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2003.06【特集記事−本誌編集部より−】
需要に対する供給量を把握していますか
−「Pull生産」から「Push・Pull混合生産」へ−

 
「在庫は悪」といわれている。が、実際にどのくらい「在庫がまずいのか」を考えたことはあるだろうか。エアコンを例に考えてみよう。生産計画に従って前年の年末から着々と組み立てる。倉庫に準備し、ボーナス商戦でキャンペーン、一気呵成に売り込む。一家に一台から一部屋に一台、さらにマイナスイオンや空気清浄機能・・・付加価値を付け、人気タレントのCMもオンエア。ところが、長期予報が狂えば、売れ残る。エルニーニョによる異常気象で家電各社が大量の在庫を抱え、赤字転落したことを思い起こされる方も多いだろう。シーズンが終了すれば売れなくなるため、店頭値引きが始まり、「安くなければ買わない」という現象を引き起こす。衣料品も同様で、プロパー(定価)で販売できるのは30%を切るともいう。これはすべて「在庫を処分したい」というメーカーの都合であり、需要に対して供給が上回っている以上、デフレは止まらないのである。デフレからの脱却を図るためには在庫の見直しが必至である。



◆◇◆在庫は諸悪の根源◆◇◆

在庫は会計上の資産を増加させる。しかし、収支的には管理費を増加させる。ことに間接部門の人件費の50%、製造部門の人件費の30%は在庫に関連した業務のために「浪費」されているといっても過言ではない。
古い在庫を出荷するときに再検査をするムダや倉庫代(借りている場合はもちろん、自社倉庫であっても、倉庫があるゆえの電気代や土地代、建屋建設代、さらに立体自動倉庫などを導入していれば設備投資、及びその金利など)は容易に想像できるが、この他にも受注どおりに購買を行わないために発生する納入時の仕分け、生産計画の立案など、見えないムダが多数発生する。
在庫として倉庫にあっても、確実に売却できればよいが、製品のライフサイクルが短い現在、完売できる保証はない。この場合、在庫を処分するが廃棄には莫大なコストがかかり、追い討ちをかけるように税金もかかる。つまり、在庫は諸悪の根源であり、この在庫を減らすことがまず、企業として重要なことなのである。

◆◇◆生産リードタイムは短く◆◇◆

在庫を持たないとなると、受注をしてからすぐに納品できる体制作りがポイントになる。
その方法としてPull(引く)生産はどうか。これは売れたものを、売れたときに売れた量だけ補充する生産方式である。後工程が前工程から必要なものを引いていくことから名づけられたが、生産リードタイムが受注リードタイムより長い場合は納期に間に合わせるためにストア(在庫)を持つ。とくに素材系では材料手配に時間がかかること、為替リスクをヘッジしなくてはならないことから在庫を持たざるを得ない。
それでは、Push(押す)生産がいいのかといわれれば、「確定情報が必ず得られる」のであればいいのだが、世の中そんなに甘くない。
そこで、これらの2つの生産方式を混合することになる。
混合生産は客に近い、後工程から「押す生産」に切り替えていく。後工程になればなるほど、作業も多く重なっており、従って工数も多い。つまり製品に近くなっている。そのため、付加価値が高い、逆にいえば棚卸資産も大きく、キャッシュフローを悪くする。そこで、後工程から着手する。半完成品で持つよりも、部品で、部品よりも材料で持つ。こうすることで、キャッシュフローもよくなり、ムダな作業もなくなることになる。
このときの改善のポイントは生産リードタイムを短縮し、受注リードタイムに近づけ、最終的には受注リードタイムよりも短くすることである(このための方法として、段取り替え時間の短縮や人によるばらつきがないための教育などがあがってくる)。

◆◇◆在庫ゼロから改善が生まれる◆◇◆

ところで、在庫が悪というのは、なにもキャッシュフローへの影響だけではない。むしろ、問題なのが、慢性不良の原因となることだ。イコール生産ではすべてが良品でなければ、数が揃わない。1台の不良で受注ロットが揃わず、材料の再手配などもしなければならなくなる。自然にひきしまった工場となる。
ところが、在庫があれば、そうならない。不良発生数分、在庫から引き当てればよいのだ。資材を再購入する必要もない。不良の恐ろしさを知っているから在庫で対応しているのではなかろうが、これでは「改善」など根付かないだろう。
デフレといわれて久しい。だが、これは日本の製造業が引き起こし、自分で自分の首をしめているのではなかろうか。製品の付加価値をつけても基本機能が変わらなければ、爆発的に売れるものではない。需要に対する供給能力を冷静に見据え、それに合致した生産をしていく。これでしか日本の製造業は生き残れないのではなかろうか。
PUSH・PULL混合生産
(「ものづくり復活の条件 ─製造業77の基本─」より)


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本稿は「ものづくり復活の条件−製造業77の基本―」(編著・竹内均氏、9800円)をもとにテクノビジョン用に書き起こしたものです。


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