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【新連載:ユダヤ人の発想に学ぶ4】 イノベーションについての再考
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昨今、日本企業の理工系部門ではイノベーション症候群にかかっている人々が多い。何か新しいことを発明発見しなければ、技術者でないかのような強迫観念にとりつかれている。ユダヤ人はその3000年以上の歴史をイノベーションによってくぐり抜けてきた。だが、それは肩の力をぬいて、ごく自然に周囲と共存する中から、結果的に実現しただけのことだ。人々の生活のニーズに応える努力。それがイノベーションを生むのである。 1.景気の波動とイノベーション我々は様々の文明の利器を駆使し、その恩恵のもとで生活している。文明の発達とは、いいかえれば技術革新、すなわちイノベーションの歴史に他ならない。たとえば第2次大戦以後の世界の主なイノベーションには、原子力、コンピュータ、半導体、人工衛星、インターネット等がある。日本人の発明で、なおかつ日本人の生活に多大の便利さをもたらしたものの代表格は、日本語ワープロ、カラオケ、非接触型情報チップ等があげられる。 イノベーションに関して、かつてソ連の経済学者コンドラチェフは、景気の長期波動の下降期に重要な技術上の発見・発明が行われ、次の上昇期に開花すると指摘した。だが、厳密に科学技術史を点検してみると、彼の説は必ずしも正しくないことに気付く。なぜならば、景気上昇期にも新しい技術上の発明発見はなされているからである。 例えば、フルトンの汽船の発明(1807)は、スチーブンソンの蒸気機関車の発明(1814)は、まさにコンドラチェフが観察した第1の景気の山(1814)と同時期の好況期である。第2の景気の山(1873)に向かう上昇期の途中で、マックスウェルの電磁理論の発見(1864)、ノーベルのダイナマイト発明(1867)がなされている。 2.イノベーションの実態但し、どのような技術でも、マクロ経済に影響を及ぼすほどの規模に成長するには、平均すると約20〜30年を要する。例えば、1837年から39年にかけて欧州各地で鉄道が開通しているが、これは英国の鉄道開通から20年以上も後のことであった。市場の必要度が高い技術だと、もっと短い期間に普及する。1837年モールスが実験に成功した電信は、1844年に米国のワシントン・ボルチモア間で実用化し、1849年には欧州のベルリン・アーヘン間、50年にパリ・ベルリン間、1851年英仏海峡海底電信の開通と、短期間で次々に回線が伸びていった。1871年には長崎・上海間にも海底電線が開通している。グローバルに電信が世界のインフラに定着する迄には、やはり30年はかかったわけだ。 1946年に発明されたコンピュータの場合も同様であった。当初は軍事や官庁、大企業の道具だったが、1975年頃にパソコンが登場してから、徐々に中小企業や一般大衆を巻き込みはじめ、90年代後半になってやっと急速にコンピュータが広く普及するようになった。 つまり、新技術が産業経済の構造の一部となり、なおかつ一定の市場を形成するようになるには、景気の長期波動の山と谷をまたぐ程の時間がかかることは避けられないわけである。しかも、景気の後退期には、消費も設備投資も縮小し、既存設備だけに依存する経済形態となるから、あたかも新技術が経済の牽引役をしていないかのような印象を与える。だが、新技術は景気変動の如何にかかわらず、つねに社会の舞台裏で誕生し、成長中なのである。 3.イノベーションと文明イノベーションについて考えるさいに、もっと重要な点は、イノベーションが文明の発達と密接な関係を持っている以上、イノベーションもまた、文明の志向する目的にそって発展を積み重ねてきているはずだという考察である。周知の如く、19世紀前半に迎えた経済の活況は紡績機と蒸気機関の発明によって支えられた。19世紀後半の経済の拡張は鉄鋼の大量生産と鉄道網の発展によって支えられた。20世紀前半の好況は化学技術の発達と電気および自動車の普及によってもたらされ、20世紀後半の繁栄は石油化学、医薬品、コンピュータおよび半導体の飛躍的進歩によって実現した。 この発展の様子を仔細に観察すると、次の事実に気が付く。 すなわち、経済を支えるイノベーションの体系は、エネルギー利用の原理とその用途形態が根幹にある。動力が人力や馬力から蒸気力になったことによって産業の発展がまず加速された。だが最初は動力が固定されていた。それが鉄道によって可動性の動力となり、さらに自動車によって、有限軌道を脱し、自由に目的地とコースが選べる移動性の動力となった。電力網の発達もまた動力の配給や移動をいっそう容易にした。そして20世紀後半になると、エレクトロニクスの進歩によって、日常生活の用具の部品にまで電気が組み込まれるようになった。また、石油を原料とする様々の有機化合物が、従来の素材を駆逐し、素材革命が発生した。 