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2002.04【特集記事−本誌編集部より−】
企業活性化の道 ここにあり

 
上場企業の海外シフト、縮小、撤退が続き、生産を取り巻く状況は厳しくなる一方である。景況は若干よくなってきたという判断もあるが、今後の人口構成ならびに産業構造の変化、WTOに加盟した中国の本格的市場参入などを考えると楽観できる状況ではない。製造業が製造業として生き残るためにはなにをしなければならないのか。逆にどうすれば残れるのかを考えてみた。

●競争と協調の時代に

企業が生き残るために同業他社と手を組む、あるいは必要とされる機能を有する企業と持ち株会社をつくる−といったことが日常茶飯事で行われている。競争力をつけ、グローバルビジネスで勝つ。これが競争と協調である。
車ではシステム化、モジュール化が進み、足回り、ドア関係、セーフティシステム(エアバッグ、シートベルトなど)といった機能ごとにカーメーカーに提案すべく、サプライヤー同士が合併することは珍しくない。
逆に日本精工は電動パワーステアリング開発をカーメーカーと同時並行して進められるシステムを開発した。これは日本精工がパワステ本体と制御プログラムをある程度完成させた段階で、試作品とチューニング用ソフトをカーメーカーに提供、カーメーカーでは試作車に搭載してデータ測定、微調整を行うというものである。このために日本精工では3次元CAD・CAEを導入、社内環境を整えている。
NECとカシオ計算機でも薄膜トランジスタ(TFT)カラー液晶の広範な事業提携をしており、さらに部材の共通化に着手する。コスト低減、生産リードタイム短縮がその目的であるが、部材の購買力アップ、相互供給による生産のフレキシビリティなども利点とされるところである。
製造業以外でもこうした「協調」はある。
エネルギー産業でも調達サプライチェーンマネジメント(SCM)によるコストダウンを図る。
中部電力では資・機材関連メーカー、工事会社とともに仕様、工法、発注方法、物流、在庫などを見直す。テスト導入で成果を得て、原子力、送変電にも適用、トータルで調達コストの2割削減をめざす。
従来の「切る」「切り下げる」だけの手法ではなく、仕様の見直し、品番の絞込み、発注の一元化などが盛り込まれており、WIN-WINが成り立つところがポイント。
日本航空もボーイング社(米国)との航空機部品に関するSCMの規模を拡大した。もともと対象であったボーイング社の設計した消耗部品2万点にボルト、ナット、電球といった消耗部品を追加したのである。
受注生産に近い航空機は安全のため、部品をすべて自社で購入して保有していた。この在庫金額は莫大なものであり、キャッシュフローの妨げにもなる。
今回、SCMの拡大により全体在庫を適正化し、ボーイング社は部品の過剰生産を防止できるとあり、こちらもメリットがある。
航空運賃の値下げという市場圧力がコストダウンを要請し、その結果、顧客(日航)とサプライヤー(ボーイング社)共同のSCMを促進させた。さらに国内他社やアジアの有力エアラインにも参加を呼びかけており、価格競争とは別に協調路線も展開している。
こうしたシステムは互いに「実力」を認め合った上でなければ、うまくいかない。途中で「破談」や「延期」になるケースもあり、市場での競争に打ち勝つためにも、また他社と協調して何かを作り出すにも競争に耐えうる実力と付加価値を持たなくてはならないのは当然のことであろう。

●どう変えるべきか

Copy Right林企業経営研究所

図 コストが集計されていく流れをつかむ


市場、環境に対応してできることは製品、サービスの知識集約度を上げ、付加価値を高めること、ナレッジ化であろう。
知的財産権や生産ノウハウの蓄積、技術開発などがあがる。
コスト削減にしても、つかみにくい費目ほど、改善対象である。製造原価、売上原価、総原価を考えたとき、どこでコストダウンができるのか。コストが集計されていく流れをつかみ(図参照)、効果的な対策を講じる必要があろう。
製品、部品、工程、消費エネルギー、人員、設備、図面・伝票などで共通化できるものはないだろうか。
とくに調達については先述したように効果は大きい。SCMだけでなく、OA機器や家具、文具、事務用品などのe調達、調達の逆オークション、集中・重点購買など手段はいろいろある。
一方、経営上、ISO 9000sをどのように位置付け、活性化に役立てているかも問われる。顧客重視、品質重視の精神と現場での運用に差はないだろうか。
ISO 14000も環境配慮型企業というアピールだけでなく、現場の活性化やコストダウンにどう結びついているかを検証していく。「環境」という切り口でみると、従来の改善手法とは異なる「ムダ」も見える。
板取りの合理化による端材の削減は材料費の軽減だが、これは環境面でもプラスになる。
切り粉の削減も「環境」だけでなく、職場環境の改善とコストダウン、そしてその加工技術のノウハウ確立は現場の活力を生み、そこで工夫した治工具の外販ができれば、次のビジネスチャンスになる。これらは最初のうちは小さな改善提案からだされていくかもしれない。しかし、現場が活性化し、知恵を出すことで、生き残る道が見えてくる。
不良低減はたしかに顧客の要求に応え、コストダウンの要諦であるが、不良を作った場合はこれを廃棄し、ごみにする場合はごみが増える、加工に使用したエネルギーは省エネの視点からすると「もったいない」ことになる。
今後、企業を取り巻く環境は厳しさを増すことが予測されている。そのときに製造業がどう生き残るか。
ひとえに現場の活性化にかかっている。

(本稿は林企業経営研究所・林昭嘉氏のテキストに基づいて編集部が起こしました)


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