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2004.11【特集記事−本誌編集部より−】
新しいコストダウン手法
─ ITツールを使った個別実績原価低減法 ─

(株)戦略情報センターPOP研究所 所長 山口俊之

 
今新しい工場経営戦略の変更が必至となっている。その背景には、自動化・省力化戦略の終焉と運用・管理高度化戦略への変更がある。それと同時に現場が見えなくなってきている。
現場の実態が、多品種・小ロット・短期間生産のため大きく変貌し、実態データの把握が不能になってきている。つまり、目で見る管理の限界であり、データサンプリング法が使えないのである。並行して基本データの陳腐化が起こり、ST、見積もり、生産能力のデータが新しくとらえ直されなくてはならない。逆に言えば、ITツールを使って新しい工場経営戦略を立てればまだコストの半減は可能である。今回は新しいコストダウン手法として個別実績原価の圧縮によるコストダウン手法をご紹介する。



 まだまだ大幅なコスト低減は可能である。そこで全く新しい視点として、情報システムを改善のツール(道具)として用いるところの低減法についてまとめてみた。
 従来のコスト低減法は、いわゆる直接費の低減に注力したものであり、VA (価値解析) CD (直接費の低減) FA (多品種生産の自動化) などを手法として改善がなされた結果、たしかに直接費についてはコスト低減に成功した。
 しかし、消費の多様化は、工場に多品種少量生産を強いるとともに、製造間接費の増大を引きおこし、直接費と製造間接費との逆転現象が見られるようになっている。
 そこで、これからは、製造間接費に着目し、これのコスト低減に取り組まなければならなくなってきている。しかしながら、製造間接費の各項目は、多品種少量生産によってますます複雑でダイナミックな生産の中で、従来のペーパーによる方法や、データサンプリングの手法が役に立たないために、定量化できない、または、見えないものとされ、ここに改善の活動を行うことを防げてきた。
 ただし、データがないまま、原理的な方向を指向することで製造間接費の低減を企ることは行われている。それは、いわゆるJIT改善法であり、NPSである。、これもそれなりの成果を上げて来てはいるが、あくまで原理的な方向を示しているにすぎず、その証拠に、改善の成果について正確なデータがないのだから、評価はできず、推定によるしかないからである。
 そこで、複雑でダイナミックな生産の実態をセンサから採る、制御装置の入出力から採る、あるいは、マイコンからデータでもらうなどにより、自動的にデータ採取し、情報処理して、図表化して提供する情報システム (POP生産時点情報管理システム) を用いることにすれば、定量化できない、または見えないところが解決できることになる。のみならず、データさえ得られれば、改善の手順そのものはそっくり従来のままで使えるのだから、改善チームはもちろん、小集団活動でさえ、製造間接費のコスト低減に参加できることになる。



 典型的な見えないものとして、個別の実績原価がある。これを正確に把握できれば、生産がどのように行なわれているのかという実態がわかるのだが、ほとんどの現場でこれができていない。
 原価を改善しようとすれば、少なくとも次の4つの原価原単位が計測されなければならない。1番目は原材料使用量、2番目は作業者の工数、3番目は機械設備の償却コストで機械を当該製番が占有した時間、そして4番目はエネルギー消費量である。それも1番から4番までのものが、製造番号、ロット番号などの個別の単位で計測されなけらばならない。
 実際に個別の原単位が計測されてみると、今まで思っていたり、信じていたことが、データにしてみると間違いだった、というようなことがたくさんでてくる。たとえ ば、同じ製造ラインを用いて、同じ品種のものを作ったのに、3直の各班の工数とエネルギー消費量が10%から20%も、バラついていたというようなことがある。標準工数も決まっていて、こんなにバラつくはずのないものが、バラつくのである。ちょっとした省エネ意識を持っている班とそうでない班とで差が生じるのである。意識の上では一所懸命に働いているつもりでも、データという鏡に映してみると、ムダやムラの多い作業の実態がわかるようになって、楽にやりながら、成果はむしろ上がるように改善できたという例は数えきれないほどある。

