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【連載:世界一の品質を取り戻す46】

検証・日本の品質力
再生可能エネルギーの切り札として有望視される風力発電
−遅れた日本の取り組みの今後を探る−
山本 行雄  
(ジャーナリスト・前日刊工業新聞論説委員)  
 

再生可能エネルギーで作った電気を電力会社が全て買い取る日本版FIT(フィード・イン・タリフ=固定価格買い取り)新制度が今年7月1日からスタートした。
かつて太陽光発電で世界一の生産量を誇っていた日本も、05年の補助金打ち切りで市場が急激に縮小してしまった経緯がある。05年を境に独に抜かれ、その差が拡がるばかり、その後、スペイン、イタリアにも抜かれている。日本が遅ればせながら、このFIT制度に本腰を入れて取り組みだした事により、どれだけ関連業界に特需効果が生まれるか、また新産業が勃興するか熱い視線が注がれている。
実際、メガソーラー計画が全国で立ち上がり、青森県などでは大規模風力発電施設計画が動き出している。買い取り対象の新エネルギーは太陽光、風力、地熱、バイオマスの5種類。独は200年から7年間で電力総需要に占める新エネルギーの比率が14%と、2倍以上に跳ね上がっただけに、その期待は大きい。今回はその中で風力発電に焦点を合わせ、技術動向、ネックとなっている問題などと併せ将来展望をレポートしてみたい。

1.日本の風力発電は世界第12位

21世紀の社会・経済は(1)大気の温暖化に代表される地球環境の悪化、(2)石油・天然ガスなど化石燃料の枯渇、(3)エネルギー自給率の低さ、(4)産業の活性化と雇用の創出―など大きな課題を抱えている。加えて日本の3.11東日本大震災に伴う原子力発電所の事故はそのリスクの高さを白日の下に晒した。これらの問題を同時解決するのが再生可能エネルギーだが、わが国はこれまで太陽光発電に偏重して目を向けられてきた。世界的に見れば飛躍的に増大している再生可能エネルギーは風力発電という事になる。
風力発電が世界で注目されているのは(1)豊富、(2)安価、(3)無尽蔵、(4)偏在している、(5)クリーン、(6)再生可能―という特徴を備えているからであり、これだけ多くの特性を持っているのは風力以外にない。リーマンショック以降世界の主要国はグリーン・ニューディール政策の1つの柱として風力発電施設の建設に取り組んだのには納得がいく。また風力発電はエネルギー安全保障上からも、開発途上国の無電化村落の解消にも極めて有益だ。
世界の風力発電の導入量は21世紀に入ると急速に増大し、2009年末時点で合計125GW(ギガワット、1GWは100万KW)、つまり100万KWの大型電子力発電所120基分に相当する。導入基数は14万基で世界の電力需要の1.4%(欧州は4.4%)を供給している。特に最近は新規設置に加速度が付いており、毎年30GW、2万〜3万台で推移している。市場規模では5兆円以上、発電所で働く労働者は毎年3万〜5万人の新規雇用を生み出している。成長予測を見ると、2020年には世界の電力供給の約12%を風力発電が占めるものと見込まれている。
風力発電の歴史はオランダの風車に象徴されるように欧州が起源とされる。1880年代の後半に英のJ・ブライス、米のC・F・ブラシュ、仏のC・コワイヨンなどが相次いで風力発電の開発に取り組んでおり、中には実用化されたものもあるが本格的に普及させたのがデンマークのポール・ラクール(1891年)。風力研究所を設立し、風力発電用の高速風車を開発、農村電化用に普及を進めた。20世紀は風力発電王国デンマークを中心に進められた。P・ラクールを風力発電の創始者という。世界的に風力発電の本格的導入が進んだのは1990年代以降のこと。20世紀末まで風力発電機の製造、導入はデンマークが世界をリードしてきたが、1990年代にドイツとスペインが加わり、世界の牽引役となったが、21世紀に入るとデンマークが後退、主役の座が米国、中国、インドなどに移りつつある。ドイツは堅実に導入数を増やしている。
日本の風力発電導入量は2011年3月末で全国1800基余、発電量は250万KWで世界12位に留まっている。発電量は2000年からの10年間で17倍に拡大させたが世界第1位に躍り出た中国の16分の1しかない。
特に米国と中国は2008年のリーマンショック後の景気回復策として風力発電に注目、発電量をショック前の8〜10倍(3年間)に拡大する積極策を展開してきた。中でも中国はこの分野に積極的で導入基数を伸ばし、発電量世界第1位に躍り出ている。そして2位(米国)との差は広がるばかりである。
現在の風力発電の大国は中国、米国、独、スペイン、インドの順。今後欧米では新設電源の40%以上を風力で、また世界的に見れば、世界風力エネルギー協会の将来目標「ウィンド・フォース21」によると、2020年までに世界全電力量の12%、EUでは同20%、米国では現大統領のグリーンニューディール政策の一環として、2030年までに全米電力の20%まで風力で賄うという高い目標値を掲げている。

