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【新連載:ユダヤ人の発想に学ぶ9】

アメリカ情報会議報告書から学ぶ
手島 佑郎  
(ギルボア研究所所長・ヘブライ学博士)  
 
米国には「国家情報会議(National Intelligence Council、略称:NIC)」という機関がある。世界の展望を中・長期的に予測し、今後15〜20年間にわたっての世界の政治情勢の予測を網羅した「国家情報報告」と、より短期的な「国家情報評価」とを作成し、米国大統領に報告している。NICはあえて米国政府への批判もするし、米国をとりまく世界情勢についても辛辣かつ過激な予測を辞さない。

1.2025年の傾向予測の要旨

昨年11月、NICは「2025年の傾向予測、変わり行く世界」と題する公開予測を発表した。
その冒頭で、NICは次のように述べている。
「今後15年間に世界の出来事に大きな影響に発展し得る潮流についての観測である。これは占いではない。我々は、ここに連続的に予測できる可能性だけについてではなく、連続しない事柄についても考察した。さもないと、そうした出来事が起きたときに見逃すかもしれないからだ」
とかく日本の識者は、現在の出来事の延長線上、それも、とかく右方上がりの放物線上に将来を予測しようとする。だが、NICは連続線上だけではなく、不連続の場合についても予測しようとしている。
同予測によれば、現在の世界は大筋で次のような可能性をはらんでいる。
  1. 経済のグローバル化などにより、2025年には第2次大戦後に構築された米国中心の国際秩序はほとんど姿をとどめていないだろう。
  2. 米国が経済、軍事面で相対的な優位を維持するものの、中国とインドが多極化時代の新たな大国として米国と影響力を競い合う存在になる。
  3. 中国は今後20年間、他のどの国よりも影響力を強める。2025年までに中国は世界第2の経済大国になり、軍事力でも世界をリードする存在になる。
  4. BRICと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、新しい役者たちが、国際舞台でG7などの先進国と一緒の席につくようになるだけでなく、彼らは国際的な駆け引きに新しい利害関係と規則をもたらす。
  5. 石油に代わる新エネルギーの技術が確立している可能性が高い。
  6. 世界の人口が現在の66億人から、さらに15億人以上増加し、その経済成長が、資源、とりわけエネルギー、食物、水に関する需要圧力に供給が応じきれない欠乏を生む。
  7. 中東地域全体の各地で、政治的不安定さのために、いっそう対立への可能性が増す。
  8. 世界各地に分散した複数の金融センターが、世界金融システムの衝撃を吸収する。
  9. 核兵器開発競争がいっそう激化し、地域的に核戦争が起きる可能性もある一方で、自衛のための核兵器所持が常識になるかもしれない。
  10. 朝鮮半島では、2025年までには南北国家が統一される可能性がある。だが北朝鮮が核兵器開発計画を完全に放棄しているかどうかは不確定要素だ。

2.予想される2025年の日本

では我々の日本はどのようになると予測されているか。
まず、日本は現在と同じ「中の上」程度の国際的地位を維持するが、高齢化など人口構成の変化から日本には政治、経済システムの変化が押し寄せ、自民党の1党支配の時代は完全に終わりを告げるだろう。さらに、米中の経済力や戦略の影響を受け、外交戦略の見直しを迫られ、4つのシナリオが考えられる。
予測1) 中国の経済発展が続く。日本と中国の対立が深まり、日本が米国に近づく。また韓国と日本の地域同盟や多国間の同盟が形成される。
予測2) 中国の経済成長が挫折するか、その政策が地域の国々と敵対する。その結果、日本が影響を発揮して東アジアの民主国家の同盟を作ろうとする。日本は米国の支持で、中国の影響を封じ込めるための政治・経済フォーラムを作ろうとする。
予測3) 米国の日本に対する安全保障供与が弱くなったか、日本がそれを弱いと感じる場合、日本は中国に近づき、中国が実質的に日本近辺の太平洋の安定を維持する。
予測4) 米国と中国が、地域の政治的安全保障的な協力を強め、アジアにおける中国の軍事的役割が高まり、米軍の再編または撤退がなされる。日本はその結果、中国に近づく。

3.「グローバル・シナリオ2025」の作成

ところで、この「2025年の傾向予測、変わり行く世界」の土台になっているのは、NICが昨年2月に発表した「グローバル・シナリオ2025」という分析報告である。
まず40ヵ国から200人以上の専門家・研究者が参加して、さまざまな分科会を編成した。
そして、どのような戦略や条件が考えられ得るのか? 他にも未来図となるものが考えられ得るのか? そういう疑問の態度で未来予測を始めた。
まず昨年1月に、検討すべき世界規模の不安定要素の課題として、社会問題、技術、経済、環境、政治など60項目を拾い出した。そのシナリオをカナダのバンクーバで開催されたグローバル未来研究会年次例会の各分科会で検討し、さらに昨年6月にワシントンでシナリオ承認委員会でも審議し、別の機関に委託したエネルギー需要モデルと合わせて、最終的にデンバー大学の国際未来研究チームがまとめたという。
課題と取組む研究者を多人種で構成し、さらに討議の場所や環境を変えることによって、同じ場所で同じメンバーで討議するよりも、議論の結果により客観性を持たせようとしたのである。