1.原単位データ収集の原理

 このようなことから、ロット毎の原単位が正確に計測されなければならないが、これらを計測し、データとして自動採取する方法についてその原理を紹介しておく。
 ここで重要なことは、製番毎に、ロット毎に、原単位が把握されなければならないということである。ドンブリ勘定はは今までもやられたことで、そのことが改善に結びつかなかったのであるから、もっと詳細の個別のものをデータとして把握するということなのである。

(1)ロット毎の計測方法

 最も容易な方法は、作業者のそばのPOP端末器の液晶“作業指示”が示され、作業者指示されたロット番号が着手できる場合は「確認」のキーを押す方法である。もし、当該ロットが着手できないときは、いくつか指示された他のロット番号を選んで「確認」するか、他のロット番号を再送してもらう操作をするのである。
 これができないときは、作業指示伝票にバーコードを打ち出してもらい、作業者がバーコードリーダーでバーコードをなぞって入力させる方法や、最悪の方法は、ロット番号からキーを打ち込んで入力してもらう方法を採らなければならない。

(2)原材料使用量の計測

 このように、着手のロット番号毎に、原材料使用量を計測する。重量で求められるものは秤量器から採取する。最近の秤量器は外部に計測値を出力できるように、ポートを持ったものがあるので、ここからPOP端末器に取り込み、ロット番号毎に編集させるわけである。
 同じように、長さで計るものは、ワークの上で接触して回転するローラー付きの回転カウンタ(またはエンコーダ)から回転数としてのPOP端末器に取り込むようにする。
 個数でつかまえるものは、光センサ、近接スイッチなどのセンサから入力する。おもしろい例として、全体重量を1個当り重量(単位重量)で割り算することで個数を求め、秤量器からポートを通して個数値として取り込むこともある。

(3)作業者の工数の計測

 作業者の工数を把握するには、作業が終ってから作業者に日報を書いてもらう方法では不十分である。作業の“着手”“中断”“再開”“終了”の都度、POP端末器の操作をしてもらうようにして、正確を期すようにする。そして、その操作がされた時刻をPOP端末器が自動的に登録するようにすればよい。
 機械を使う作業では、上述のような、POP端末器の作業指示の“確認”が“着手”として自動的に認識され、中断、再開、終了の操作によって、工数は自動的に計測される。組立てなど手作業の工数は、作業項目(組立工程)毎に、着手、中断、再開、終了の操作をすることになる。この場合には、作業者1人に1台または製番1つに1台の単位でPOP端末器を用意して、操作が手元ですぐにできるようにしてあげる必要がある。
 1人1台のときは、作業者の登録は使用開始時のみでいいが、製番に1台のときは、作業の都度、従業員コード(磁気カードやバーコードカードによる)の入力操作が必要になり、操作のめんどうが増すことになる。
 いずれにしても、この操作をしてもらえば、日報を書く必要はなくなり、正確な工数がデータにできる訳である。
 ただし、1人の作業者がいくつかの機械を同時に稼働させ(多台持ち)、いくつかのロット(製番)の加工を同時に行うような時には、各ロットの段取り工数は、当該機械の段取り時間をそのまま適用し、残りの当日の就業時間から全ロットの段取時間を差し引いた工数を、各ロットの稼働時間の割合で案分したものを各ロットに自動配布するようにする。

(4)機械償却時間(ロットの機械占有時間)

 原価には機械償却費が反映されなければならない。
 そのためには、あるロット(製番)が加工や組立てを受ける機械や設備をどれだけ使ったのか、表現を変えれば、あるロットが機械や設備をどれだで占有したのかが計測される必要がある。すなわち、あるロットのための段取時間、稼働時間そして非稼働時間を合計したロットの機械占有時間である。
 これは、ロットの機械作業の着手から終了までの時間(ただし中断時間を除く)のことであるから、作業者の工数で述べた手法がそのまま利用できる。