2.風力発電を支える技術と企業群

現在、最も普及している大型風力発電装置はブレード(羽根)3枚タイプのプロペラ型風車となっている。エネルギー効率(風力エネルギーを電気に変換できる効率)は約40%。その風車の全体、構成要素を示すと次のようになる。

  1. タワー:高さ50〜100m程度(地表から高い位置ほど強く乱れのない風が吹く)。タワーの内部は電気を送る送電線やナセルに上るための梯子やエレベーターが付いている。
  2. ナセル:増速機や発電機など風車本体を納めておく場所で防水や防音の役目も果たしている。メンテナンスのための人の入れるスペースも設けられている。
  3. ブレード:羽根の素材はなるべく軽く強固なものを用いる必要がある。現在はGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)が用いられており、将来コスト高が解消されれば炭素繊維複合材も大きな可能性を持っている。内部は空洞で微風から回転を開始し、台風のような強風にも耐えられるようになっている。風車の直径が大きくなるほど回路は緩くなる。
  4. ハブ:ブレードを回転軸に取り付けている部分で可変ピッチ方式の風車では風に対するブレードの角度を調整するための装置がこの中に入っている。
  5. 増速機:風車の回転を発電機必要とする高い回転数まで高めるための機械。だが増速機を持たず、多極の発電機を風車のゆっくりした回転で直接駆動するダイレクトドライブ方式もある。
  6. 発電機:大型の風車では出力数百KWから3000KW程度のものからつけられ1基数100件から2000件分の電力を生み出すものまである。
  7. ヨー制御モーター:ナセルとタワーの取り付け部分に複数個付いている。風車の回転面を常に風向きの垂直方向に正対させるために、ナセルの上の風向計で風の方向を検知し、この制御モーターでナセルごと首を振り向けるようにしている。
  8. 制御用コンピューター:風速や風向きに合わせて風車の運転方法をピッチ制御や発電機、制御モーターに指示するコントロール装置の役目を持つ。
20世紀末までの風力発電機の世界の勢力図を見ると王国デンマークが業界を圧倒していたが、世界のメーカーがこの分野に進出、その地図が大きく様変わりしている。21世紀の現在でも首位のヴェスタス社(デンマーク)に変わりはないが、2位にはエンロン(米)とTacke(独)が合併したGEウィンド(米)が躍り出ている。3位以下はGAMESA(スペイン)、エネルコン(独)、スズロン(インド)、シーメンス(デンマーク)、華鋭(中国)、ACCIONA(スペイン)、金風(中国)、ノルディックス(独)の順となっている(2009年)。日本のメーカーでは三菱重工業が13位に出てくる程度。しかし今後は日本製鋼所、富士重工業などの台頭が期待されている。
再生可能エネルギーの設置コストは、太陽光(住宅用)が1KW当たり68万円、地熱発電が同80万円で同25万〜32万円の風力発電は比較優位となっている。更に大型化、量産メリットにより2012年には同15万円、2020年同12万円という目標値が示されている(NEDO)。
日本の風力発電関連企業も着実に成長、技術力を伸ばしている。主なものを紹介すると次のようになる。まず風力発電事業者としては、風力発電開発及び発電機器の輸入販売、売電事業も手がける日本風力発電、東京電力系総合電気設備会社で風力発電所の調査・設計・施工で実績を挙げている東光電気、風力発電事業のバリューチェーン全てを展開、国内外で発電所を設置・運営する豊田通商、国内10ヵ所、海外にも設置実績を持つ電気卸大手のJパワーなどがある。
発電機メーカーとしては、大型風力発電装置用タワー大手で、自社製風車システムで強みを発揮する日本製鋼所、小型・廉価型風力発電機を開発、海外から注目を集めているシンフォニックテクノロジー、風力発電機最大手で近年、米国の需要拡大を見込み国内生産拡大を急ピッチで進める三菱重工業、NEDOの各種プロジェクトに「スバル風力発電システム」を提供する富士重工業などがある。
関連部品メーカーとしては、部品の溶射加工最大手で発電用タービンブレード向けで伸長著しいトーカロ、総合金属熱処理専業で風力発電装置関連の熱処理事業に期待がかかるオーネックス、精密減速機大手で風力発電機の油圧駆動装置が堅調に伸びているナブテスコなどがある。
風力発電支援システムでは風況評価、風力発電出力予測システム等の発電サポートシステムで評価が高い伊藤忠テクノソリューションズがある。
また日本が提案している未来技術としては風力と太陽光の相互補完性を活用した世界的ネットワーク型ハイブリッドシステム「G-WISH」や組み立て式小型風力発電装置と太陽電池を組み込んだ「WISHボックス」など様々な実験が行われている。

