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【連載:若者を活かすジョブ型勤務システム3】

第3回
労働法―賃金等条件と退職

株式会社経営学校 代表取締役  左近 祥夫  
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目次
1 はじめに
2 若者を取り巻く労働環境
3 技術者
4 労働法
   −賃金等条件と退職
5 ジョブ型勤務制度の設計
6 最後に


4.3 賃金等条件

(1)強制労働の禁止
労基法 第5条(強制労働の禁止)
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他の精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

  1. 法律
    暴行、脅迫、監禁は、本稿の目的からいささか逸脱した現象である。解説を割愛する。
    次の場合を考えてみよう。
    コンピューターシステム会社は納期の決められた仕事を受注した。予定外の社内トラブルが発生して進捗が遅れている。労働者(従業員)に業無を要求しなければ納期を守ることは難しい。
    使用者はいかなる対応をとるべきか?
    労基法は「精神の自由を不当に拘束する手段によってプログラマーの意思に反して労働を強制してはならない」と規定する。
(2)賃金
労基法 第11条(賃金)
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

  1. 法律
    次は賃金の規定である。
    (1)労働者に支給される物または利益であって次の一つに該当するもの
    1. 所定貨幣賃金の代わりに支給するものすなわちその支給により貨幣賃金の減額をともなうもの
    2. 労働契約において、あらかじめ貨幣賃金の外にその支給が約束されているもの
    (2)あらかじめ支給条件が明確である場合の退職手当
    (3)あらかじめ支給条件が明確である場合の結婚手当等
    (4)事業主の負担する労働者の所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等を含む)
    次は賃金でない。
    (1)臨時に支払われる物その他の利益は原則として賃金とみなさない。
    (2)福利厚生施設の範囲はなるべくこれを広く解釈する
    (3)チップ
    (4)制服、作業着など業務上必要な被服の貸与
    (5)役職交際費
    (6)福利厚生のために使用者が負担する生命保険料等補助金

  2. 賞与に関する判例
    賞与は、その性質が毎月支払う賃金と異なる性質をもつが、大きなくくりとして賃金である。ただし、下記判例をもって使用者に「定めた額」の支払いを迫るものではないと解釈するべきであろう。
    • 従業員に対する年2回の賞与は使用者に支払いを義務付けられた賃金の一部である[東京高裁(昭和49年8月27日)]
    • 共同経営と称して与える賞与又は小遣いは、その実質は、使用従属の関係のもとで行う労働に対してその報酬として支払ったものであるから労基法11条の賃金である[名古屋高裁(昭和27年3月25日)]。

  3. 退職金に関する判例
    退職金は、毎月支払われる賃金と異なる性質を持つが、大きなくくりとして賃金の一種である。裁判所は下記のように言う。
    • 民間企業の退職金も、権利として確定しているものについては、本条にいう労働の対償としての賃金に該当し、その支払については、性質の許す限り、直接払いの原則が適用される[最高裁三小(昭和43年5月28日)]。
    • 労働協約に基づき支給される退職金は労基法所定の賃金である[名古屋高裁(昭和36年4月27日)]。
    • 退職金が賃金の一種であると認められる場合に、就業規則の変更により退職金の支給基準を引き下げ、労働者に不利益な労働条件を課することは、労基法の規定に照らし著しく不合理であるから労働者はその改正規則条項の適用を拒むことができる[大阪高裁(昭和45年5月28日)]。
(3)賃金の支払い
労基法 第24条(賃金の支払い)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合(中略)賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める(第89条において「臨時の賃金等という」については、この限りでない。

  1. 法律
    使用者は賃金の支払いに関し次を守らなければならない。
    1. 通貨で支払う
    2. 直接、労働者に渡す
    3. 全額を支払うどのような項目をも控除・相殺してはいけない
    4. 毎月1回払い
    5. 一定期日払い
    次は、労使の協定があれば、控除してもいい。
    • 購買代金
    • 社宅、寮その他の福利厚生施設の費用
    • 社内預金
    • 組合費等
    • 事理明白なもの
    ただし、臨時に支払われる賃金、賞与以外に、次は毎月1回の支払いは要しない(施行規則8条)。
    • 一か月を超える期間の出勤成績によって支給される精励手当
    • 一か月を超える期間の継続勤務によって支給される勤続手当
    • 一か月を超える期間にわたる事由によって算出される奨励加給又は能率手当

