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2006.11【特集記事−図説「目で見る管理」(9)】(最終回)
色分けもアンドンも取り付けるのは簡単だ
しかし、運用は難しい

片岡 緑(本誌編集部)
 

これまで8回ほど、各社の「目で見る管理」を紹介してきた。きっかけは「見学セミナーに参加して工場の中で見ても、気づかないことが多かった」「そういうことをその場で教えてほしかった」といった声にこたえることだった。たしかに、工場見学セミナーでは一定のコースを時間にしたがって、見学しなければならないため、見逃してしまったり、気づかなかったりといったことが起きやすい。ましてや、他社の初めていった工場では生産の流れがすっと入ってくるものでもないだろう。さらに写真撮影が禁止されているので、記録することも困難。だが、他社がやっていることは参考になることが多い。そこで、最終回は他社の「目で見る管理」の見方とそれを自社に展開するときの留意点について考えてみる。

●運用の難しさ 技能・技術、仕組み編

「目で見る管理」は取り付きやすいテーマである。アンドンや表示板などの道具立てが目に見えるからだ。
たとえば、第1回で紹介した各工程を10等分し、ラインテープで数字を表示、作業開始と終了を示す時間の見える化。この見える化は自分の作業の進捗が分かり、ペースがつかめるとともに、ここまでで作業が終了しなければ班長を呼ぶといったポイントも明示することでラインの停止を少なくしている。テープを貼る作業やそこに数字を記入することなど、1日でできてしまうかもしれない。
ところが、このテープの数字は単なる数字ではないところがミソだ。綿密な作業分析による作業時間の配分、次工程に負荷がかからず、できる限りラインストップが起こらないためにリリーフに入るタイミング、そこでリリーフに入る人の技量、部品や工具の準備など、すべてが整っていて初めて機能するのである。
アンドンもしかり。部品や材料補充を促すために黄色のパトライトを活用しているのがデンソー高棚製作所。稼働率を上げるために、停止する前に信号を発信する。それを受けた作業者が補充することになっているのだが、材料置き場の5Sができていなければ、材料を探している間に、パトライトの色は停止を意味する赤になってしまうはずだ。しかし、現実にはそれは起きない。

●運用の難しさ 教育・モチベーション編

仕組みや技能、技術が整っていればそれで万全かといえばそんなことはない。 もっとも関係するのがそこで働く人のモチベーションやモラールである。たとえば、発注点管理。目で見る管理では発注点になったら、発注伝票(カンバン)をはずして所定の箱に入れるなどのアクションをとる。これは全員がこのルールを遵守することが前提で成り立つ仕組みである。
「この忙しいのに、わざわざ行ってられないよぉ。後でやるから、そこに置いておこう」
「1個くらい下にしても分からないから、ごまかしちゃお」
「出てきてしまったけど、見なかったことにして、次の人に任せよう」
「これ、何?何の説明も受けていないから、そのままにしておこう」
などといった人が一人でもいると機能しない。
守りやすい仕組みややり方、システムを構築すると同時に、全員がルールを知り、それを守る風土を醸成していかなければ、「目で見る管理」で実効をあげていことは難しいと解されるだろう。
正社員、請負、派遣、アルバイト、パートと複雑な雇用関係があると、だれにでもすぐに分かる「目で見る管理」は重宝である。ことにゾーン表示や危険箇所、消火器の設置場所などの安全に関することや作業の重要ポイントを図解や写真入りで分かりやすく表示するのは有効だ。
しかし、それを仕組みとして根付かせ、マネジメントツールとして活用していくとなれば、全員が参加し、ルールを守るためにもう一工夫が必要だ。技能・技術や全体の仕組みと同時に管理者が社員教育やモチベーションについても考えていかなくてはならないのである。
ちなみに、トヨタ自動車の班長は通常出番がない。ひもスイッチが引っ張られ、アンドンが点灯したときのみ、リリーフに入ればいいからだ。つまり、その工程内がみえるどこかにはいるが、通常業務としてのライン作業は持っていない。班長は技能、技術力はあるが、それをもって、日ごろの業務とはしていないのだ。
では、彼らは何をしているか。改善の知恵を出したり、マネジメント業務をしたりもするが、自らの現場を掃除している。
職長が自分が作業をしている横でモップを持つ姿を見て育てば、自然にその考え方が刷り込まれる。自らもそうしようと思うだろう。こうして5Sの基本がDNAとして根付いていく。