3.洋上に活路を見出す日本の風力発電

風力発電には2つの騒音被害が生ずるという問題がある。1つは耳に入る騒音であり、もう一つが聞こえないが健康被害を及ぼす超低周波騒音被害だ。前者については人家から200km以上離して設置する基準が設けられているが、後者は超低周波音(20ヘルツ以下)の影響により耳の痛み、頭痛、肩こり、不眠、高血圧などの健康被害を誘発させるもの。昨年の全国389ヵ所の風力発電所調査(環境省)によると内64ヵ所から苦情、被害が寄せられた。この問題はまだ研究途上で全面解決には至っていない。
そこで注目されているのがこうした問題とは関係なく設置できる洋上風力発電である。
国は福島県いわき沖に洋上風力発電施設を計画、予算を計上した。同計画は海底に固定させない浮体式で本格的な発電所としては世界初でなる。2015年までに風車を6基建設、最終的には福島原発の総出力を上回る500万kWの電力を確保しようという計画だ。
東京電力は一昨年からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で千葉県銚子市沖3キロの洋上で風力発電の実証実験を開始している。こちらは水深11mへの着床式。研究期間は2014年までで総予算は33億円余。
清水建設は風力発電国内最大手のユーラスエナジーホールディングス、東京大学と共同で沖合10キロ、水深20mの海域で建設できる洋上風力発電システムを開発した。超高層ビル設計に伴う最先端解析技術、耐震構造などを応用したもの。使用する鋼材も少なくし、1基当たり8〜9億円と陸上施設の約1.5倍程度に抑えているのが特徴(富士重工業も協力)。
三菱重工業は英国政府と洋上発電に使用する風車開発のため約41億円の補助金を受ける覚書を結んだ。同社は今後5〜7万kW級の洋上風車の実証政策や英国に洋上風車の先端技術センターの設置を進める方針。これを足掛かりに同社の洋上発電を誘致する自治体も出始めている。
同社はまた米国に風車、ナセルの工場建設を展開、同国の需要増に対応する方針。

4.将来展望と懸念材料

環境省は昨年、日本列島の立地条件を考慮して陸上と洋上に風力発電施設を可能な限り設置した場合、全国で19億kWが見込めるという試算を発表した。これは最大で原発40基分の発電量に相当する。
わが国は2030年までに20GWの導入を計画しているが、そのカギを握っているのが洋上風力発電設備。陸上への送電など問題も多いが発電する事で水素を製造、それを燃料電池などに利用する計画もある。
前述した通り、日本の固定価格買い取り制度は7月1日スタートしたが、まだ問題が残っている。風力発電の固定買い取り価格は1kW時当たり23.1円(税込み)で、当初予想より高く買い取る事に業界は歓迎しているが、不透明なのが各電力会社の買い取り枠の問題と買い取り期間。東京、中部、関西の3電力会社は制限なしとしているが、他の7電力会社は受け入れ枠を設けている。電力会社のサジ加減で受け入れを拒否、再生可能エネルギーの普及にブレーキがかかる可能性があり、懸念事項として残っている。
買い取り期間も法律は風力発電は15〜20年となっているが、一方で同法には3年毎の見直し条約も存在している。産業の本格育成の視点からも、買い取り期間の長期化は守って欲しいものだ。


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