  2. 賞与の支払いに関する判例
    賞与は使用者が労働者(従業員)にその支払を約束できる性質のものではない。業績に依存する。判例は次のように言う。
    • 賞与は、従業員が一定期間勤務したことに対して、その勤務成績に応じて支給される本来の給与とは別の包括的対価であり、一般にはその金額はあらかじめ確定しておらず、支給条件等は、すべて当事者間の特別の約定(ないしは就業規則)によって定まり、それによって確定した賞与金を全額支払う限り労基法24条1項に抵触しない[名古屋地裁(昭和55年10月8日)]。
(4)労働時間
労基法 第32条(労働時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

  1. 法律
    使用者は1週間について40時間を超えて労働者(従業員)をはたかせてはいけないし1日については8時間を超えてはいけない。
    1週間の出勤日数が5日の場合、平均して労働時間を8時間にすることができる。
    • 40時間÷5日=8時間
    1週間とは、就業規則などに特段の定めがない場合、日曜日から土曜日まで、である。
    1日とは、午前0時から午後12時までの24時間である。午後20時から翌午前3時まで働いた場合、労働日数=2日になる。

  2. 判例にみる労働時間
    次は労働時間になる。
     職場安全会議への出席時間[大阪地裁堺支部(昭和53年1月11日)]
     業務として行われた専門委員会への参加時間[大阪地裁(昭和57年2月14日)]
     作業の前後における作業服及び保護具の着脱に要する時間[最高裁一小(平成14年2月28日)]
    次は労働時間とはならない。
     出張先への往復に要した時間[横浜地裁川崎支(昭和49年1月26日)]
     更衣時間[最高裁一小(昭和59年10月18日)]
     国外出張中の移動時間[東京地裁(平成6年9月27日)]
(5)時間外および休日の労働
労基法 第36条(時間外及び休日の労働)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合には、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間又は前条の休日に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。後略

  1. 法律
    使用者は、上記・第32条の規定はあるが、例外的に労働者(従業員)を1週につき40時間を超えて働かせることができる、労働者の過半数を代表する者との協定があれば。労使間で合意した協定書を労働基準監督署に届け出る必要がある。
    何時間まで働かせることができるのか?
    厚生労働省の通達「時間外労働の限度に関する基準」によって1か月45時間、1年360時間と決められている。
    ただし、法的には特別条項をつけることによって、さらに働かせることが可能である。昨今、過労死が社会的問題になっているため労働基準監督署の行政指導が厳しくなっている。

  2. 時間外および休日にかかる判例
    この条文の解釈は難しい。
    まず、経営的観点で述べる。使用者は労働者(従業員)が残業をしないで済む職場環境を作るべきである。そもそも残業で行う仕事は効率が悪い。効率の悪いわりにさらに25%増しの給料を支払わなければならない。効率を上げるために一日の勤務時間が短くて済む工夫が求められる。
    次いで、法律論である。労基法第32条に従って一週40時間・一日8時間を超えて労働者(従業員)を働かせることは可能である。しかしこの第36条は例外規定である。この規定をもって使用者が「青天井だ」と考えるとしたら法律論としても誤りである。
    裁判所に持ち込まれる訴訟は悪い事例である。そのため判例は極論になる。極論であることを承知して確認すると、判例は次のように言う。
    • 超勤義務の私法上の根拠は、これを命じうるとの趣旨の就業規則、労働契約があれば足り、超勤の都度の労働者の同意は不要である[札幌地裁(昭和50年2月25日)]。
    • 使用者が、三六協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることが旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負う[最高裁一小(平成3年11月28日)]。

