、一人言をブツブツ言っているだけである。
いくら会社方針は1つであっても、それを部下に伝える場合は部署と階級でそれぞれ具体的に加工し、伝達しなければならない。方針伝達能力とは、方針加工能力のことでもある。

3. 問題解決能力
問題が発生し、それを解決するために一番必要なことは、スピーディーな行動力、二番目に決断力である。ラインで不良が発生した。第6章魂その5のルールどおり、ラインストップしている。さてどうしたら良いか。
アンドンの赤ランプ(不良発生ランプ)を確認したら、まず上長はすぐラインに行き不良の現物をチェックする。その場で原因がわかればすぐ処置し、わからない場合は設計と品質の担当者を大至急に連れてくる。そして、ラインをこのまま動かすか、止めるかを決める。のように、自分だけの力でなく、他部署の人の力を使うことも問題解決能力の1つである。

4. 育成能力
1個造り生産方式で、ラインにおける設備の多機能化、人間の多能工化を推進していかなければならない。特に人間の育成は重要である。ある人が休んでしまったらラインが止まってしまうような育成状態では、長として失格である。
育成のポイントは、
ポイント1.ライバル意識をもたせる。
ポイント2.仕事のできる人をラインから抜く。
ポイント3.ゲーム感覚で進める。向上率の高い人を表彰する。
である。

5. リーダーシップ能力
リーダーとは、おこる・怒鳴る・威張る、ではない。
あくまで先頭に立って、「おれについてこい」と、引っ張っていく人のことである。
部下がミスを起こした場合、怒鳴りつけるリーダーはダメなリーダー。優秀なリーダーは、「部下のミスは自分の管理ミス」と心得、次回ミスが発生しないように、すぐ処置するリーダーである。

6. 動機づけ能力
長としてのやる気もさておきながら、部下のやる気を出させていただかないと現場は動かない。そのためには、「やってみせ、いって聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ」である。
特に最近では、「やってみせる」長が少なくなってきた。逆にオペレーター達は、「なんだ、いつも口ばっかりで。たまには、私達に手本をみせてほしいものだ」という声を時々耳にする。残念なことである。

7. 自己革新能力
去年の自分より、今年の自分はどのように成長したのか。仕事の内容を比較してみれば自分の成長度がわかる。自分を革新できるのは自分である。
他人は何もしてくれない。日々努力を重ね、革新してほしい。市場は刻々と変化しているのだから。
改善力アップはまちがいなし。そして最後に重要なのは、「失敗を隠すな。問題はオープンにせよ」ということ。
今から約20年ほど前、S社で石油ファンヒーターの新製品を発売した。ところが、発売から3日目に〔一酸化炭素中毒〕による死者がでたのである。
当時、設計担当をしていた部長は、自分達の設計不具合に気がつき一酸化炭素が発生することを知っていた。しかし、すでに営業部ではCMも流し始め、部長としても今さら「出荷できません」と、言えなかったらしい。また、新聞はこうとも書いている。
『S社の社員は、失敗したら即くび。失敗をひたすら隠し、成功だけを数値化した、ゴマスリ人間が昇進する。』
結果的にこの事件発生から5年間は、ファンヒーター部門は大赤字となってしまった。大きな問題はもちろん、どんな小さな問題でも、すぐオープンにし、みんなで解決するために知恵を出し、行動する。風通しのよい会社にすることも、1個造り生産方式を成功させるために必要なことである。いくら良い設備を使用しても、それを動かすのは人間なのだから。
こうすれば、この工場は必ず利益を生み出す工場に変身しているはずである。(当記事は、近江堅一先生、竹内均先生のお話を参考にさせていただきました。)


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