(5)エネルギー消費量

 機械設備やライン単位にパルス発信器付き積算電力計や灯油の流量計を取り付けて、これをPOP端末器に接続し、ロット毎の消費電力量や灯油使用量として計測する。なお、積算電力量計は、多くの計測器のうちで、最も安価な計測器の1つであることは知られていない。

2.原単位把握の情報ツール

(1)マシンやラインからの原単位把握ツール

 原単位把握において注意すべきことは次の3点である。
  1. ロットまたは製番毎に分けて把握する。
  2. 可能なかぎり、電気的信号で採ること。
    (人の操作を最小にし、人によるデータインプットは許さないこと。)
  3. カウント、タイム積算などは自動的に行うこと。
 ここで、マシンやラインを使って、加工や組立てが行われる時の、情報ツールの一例として、POP/X形端末器がある。
 POP/X形端末器は、漢字で16文字8行の表示できる明るいバックライト付液晶表示器、24個のキー、8個の非稼働理由押ボタンと理由押ボタンの操作を催促する回転 灯、端末器どうしの伝送や端末器とパソコンとの伝送システム、そして、あらゆる機械、設備、計測器、試験器と結ぶための、ディジタル、アナログ、BCDコード、GPIBインターフェイス、RS232Cシリアルポートなどのインターフェイスが用意されている。
 原単位把握においては、POP/X端末器に、マシンやラインの生産数の信号や稼働の信号となるリレ[接点(オープンコレクタでもよい)を探し出して接続する。また、パルス発信付き積算電力量計からのパルスも接続する。
 そして、液晶画面に従って操作する。最初に表示されるのは、「着手作業選択画面」である。これは製造長等が決めた差し立て計画を製造長のパソコンから作業指示として各マシンや各ラインのPOP/X端末器に降ろしたものである。この画面で作業者は作業に入る指示番号を選択する。
 「確認」のキーを押せば、次は「作業項目確認画面」である。各内容を確認し、プレスなどのときは、1ショットで作られるワークの数を“取り数”として設定するとともに、作業者コードを入力する。(テンキーからの入力のみならず、バーコードから、磁気カードから入力させることもできる。)入力が終わったら、「開始」キーを押す。
 「開始」キーを押せば、画面は「稼働モニター」画面に切り変わり、POP/X端末器の内部処理としては、当該指示bフ開始時刻が登録されることになる。同時に“段取り”停止として、非稼働時間が積算され、機械からの稼働信号が立ち上がるまでの時間は、段取りによる停止時間として自動集計される。
 機械からの稼働信号が入ると、内部処理は稼働時間を積算し、生産数のパルス信号が入れば、取り数を掛け算して出来高として積算し、積算電力量計からのパルスは倍率を掛け算して消費電力量(kWH)として積算する。
 マシンやラインが何らかの理由で停止させたり、停止したりした場合には、稼働信号がOFFになって、ある一定時間(自由に設定できる)経過の後に、回転灯を点灯するとともに、8つの非稼働理由押ボタンのLEDをフリッカさせて、作業者に非稼働理由押ボタン操作を催促する。押ボタンが操作されれば、稼働信号がOFFしてからの時間は、当該押ボタンの理由による非稼働時間となって、稼働信号がONになるまでの時間を積算するようにしている。
 不良が発生したときは、作業の開始から終了までの間に、いつでも入力できる。
「終了」のキーによって、「終了/中断入力画面」が表示され、当該作業の実績値が示される。これに“0”を操作すれば、内部処理としては、終了時刻が登録されるばかりか、当該作業においてなされた、着手時刻から終了時刻までの時間(機械占有時間)、生産数と不良数から良品実績数、作業者コードから作業者名、非稼働理由のうち段取時間から段取工数、稼働時間から多台持ちの時の配布工数、消費電力量などのロットの原単位ファイルが自動作成されて、製造長のパソコンに送られる。
 ゴムの加工ラインにおいて、ラインを構成する押出機、裁断機、圧延機、巻取機の各段取り時間、稼働時間、電力量とともに、個別実績原価が収集され、製造長のパソコンに表示される。これは、日報として自動印刷されても提供される。

