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【短期連載 「技術の社会化」試論】

「技術の社会化」試論
 T.―技術の公共性―

放送大学大学院選科生 山城 隆  
 

1.‘技術’の二つの道

‘技術’は、有史以来文明の原動力となりました。本稿は近代、現代「技術とは」についてパラダイムの転換を試みているので、批判を免れないのを承知の上で問題提起をします。
技術は、科学・文明とともに現代から未来永劫に発展することを誰も否定しないでしょう。
就中シュンペーター(1883〜1950)は、innovationによって資本主義社会は、持続可能であろうと予言しています。彼の造語innovationの本来の意味は、創造的破壊のことですが、技術革新と訳されています。将に技術革新によって資本主義社会を持続している現実を目の当たりにしています。また文明とともに伝承されてきた技術なしには、技術革新だけでは、市場原理に依拠した商品をつくることもできません。産業革命以後‘技術’が社会に及ぼす影響は、計り知れません。
ところが技術自体の取引は、こんにち多くなりましたが、技術の権利保全の枠内のみで可能です。大多数の技術は、商品、製品、半製品に活用されて取引されているのが実態です。技術革新を加勢している技術は、1特許で保護され、ノウハウは、守秘義務で法的に保護されています。技術は、一方で現状として(1)私有財の範疇に入っている法制度とは別に、他方2過去から伝承されてきた技術も存在します。それらは、私的財産ではありません。むしろ技術の伝承は、社会に不可欠な命題です。1と(1)以外の2の技術は、公共財の範疇に入るとの私見です。公共財は、伝承しなければならない(2)社会的使命に値する技術と考えます。‘技術’には二つのカテゴリーがあります。1の特許が時効になり、ノウハウも伝承されるようになると、その‘技術’は、将来(1)私有財から(2)公共財若しくは混合財になる二つの道があると考えます。
そこでパラダイムの転換として技術は、私有財から混合財(私財と公共財両方の役割)もしくは公共財の概念構築を提唱することが本稿の目的です。

2.「技術の社会化」を提唱

資本主義社会は、私有財産の蓄積を是としてきたので、発展してきました。資本の本源的蓄積を激増させたのは、技術革新により付加価値をあげ、企業が利益を得たからです。
この資本の論理は、冷戦終結後から21世紀に世界を変える「天下の宝刀」になりました。
この論理のみ蔓延すると、「コモンズの悲劇」が待ち受けています。(07.1.14.東京新聞社説)
紙数の関係で何が悲劇かを2回目のテーマで解説し、コモンズを簡潔に説明しますと英国の農民が慣習的に共同利用してきた共有地とその仕組みのことです。我が国でも「入会権」(公共圏)としていまも残っています。近代以前のイギリスでコモンズは、農民の共同利用地だったのですが、大土地所有者の「囲い込み」で私有地にされ、農民が土地を奪われ、彼等が都市に出て、手工業の低賃金労働力となり、後の産業革命で労働者階級となったのです。
近代社会で土地の私有権を法制化したことと、現代‘技術’の私有権を法整備でガードすることと関係がないように思われるでしょう。この疑問にヒントとなる事例を挙げます。
シンガポールは、約60年前英国の植民地であり、英国流の「土地は究極に国家に属する」という理念が広く受容れられ、1959年自治権獲得後、国は、土地収用(強制的取得)を積極的に進めました。現在国土の9割が国有地になっており、民間には、借地権(90年間が多い)のみを譲渡する形をとっており、所有権は依然国家に帰属しています。
土地は、広義のハードであり、‘技術’は、広義のソフトです。ハードである土地を公共財としているように、ソフトである‘技術’を社会の仕組みを変えることによって、徐々に公共財にするパラダイムの転換が可能ではなかろうかと、シンガポールの土地制度を引き合いに出したのです。シンガポールの国による土地収用には、賛否両論あると思われます。
しかし淡路島ほどの面積で私的所有を放任にしたとき、こんにちのシンガポールの繁栄は、無かったと思います。土地は、「誰のモノでもない理念」が、国家の百年の大計を可能にしたと考えます。私見は、本稿でシンガポールの社会政策を論じる目的ではありません。
本題の「技術の社会化」を提唱する大きな目的は、コモンズの悲劇が、グローバルに起っていることを指摘し、‘技術の私有化’を特許等の私的権利が時効になった時点で、公共財※1とするか、混合財※2とするかによって、そのメリットとデメリットを有識者にご検討をお願いすることです。
技術は、ほとんどa.商品、b.製品、c.半製品、d.機械、e.装置の中に宿っているので、a.b.c.d.e.に活用された技術を公共財にすることは、社会にメリットもないし、不可能です。
a.b.c.d.e.は、ソフトとしての技術に分解すると、A.要素技術、B.固有技術、C.管理技術、D.情報技術等が混在しています。伝承可能な技術を公共財か混合財にする提案は、A.B.C.D.フ基幹技術に限定することを懸案としています。基幹技術を公共財にする方法としては、
  1. 科学技術政策によって、A.B.C.D.等の基幹技術を標準化し、分類すること。
  2. 1)を専門とする機関によってA.B.C.D.のカテゴリー別のデータベースをつくり、それらの集積が、膨大になれば、百年の計としてア―カイブにし、全国どこからでも検索できるシステムをつくること。
  3. 最初からアーカイブは、英語と日本語でつくり、英語では、グローバルな視野で構築すること。
このような‘技術の社会化’を科学技術政策として百年の計とすると、いま世界的に進行している技術における知的財産権の「囲い込み」を緩和して、「囲い込み」の触りの部分で公開可能も視野に入れるとリナックス効果に拍車がかかり、技術者によるタスクフォースを、ネットワーク化することが可能になることを期待しています。

次回は、‘技術の社会化’の理念を二つの側面から例示したいと思います。(つづく)

※1 公共財=消費における非競合性と非排他性の二つの特性もつ財のサービス、例 灯台等
※2 混合財=公共財の二つの特性を満たさない財、例 有料道路(弘文堂政治学事典315頁)

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