図


●より見学セミナーを活用するには

当初は、工場見学に惜しくも洩れてしまった方や見落とした箇所を絵で解説しようと始めた連載だが、今回が最終回になる。長い間のご愛読を感謝するとともに、今後の工場見学に際してのポイントをいくつか挙げておきたい。

(1) 事前の準備で深さが変わる
集合時間、解散時間とその場所の確認はもちろんだが、1日で2工場を回るなど、工程によってはかなりハードなスケジュールで動いている場合がある。理解、納得の上でのご参加を。
また、案内にはどんな工場か、あるいはどういうポイントかなどがかかれているので、参考になることも多い。行き先によってはその企業のHPで工場紹介などをしているケースもあり、これを事前に見ておくと現場にいってもかなり違うだろう。

(2) エッセンスを取り入れる
「目で見る管理」や5Sなどのツールを見て、「どこで入手できるのか」「いくらか」といった問い合わせをいただくこともある。また、その表示が意味することは何かといった質問も多い。
が、実際のところ、それをそのまま活用するのは無理がある。たとえば各種表示。トヨタの工程ごとの表示などは工程特有の意味があるものが多い。もし、取り入れるのであれば、エッセンスを活用し、自社のオリジナルを作るくらいの気概を持たなければ難しいだろう。
6回目で紹介したデンソー安城製作所では「常温」をアンドンに表示している。無人工程での温度を知るものだ。通常ならば表示する必要がないが、高温工程を持つ同製作所にとって、その区別は重要である。しかも、無人化された構内で外から知るためにはこうした表示が機械の稼働状況とともに表示されていることはメリットになる。
エッセンスをとりいれながら、自社では何をどのように表示したらよいのかといった目的意識を持つとかなり変わるだろう。

(3) できれば複数の目で
工場見学は安全確保の目的から決められたコースを案内にしたがって歩いていく。そのため、見落としや見逃しも多くなる。しかも、現場のあちこちがポイントになっている。右方向の表示板とその対応策をみていたら、左にあった工程の表示にきづかなかったということもままある。7回で紹介したトヨタのダンボール表示板などがその好例だ。右手に通常の生産ライン、左がオフライン作業だ。この左サイドの工程内不良解析作業の表示がダンボールとビニールテープで表示されているというものだ。コストをかけずに目で見る管理がされている例としてあげたが、この工程で左を見る人は少ない。
そこで、参加者同士の意見交換の場などもできる限り設けたいとは考えているが、時間の制約も多い。複数で参加し、話をしながら、あるいは問題を共有しながら現場を見ることで、得るものも多い。視点が異なることで、さまざまな情報が得られるメリットもある。さらに、自社で展開するときに一人で行うよりも、2人以上の方がやりやすいことも書き添えたい。

というわけで、ささやかなアドバイスと御礼を申し上げて最終回としたい。


今後の工場見学の予定
●2007年1月19日  トヨタ自動車&矢崎化工(愛知県)
 「現場力をアップさせる仕掛けづくり」 野嶋康則氏
●2007年1月30日  デンソー・高棚製作所(愛知県)
 「目で見る管理と5S」 高原昭男氏
●2007年2月2日   トヨタ自動車&日産自動車(福岡県)
 「TPS&NPW売れに合わせてつくる戦略」 真嶋一郎氏
●2007年2月22日  ローランド ディ.ジー.(静岡県)
 「品質確保、高効率のためのデジタルマネジメント」 滝川一典氏

以上は予定ですので、変更がある場合がございます。お申し込みの際には再度ご確認の上、お申し込みください。また、定員に達したセミナーにつきましてはご容赦ください。


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