(2)受注生産の組立工数の把握ツール

 機械を用いた加工作業、ラインになった組立作業における原単位把握ツールについてはほとんど前述の方法で把握可能であるが、唯一の例外としてあるのが、受注生産の大型ワークの組立作業である。これは、ワークは一箇所に置かれ、そこへワク組付工、ユニット組付工、配管工、配線工などの作業者が入れかわりに各々の組立工程の作業をして、大型工作機械、大型印刷機、タービン、変圧器、橋、鉄塔などを組み立てていく作業である。
 ここでは、組立の工程進捗とともに、組立実工数の把握が重要な管理テーマである。
 まず当該ワークの製番やユニットの登録をしておく。これによって、当該端末器は当該ワークの専用端末器として定義されたことになる。(端末器1台に複数台のワークを割り付けることも可能だが、操作の都度、製番やユニットの入力が必要になり操作を複雑にしてしまう。)そして、当該ワークの組立工程として、あらかじめ、製造長が決めておいた各ユニットの工程リストが、製造長のパソコンから当該端末器にダウンロードされる。
 作業者が当該ワークで作業する時には、その作業の着工、中断、再開、終了の都度に、工程の選択、作業者コードの入力の操作をしなければならない。また、中断の時は、中断理由を選択する操作をしなければならない。(ただし、複数の作業者の一部が他の製番やユニットの応援のための中断は、応援を受けるワークの端末器から、開始や再開の操作がなされれば、パソコンで作業者の移動を自動認識させることで、当該製番の中断操作を省略できる。)
 このような操作の結果として、製造長のパソコンには、次のような画面で管理できる。現場状況モニタ画面では、各製番のユニットの着工、中断、終了の様子が概観できるばかりか、ユニット作業の状況のウィンドウを開けば、どの工程の着工、中断、終了がなされているかの進捗状況がわかるようになっている。

3.原価圧縮改善のポイント

 このように、ロット毎の原単位が得られたら、次のような各項の分析をしてみればよい。

(1)同一品種のロット別原価の差異

 同一品種を作ったのに、ロット別の実績原価は異なるはずである。その差異がどのくらいにバラつくのか、バラつきは、4つの原単位のどれに影響されているのかを分析すると、品種の特性がわかってくる。

(2)標準時間(ST)と実績時間(AT)との差異

 大量生産をベースにした標準時間は、多品種少量生産の実績時間とは大きな差異が生じているはずである。その差異がどうして発生しているのか追求してみよう。習熟時間、段取時間、調整時間、試し打ち時間なども影響しているはずである。

(3)実績原単位の機械別差異

 機械の性能が原価に影響することは広く認識されているが、各機械の稼働率が機械の償却コストとして影響していることが無視されている。

(4)実績工数の作業者別差異

 作業者の習熟度で実績工数に差異が出ることはわかっている。それ以上に、事前の準備や手順の良し悪しが影響していることが原単位のデータが示している。
 この分析結果からは、作業者への仕事の割り付け計画(差し立て計画)がこれを左右することになることがわかる。

(5)段取工数の前仕事別、作業者別差異

 段取工数は、その前にどの仕事をしたかによって大きく違う。その実態を正確に分析しておくことは重要である。また、段取時間は作業者の知恵と手順によって、大きな差異ができるので、ベストな方法を作業標準として採り上げるなどが大切である。

(6)省エネの差異

 省エネは作業者のちょっとした気くばりでも異なる。しかし、簡単な電源投入シーケンスをシーケンサで行ったところ大幅な省エネになったなど、改善余地はいたるところにある。

4.個別実績原価の重要性

 正確な実績原価がないということは、工場の真の実力をないがしろにしているということである。そして、実績原価こそは、
  1. 見積りの時のベースになる。
  2. 標準工数算出のベースになる。
  3. 経営指数のうち、生産能力のベースになる。
ので、これが不正確なら、見積りも、計画も、経営でさえ、うまくやれるはずがないのである。そういう意味で、現場における原価低減の改善につなげるばかりか、製造業の根本をゆるがす最重要点として、個別実績原単位の計測はおろそかにできないものなのである。


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