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2006.06【特集記事−図説「目で見る管理」(5)】
全員で取り組むための工夫と仕掛け
−管理部門ができること、しなければならないこと−

片岡 緑(本誌編集部)
 
「改善活動は全員参加で行うこと」と説かれることは多い。たしかに、特定部門だけでの取り組みを続けると、「なぜ、ここだけがやらなければならないのか・・・」「他部門はどうしてやらないんだ」といった「やらされ感」が強くなる。これをそのまま放置すると、全体のモチベーションが下がることも知られている。だが、数字で表し、改善結果や成果、さらには経営への関与が見える生産現場に対して、管理部門はどのように展開していけばいいのだろうか。全員参加をごくごく自然に行なっているデンソーの事例をもとに、管理・間接部門での「目で見る管理」の活用方法をみてみる。

●間接部門の「目で見る管理」の難しさ

「目で見る管理」で管理する項目はいろいろある。生産部門においては設備(安全基準や立ち入り区域、部品置き場、投入数、実績など)や人(スキル習熟やラインへの投入数、残業)、原材料や資材(発注点、品質基準、置き場管理など)といった3M、さらに最終的な品質や時間などを管理するのが普通だろう。
これらの管理を一目で分かるようにすることで、品質や納期を確保するのである。ことに管理者が異常に対してアクションを取ることで、企業としてのマネジメントができていくことになる。
だが、管理間接部門はどうなるのか。目標や基準を数字で表現するのは難しい。クレーム処理や営業では本人は100%と思っても上司は70点と評価し、顧客は40点と感じることもある。一つひとつの業務が社内サービスになる総務部門にいたっては、何を管理項目にしていくかを決定するのも難しいかもしれない。それは結果だけでなく、プロセスを追いかけなければならないことや業務内容が定型でないためイレギュラーな処理も多く、同じオーダーでも標準化されていないためでもある。
しかしながら、それは管理間接部門が何も活動に参加しなくていい理由にはならない。そこで、標準化とルールをつくり、そのルールを徹底するとともに、そのルールが守られていることが分かるような管理方法を採ることになる。

●移動線確保し、すぐ分かる社員食堂でも

「目で見る管理」を応用
デンソー高棚製作所での事例を見てみよう。
どこにでもある社員食堂の事例と会議室の予約の仕組みだ。
同社の食堂はカフェテリア形式がとなっており、各人が好きなものをチョイス、好きなだけ食べる。社員カードにはICチップが入っているのでこれらは自動計算される。食堂は室内のテーブルだけでなく、気候のよいときにはオープンカフェも活用できるようになっている。
こうした社員食堂の仕組みは現場の工夫というよりも、企業姿勢であり、福利厚生施設に対する投資でもある。
では、ここを管理するセクションは漫然とこの運営だけをしていればいいのだろうかといえば、そんなことはない。
食堂の横には手を洗うための洗面台が配置されている。一斉に食事の時間になるため、この洗面台の数かなりの数だ。そこに設置された液体石鹸に注目してほしい。グリーンとピンクが交互になっている。ピンクは重金属(鉛)扱い者用、グリーンは一般用だ。色が違えば、自分がどちらを使うべきかが一目で分かる。しかも、これが交互になっているところがミソで、一方側の壁にのみピンク、片側にグリーンとなってしまうと、2カ所の入り口から入ってきた人がそれぞれの場所へいくために移動するので、動線が混乱する。両サイドの入り口に対して、それぞれに配置することで、動線が混乱することなく、列もできない。
これが、色での区別がなく、単純に交互に設置、「鉛使用者用」と紙にかいて張り出したとしたらどうであろうか。動線は混乱しないが、昼食時に手を洗うときには急いでいるケースも考えられる。うっかりして、間違えて使用してしまうこともあるだろうし、水しぶきが飛びやすい場所であるだけに紙が汚れやすい。その都度、張り替えたり、補強したりするのは工数がかかる。
しかも、美観という点からも掲示物はあまりお勧めできる方策ではないだろう。

図


●「おーい、だれか鍵を持っていったか?」

会議室管理の意義
かつては、総務部門に依頼して場所を押さえていた会議室だが、最近はイントラネットで予約ができる企業も多い。自席から手元のパソコンでできるメリットは大きく、顧客との打ち合わせの電話をしながらでも予約ができるので、うっかり会議室を取り忘れたといった事態を回避できる。
他方、厳密なところでは総務部門での収入としてカウントする場合もあり、こうしたケースでは管理はその部門の担当者ということになる。
では、イントラネットもなく、総務部門での収益として換算しないときにはどうするのか。これはもう、予約表を貼り出して管理するのが一番いいだろう。
会議室名、日時、主催者、その連絡先(たいていの場合内線番号とメールアドレスになるだろう)を誰もが見える、分かりやすい場所に明示し、直接記入し、管理していく方法だ。
こうすれば、使用するためにその会議室に入っていったら、先客がいたといったダブルブッキングも未然に防げるし、プロジェクタや通信環境などでどうしてもその会議室を使用しなければならないときには、主催者の連絡先を見て、交換をしてもらえないかといった交渉も行える。
さて、昨今のセキュリティ対策から会議室は通常施錠してある。社員証に組み込まれたICチップなどがキーになる場合は問題ないのであるが、物理的な鍵が必要な場合、会議室そのもののと鍵という2つの異なる管理事項がある。
会議室はスケジューリングだが、鍵はだれかが持っていったままになってしまうこともある。施錠して忘れてしまう場合もあれば、施錠せずに中においてきてしまうこともあるだろう。
それを防ぎ、なおかつ、会議室を使用しているのか否かが分かる、しかも、会議室の稼働状況までもが分かるのがこの仕組みだ。ノートをいれてあるのは木でできた棚。一つの棚に1会議室分のノートが入っている。このノートには予約状況が書かれているのであるが、それとともに鍵も一緒になっている。まさか、ノートごとポケットに入れることはできないので、鍵が行方不明になることを防ぐことができる。しかも、このノートは会議終了後、必ず元の場所に戻さなければならないので、鍵も戻ってくる。
一方、このノートがないときは誰かが使用していることになる。
社員食堂の例、会議室管理の例。ともにありふれた道具立てであり、目新しいものではない。アナログであり、すぐにでも取り入れられる工夫といってよいだろう。全員参加という掛け声はいいが、それを実行するのは難しい。しかし、これが根付き、当たり前のこととしてごく自然にそこにあるところに、企業文化があるに違いない。


今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫氏)
7 月13日 トヨタ自動車工場見学セミナー
11月21日 デンソー工場見学セミナー
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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