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【新連載:MOTリーダーの条件 〜情報マネジメントが開く経営者の世界〜1】

ヒット商品を生む「もうひとつの技術」
〜経営成果をあげる情報マネジメント〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
未曾有の経済危機と言われている最近でも業績の良い会社の例に、ユニクロがあげられています。この会社の快進撃(注1)を支える商品開発を率いているのが女性であるということでさらに話題性が増幅しています。

■女性がヒット商品をプロデュース

女性用のトップス「ブラトップ」を開発からヒット商品に育て上げたリーダーであったこの方は、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」(日経ウーマン)の大賞に選定されたのです。授賞式の挨拶では、このヒット商品について、何度も商品開発をやり直したチームのメンバー、販売に携わった人々、購買客のお陰であると述べたと言います(注2)
某テレビ局がこのことを取材し放映していたので視聴もしました。このようなヒット商品を生み出すことが出来た理由を考えてみると、以下の2つをあげることができると思います。
  1. 新商品の発想を社員に求め何度もつくり直したこと。
  2. 単なる商品製作(ものつくり)に終わらせず販売部門まで取り込み部署横断的な活動(プロジェクトともいうべき)を成功させたこと。
良い物をつくっても売れるわけではない、しかし、良いものでなければ(継続して)売れないのもまた現実です。つくることと売ることは一見、別のもののように見えます。
しかし、この成功例からわかることは、経営成果(ヒット商品)を出せたのは、「ものつくりの技術(注3)」と、それ以外のマーケティングや販売など「経営機能や技術およびプロセス」とを連携させ、一体となって活動させることができたからではないでしょうか。

■グーグルの商品開発の背景

もうひとつ、違う業界の例をあげてみましょう。IT業界の雄といわれるグーグルの例です。この企業では、博士号を持つ学生を多くの時間をかけてじっくりと選別する採用方法でも話題を集めています。この会社の右肩上がりの業績を支えている経営管理の方法の一つを取り上げます。
製品やサービス開発においては、個々のエンジニアに対して、20%の時間を自分の好きなテーマに投入して成果を上げることが求められているのですが、このテーマ(20%プロジェクト)として認められるためには、社員と経営層からの一定数の指示を受ける必要があるのです。かつ、新規のWEBサービス商品として市場に投入されるためには、そのプロジェクトの進捗状況は、全てITによる一元管理と共有化がされているといいます。
この環境上で、「20%プロジェクトが同僚たちの評判になり、創業者を含むトップがゴーサインを出せば、80%プロジェクトに昇格し、いずれ全世界数億人規模のユーザを対象とするグーグルのサービスとして投入される。アイデアや新サービスにも、徹底的な淘汰の仕組みが導入されている」(注4)といいます。
ここからも経営成果をあげる商品開発のやり方を以下に見ることが出来ます。
  1. アイデアから試作品を創る(80%プロジェクト)まで段階を追って、経営者を含めたほとんど全社員の目に触れるように情報共有がされている。
  2. 社内でテストマーケティングを十分にした後に市場に新商品・サービスを投入する。

■「ものつくりの技術」を経営成果に結びつける「もうひとつの技術」

今回取り上げたユニクロとグーグルの事例から、「ものつくりの技術」を経営成果に結びつけるためには、「技術者の意見や声」と「それ以外の社員の意見や声」、「ものつくりの技術」と「その他の経営機能や技術およびプロセス」との“連携をとる活動”が必要であるということがわかります。
この連携をとる活動は、まるで「もうひとつの技術」のようです。
例えば、MOTの教育については、「技術者に経営に関する知識を教えることで足りる」ということが言われますが、少なくてもこの“連携を取る活動”は、知識として知っていても駄目です。実践して成果をあげることが出来なければいけないのです。つまり、「ものつくりの技術」と同様に知識と熟練が必要な「もうひとつの技術」なのです。

■「もうひとつの技術」こそ情報マネジメント

ここで「ものつくり」以外の経営機能をあげれば、マーケティング、営業、在庫、物流、顧客管理、人事、ITなどがあります。これらの経営機能と「ものつくりの技術」とを上手く連携させる必要があるわけです。連携させる担い手は、人です。これをITで補完することも出来ます。現にグーグルの事例では、アイデアの共有、プロジェクトの進捗管理、商品やサービスを世に出すまでの社員の意見や評価の共有については、社内の情報ネットワークとインターネット、テレビ会議などを活用しているのです。
このようにみてくると、「もうひとつの技術」は、情報や内部要求(注5)をやり取りさせることで、経営と「ものつくりの技術」を連携させる経営管理機能のひとつであり、情報マネジメントとでも言うべきものです。下図をご覧ください。

■情報マネジメントの活動内容と技術者に対する期待

ここで、情報マネジメントの活動領域を以下にあげます。
(1) 新商品開発などイノベーションを継続する。
(2) 自己目標管理で技術者の能力を120%引き出す。
(3) マネジメント(経営者層)を支援する。
(4) プロジェクトを成功させる。
(5) 技術マネジメントチームをつくる。
(6) 不況と内部統制をチャンスに変える。
今回は、商品開発について取り上げました。次回以降、順次解説していきます。
<注の説明>
(注1) 株式会社ファーストリテイリング「IR情報」(同社ホームページ)の「国内ユニクロ事業売上推移速報(229/1/5)」によると、2008年12月の既存店売上高は前年比110.3%である、という。
(注2) 女性誌「日経ウーマン」が毎年選出する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」の大賞にユニクロ執行役員の白井恵美さん(43)が決まった。(記事;NIKKEI NET.日経WOMAN)
(注3) 技術とは、科学的な知識とその実務適用の経験から得られた知見及び、能力や熟練による手法や方法を含むものの意味として使用しています。
(注4) 「ウェブ進化論」(p88)、梅田望夫著、ちくま新書
(注5) 内部要求とは、個別の機能やプロセスが生み出す成果、データ、要求事項を含みます。
森岡氏のセミナー「成果を上げる目標管理の条件」はこちらにご案内しております。


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