4.4 退職

ジョブ型勤務は職務に報酬を支払う制度である。定年はなじまない。退職は下記の場合である。下記の場合、使用者は労働者(従業員)を解雇する。退職にかかる労働法が強く関係する。
 労働者(従業員)は要求する職務の遂行ができない
 該当する職務が、会社都合、技術革新などで消滅した
 他

(1)契約期間
労基法 第14条(契約期間)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、五年)を超える期間については締結してはならない。
 一

 二
専門的な知識、技術又は経験であって高度なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約
満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約
 (2)(3) 省略


労働契約にあたり、その契約期間には次の種類がある。
  • (1)期間の定めがない
        一般に定年制度に定められた年齢まで勤める
  • (2)事業の完了までの期間
        例えば、あるプロジェクトの完了するまで、など
  • (3)三年
  • (4)五年(専門的知識等をもつもの)
        一 博士の学位を有する者
        二 次の資格を持つ者
          公認会計士
          医師
          他
        三 ITストラジスト試験合格者等
        四 特許発明の発明者、登録意匠を創作した者等
        五および六 省略
(2)懲戒
労契法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。

  1. 法律
    使用者は企業秩序を維持し企業の円滑な運営のために懲戒を行うことがある。
    懲戒には次の種類がある。
    • 始末書提出
    • けん責
    • 戒告
    • 出勤停止
    • 解雇

  2. 懲戒に関する判例
    仕事を効率よく遂行するために一定程度の規律は必要である。使用者が、就業規則等に職場規律を定めるとともに、秩序を乱すものに罰を与えることは当然である。
    裁判所は次のように言う。
    • 使用者がその雇用する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰である[最高裁二小(昭和49年2月28日)]。
    • 使用者の懲戒権は本来、就労に関する規律と関係のない従業員の私生活上の言動に及び得ない[東京地裁(昭和42年10月13日)]。
    • 職場外の職務に関係のない行為でも、企業の運営に支障をきたすものは、懲戒の対象となる。会社を中傷・誹謗するビラを時間外に社宅に配布した者のけん責処分は有効である[最高裁一小(昭和58年9月8日)]。
    • 懲戒処分は労働者がした企業秩序違反行為に対する制裁であるから、一事不再理の原則は就業規則の規定にも該当し、過去に懲戒処分の対象になった行為について懲戒することはできない。過去に懲戒処分の対象になった行為について反省の態度がみられないことだけを理由として懲戒することもできない[東京地裁(平成10年2月6日)]。
(3)解雇
労働関係の終了には下記がある。
 1. 解雇以外(例えば、死亡、重篤な疾病)
 2. 解雇
上記(1)に関してはここでは割愛する。上記(2)について、本稿の目的に関係する範囲で、述べる。
  1. 解雇予告義務
    労基法 第20条(解雇の予告)
    使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。後略

    使用者は労働者(従業員)を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は30日分の平均賃金を支払わなければならない。

  2. 解雇予告に関する判例
    資本主義社会にあって、会社の衰退に基づく解雇、および技術陳腐化による解雇は避けられない。解雇にあたり労基法は解雇予告を要求するが、この解雇予告に関し裁判所は次のようにいう。
    • 雇用契約が反復更新されても実質においては期間の定めのない労働関係と認められる場合は、本条の解雇予告を必要とする[大阪高裁(昭和35年1月27日)、他]。
    • 解雇予告手当は、新たに就職するまでの間の労働者の生活を保障するためのものであるから、その支払に条件その他の負担をつけることは許されない[名古屋地裁(昭和40年11月1日)]。
    • 経歴詐称を理由とする懲戒解雇は、客観的に解雇予告除外理由に基づく解雇であるから、会社は、解雇予告除外認定を受けなくても、解雇予告手当を支給する義務はない[東京地裁(平成16年12月17日)]。