我々の身辺に氾濫している化学製品というのは、いわばエネルギーがそのままメタモルフェー(変容)して物質に置換されたものである。現代文明を代表するコンピュータに至っては、エレクトロニクスと化学技術の融合によって実現している。そういう意味で、現代とはエネルギーが遍在する文明と特徴づけることができよう。 以上を整理すると、19世紀以後のイノベーションは、次の4段階を経ていることに気付く。 19世紀前半:(1)固定式動力機関の開発による大エネルギーの実現(蒸気機関の発明) 19世紀後半:(2)可動式動力機関の開発(鉄道、蒸気汽船の発明) 20世紀前半:(3)移動式動力機関の開発(自動車、電気・ガスの普及) 20世紀後半:(4)エネルギー源遍在の開発(石油化学製品、バッテリーの高度化) こうして歴史を概観すると、技術文明の隆盛を誇ってきた過去2世紀間のイノベーションは、勝手気ままな個々の発明の集合ではなく、エネルギーの固定→可動→移動→遍在という一連の合目的な展開であったことに気付く。 4.イノベーションの方向もし読者諸賢が、イノベーションのこの合目的性を承認してくださるのであれば、今後イノベーションがどのような方向に向かうかの予想も可能になる。現在の問題は、エネルギーが遍在しているものの、地球全体で見た場合も、また各地域単位で見た場合もその利用形態がバラバラで、なおかつ効率よい体系には統合されていないことである。ということは、今後のイノベーションは「遍在→統合→新秩序形成」という方向に向かって発展することが予想される。 さしあたって、次の半世紀のイノベーション・テーマは「統合」であろう。 コンピュータ分野で次々に実現しているIT革命は、まさしくその象徴である。情報・通信・取引・教育・娯楽などが様々なメディアがネットワークで統合一元化され、民生の効率化に大いに貢献している。 バイオ技術も医薬品と化学とを統合する。遺伝子工学が農業と食品製造業および流通業まで統合する。 かたや、マイクロマシンが医療と機械工学を統合し、宇宙工学が通信・交通地球探査・エネルギー供給・素材開発などを統合する。教育や文化の領域でも相互に知の技法が交流することが期待される。 5.21世紀の世界とその方向もっか世界各地で民族紛争が激化しているが、見方を変えれば、これは経済の統合へ向けての前段階としての民族主体性の確立行為なのかもしれない。すなわち世界の歴史は、19世紀にはじまった前近代的な帝国主義的統合から、20世紀にいったん列強が押し付けた人工的国境という統合を経て、いまや民族単位に再統合しようとうごめきはじめている。 現在の混乱の後に、やがて各民族の主体性が確立されれば、次に民族相互の承認と尊敬、そして融和共存という段階へ進むのではないだろうか。 その前触れとして、ヨーロッパでは欧州各国が試行錯誤してEUという先駆的な地域経済圏を整備しつつある。 中東やアフリカ地域などにおけるもっかの混乱は、人間の自意識レベルでは闘争であるが、人類の深層意識レベルでは、人類という種の保存本能がめざしている「種の統合」という目標への1過程なのかもしれない。 こういう今後の文明史トレンドの下では、自分の所有権だけを独占的に主張する技術は、人々から受け入れられなくなる可能性が高い。むしろ、最初から社会全体の受益を目標において技術開発を進める緩やかな統合システムが歓迎されるようになる。 現在世界で注目されているコンピュータOSのLinuxなど知的所有権がオープンなソフトが歓迎されているのは、まさに、そういう社会的ニーズに応えているからである。 21世紀には、技術と研究と文化と人とのインターラクティブを目標にして、既存の生産および生活システムとの融合度を高め合う思想が重要視されるようになる。 6.あなたへの課題では、どのようにすればイノベーションは可能になるか。マーケティング学の異彩、ハーバード大学のセオドア・レビット教授は、ユダヤ人移民の子として、高校時代は新聞記者をしながら夜学に通った。彼は市民の目線から物事を見る習慣が身についていた。だから、分かりやすい編集であれば、学術雑誌でも部数が伸びることを確信していた。そこで、『ハーバード経営学評論』という学術雑誌に、挿絵や漫画を採用し、飛躍的に発行部数を伸ばした。 彼は、「イノベーションとは、業界や会社で今までに以前に誰もしたことがないという新しさ」とに定義している。 簡単にいえば、何か新しいことを考えるのがイノベーションではないのだ。既存の方法や手段でも、あなたの会社や工場で今までに一度も使ってみたことがないものを導入して、それで仕事の成果や効率が上がれば、それで立派なイノベーションなのである。 古い道具箱をひっくりかえす勇気からイノベーションは始まるのだ。そして、人間生活のニーズに対応できる技術や機能だけがイノベーションとして残っていく。これは、文明というメカニズムが根源的に備えている選択である。それを自覚している者だけが真のイノベータになり得るのである。 |