4.シナリオ2025から学ぶ課題の検討方法

NICがこのシナリオを作成にあたって、3つの場合を想定して、未来を予測し、なおかつ、それぞれの場合の対応策についても考えたのであった。
  1. 第1に、現在の延長線上で考える。
  2. 各国・各民族が自己の利害だけを優先し、自己中心に分裂した世界の場合で考える。
  3. 最後は、米国自体もふくめて、世界各国が理想的な歩み寄り、継続的革新が行なわれる場合である。つまり、求められるべき対応策である。
さらに、それぞれの想定の場合、2009年から12年にかけて、2013年から21年にかけて、21年から2025年にかけての状況想定が描かれている。
参考までに、安全保障環境の要点だけを紹介しておこう。
●現在の延長線上でいけば世界の安全保障は?
・ 安全保障協力が、「友好的」国家間に限られている。
・ 長期のイラク駐留が事実化し、テロ監視が続く。
・ 長期的安全保障問題、エネルギー安全問題についてグローバルな合意に至らない。
●分裂した世界の場合、安全保障は?
・ 国連安全保障理事会は、新しい原子力保有国(例えば北朝鮮、イラン)への非難を拒否する。
・ 大規模なバイオ攻撃を含む頻繁なテロ攻撃の勃発 安全保障上の真の関心事となる。
・ 資源競争の火花と対立を受けて、カナダ、ロシアとアメリカ合衆国が北極圏の領有を主張し、軍事的脅威になりかねない。
●継続的革新ができれば安全保障は?
・ 地球的規模で効率的に安全保障を話し合う。
・ 安全保障は、世界全体の集合的問題と考えられる。
・ 新しい地理的統治の骨組みの出現ともに、新しい形の安全保証同盟が成功する。
・ 環境問題に関係する人道主義の危機が、国際的関係システムを凌駕する。

5.シナリオ2025の描く日本

筆者は「シナリオ2025」が日本に言及している箇所を丁寧に読んだ。そこに描かれている日本像は、もっぱら中国と対立するジャパンである。日本が同盟国だと思っているアメリカが自国の国益を中心に見るアジアの中の日本は、およそ現代のふつうの日本人が想像もしない姿である。
  • 領土の問題を含む中国と日本の間の緊張は鋭いまま残る。
  • 中国の海南島の最南端の三亜(サニャ)中国海軍基地は、中国の隣人(インドと日本を含む)と太平洋を隔てた米国の神経を尖らせている。2007年にはここへ原子力潜水艦が移動したことが、偵察衛星で確認されている。
  • そのような海軍の増強は、北東アジア地域周辺の関係国々にバランス上で無言のうちに軍備拡大競争へと刺激する。とりわけ、日本が核兵器開発していると思われる。
  • この海軍競争は自動的対立にはつながらないが、両国海軍の間で共通の交戦規則の理解がないまま、事故または意図的でない遭遇の結果、海上での危機と対立が発生し得る。
  • 2022年〜2025年にかけても、引き続いて日本は低下し、閉鎖的な国である。東京と北京では、中国で日本の大使館は、両方の暴徒によって放火される。

6.日本に明るい未来が開けるには

NICのシナリオを読むと、日本に関しては最悪の場合しか想定していないように見える。では、どうすれば日本は中国やアジアと共存できる国になれるのか。
  1. 安全保障理事会の根本的刷新がはじまり、常任理事国の定員枠が広げられ、例えばインド、日本が常任理事国に仲間入りし、なおかつ常任理事国のよる拒否権発動は廃止が計画される。
  2. 新しい国際環境の上部機構としてG-8に中国、インド、ブラジルを加えた新組織を作り、メンバーとして行動に責任を持たせる。
  3. ヨーロッパ、米国と日本の会社は、大学など研究開発に資金提供を増やす。
ここに描かれている日本像はあくまでもNICがアメリカの視点から組み立てた未来予想である。
だが、上記1)、2)、3)は日本が世界に貢献するために必要な条件であることを日本自身が声高く主張すれば、実現可能なことだ。
ちなみに、NICのこの未来予測プロジェクトの中心的メンバーは、NICのポール・ハーマンなど4人のユダヤ系研究者たちである。


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