  3. 解雇権濫用規制
    労契法 第16条(解雇)
    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となる。
    解雇の合理的な理由は次の4つである15。ただし、下記の理由があっても、それが「社会通念上相当として是認することができない場合」には、解雇権を濫用したものとして無効になる。
    • (1)労働者(従業員)の労務提供の不能や労務能力または適格性の欠如・喪失
           傷病やその治癒後の障害のための労働能力の喪失
           勤務成績の著しい不良
           事故欠勤30日に及んだとき
           重要な経歴詐称
    • (2)労働者の職場規律(企業秩序)の違反の行為
           懲戒解雇
    • (3)経営上の必要性に基づく理由
           合理化による職種の消滅と多職種への配転不能
           経営不振による人員整理(整理解雇)
           会社解散
    • (4)ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解散要求

  4. 解雇に関する判例
    使用者と労働者(従業員)とのあいだの訴訟は絶えない。訴訟は使用者側および労働者側に立つ弁護士など専門家の「飯のタネ」である。「規模」が大きくなるきらいがある。
    ジョブ型勤務は職務に報酬を当てる制度である。社会的には新しい制度である。社会的認識が行き渡っているとは考えられない。使用者は、労働者(従業員)の採用にあたり、当制度の意図を労働契約書、就業規則、労働協約など文書をもとに十分に労働者(従業員)に説明し、かつ常日頃労働者(従業員)に説明して、理解を深めることが前提で成り立つ制度である。
    同時に、使用者が訴訟に備えることは当然である。ここでは、現在の年功型勤務体系のもとでの解雇の理由に関する裁判所の判例を紹介するが以下はジョブ型勤務にも当てはまる。

    1. 総論
      使用者と労働者(従業員)とは自由対応であるが、実際問題として使用者の立場が強いという現実を無視するわけにはいかない。それを考慮した判断がなされている。
      • 当事者の自由対等を前提とした市民法上の雇用契約における解雇の自由は、労働法原理によって規律される労働契約関係においては解釈上おのずから原理的修正をうけ、解雇には合理的にみて首肯するに足る相当な理由の存在を必要とし、これのない解雇は許されない[東京高裁(昭和43年4月24日)]。
      • 懲戒解雇は、解雇がその他の処分と異なり、従業員を企業から排除し、その者に精神的、社会的、経済的に重大な不利益を与えることを考えれば、情状酌量の余地なく、かつ、改悛の見込みがなく、企業秩序の維持が困難と認められるなど、客観的に懲戒解雇を妥当とする程度に重大かつ悪質なものである場合にのみ許される[東京高裁(昭和47年9月29日)]。

    2. 経歴詐称
      採用にあたり経歴を詐称して採用された労働者(従業員)に対し、裁判所は次のように言う。
      • 同業他社経験者を採用しない方針の会社へ、同業他社を不正行為により懲戒解雇された者がその旨を秘して入社したことは懲戒解雇事由となる[名古屋高裁(平成51年12月23日)]。
      • 人事部長という地位を特定した契約で採用した者が不適格である場合、会社は異なる職位・職種への適格性を判定し、当該部所への配置転換する義務を負わない[東京高裁(昭和59年3月30日)]。
      上記判例ではあるが、他方、詐称した経歴が職務の遂行に影響するのか否かを判断される。
      • いわゆる経歴詐称を理由として懲戒解雇するには、その経歴詐称の内容が重大で、従業員の採否、賃金、処遇、職種、配置その他労働条件の決定を誤らせ、企業秩序を著しく乱す程度のものでなければならない[大阪高裁(昭和45年2月18日)]。

    3. 機密漏えい
      ジョブ型勤務を想定する事業において機密漏えいは困る事態である。裁判所は次のように言う。
      • 象の元飼育係が勤務先の動物園の象に対する調教方法や食餌内容に問題があるとしてテレビ局に内部告発し、テレビ放送された内容の重要部分が真実であるとの証明があったといえず、また、同人が真実と信じるについての相当な理由も認められないため、テレビ報道を理由とする懲戒解雇は、解雇権の濫用に当たらない[(大阪地裁(平成17年4月27日)]

    4. 勤務成績不良
      ジョブ型勤務は職務に報酬を支払う制度である。採用に当たり見込んだ職務遂行能力が実際にはないことを知ることがありえる。
      裁判所には、多数の訴訟が持ち込まれる。ここでは次の判例を紹介する。
      • 六か月間に遅刻を24日、欠勤を14日した者に対する懲戒解雇は有効である[横浜地裁(昭和57年2月25日)]
      • 在籍出向者の出向先での勤務怠慢、上司の指示命令違反行為について、出向元がその懲戒規定を適用し、出向命令を解除して行った懲戒解雇は有効である[静岡地裁沼津支(昭和59年2月29日)]
      • マーケティング部部長として採用されたが、勤務状況が雇用契約を維持するに足るものではないことを理由に行われた解雇は有効である[東京地裁(昭和62年8月24日)]。
      • 上長を批判し、不平を述べ、周囲の社員との軋轢を増幅する行動をする入社したばかりの新採用者の解雇は妥当である[東京地裁(平成19年9月14日)]。

  5. 経験談
    解雇に関する筆者の経験を述べる。筆者は経営コンサルタントである。弁護士でも社会保険労務士でもない。狭い経験のなかで語ることをお許しいただきたい。

    1. 会社概要
      ここで語る会社の概要は次のとおりである。
         業種:貿易・卸売業
      ヨーロッパから特殊な布を輸入し自動車会社および建設会社に販売
         組織: 下図のとおり


         規模:従業員数27名
         場所:関東地方
         事件:2016年


    2. 営業員採用
      営業部に新人が採用された。その営業員の属性は次のとおりである。
         性別:男性
         年齢:43歳
         学歴:東京の私立大学卒業
         職歴:履歴書によると、過去、3社を経験している

      この営業員は、試用期間3ケ月が終わる前、会社内で公然と社長の行動および経営方針を批判し始めた。批判は、おおむね、下記のとおりであった(下記は事実としては根拠があった)。
         批判: 経営方針がない。
      仕入れ先(ヨーロッパ)との関係を見直すべき。
      顧客を訪問するため、社長と待ち合わせをしたが、社長は約束の時刻に遅れてきた。
      など


    3. 解雇前の状況
      社長は彼に「いっしょに仕事ができない」と考え始めた。筆者(経営コンサルタント)に「彼と話してほしい」旨、依頼した。営業員と筆者との会話の概要は下記のとおりであった。
         筆者:このような小さな会社では、理屈だけでなく、人間関係も大事だ。
      営業員:私は間違っていない。
      私を解雇するのか?
         筆者:そうではない。
      しかし、あなたと社長との人間関係が修復できないのであれば、私は社長にあなたの解雇を提案せざるをえない。
      営業員:これ以上の話合いは無意味。
         筆者:やめてもらう場合、いくらかのお金を支払うことになるが、いくらであれば納得してくれるか?
      営業員:3,000万円。
         筆者:それは法外だ。
      営業員:これ以上の話し合いはしない。私の知っている弁護士に連絡する。


    4. 解雇
      社長は、上記報告を受け、解雇を決断した。顧問弁護士に相談し、弁護士の指示にしたがい、「解雇通告書」の郵送など手続きをした。
      営業員は労働監督署に申し立てた。労働基準監署で3回の調停の場がもられた。ちなみに、筆者と営業員との話し合いの記録(全文)も解雇理由の一つとして会社側は調停の場へ提出した。
      当社が50万円を営業員に支払う示談となって終わった。
      解雇通告書

      貴殿を本日付けで解雇することを通告します。
      つきましては、労働基準法第20条第1項の定めに基づき、解雇に伴う解雇予告手当は平成〇〇年〇月〇〇日までに貴殿の銀行口座へお振込みします。
      なお健康保険証は同年〇月末日までに返却願います。



<引用>
  1. 15菅野和夫著「労働法 第十一版補正版」弘文堂 p.738以降



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