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【連載:工場ばらしのすすめ5】

第5回 応用実践篇2
防振ゴム工場のマトリックスレイアウト法

(株)付加価値経営研究所 所長  
関根 憲一
  
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1.K工場は工場ばらしより2S

  1. 2Sでは、運搬、物流、ピッキング、キッド化のムダはとれない。
    A県K市のK工場で赤字をなくすために工場ばらしを応用展開することになった。同社の製品は医療用小道具である。
    工場ばらしはV(1人当りの付加価値)アップが目的だから、まず、目標売上高(S)を達成する必要がある。そこで工場の通り診断を終え、幹部の皆さんとミーティングした。
    工場が2カ所あるので運搬のムダが諸悪の根源になっているから、思い切って工場ばらしをして、1工場に集約することを提案した。
    ところが、B工場長「工場改善は『5Sに始まり5Sに終わる』と言われていますから、5Sの徹底からスタートしたい」という。ところが話を聞いてみると5Sの根源も知らないし、工場のムダとりも知らないのである。
    一般に5Sを知らず、5Sをそのまま導入すると誤Sになることが多い。これは先日のことであるが、TPSに関するあるセミナーで、N社のSさんから「5Sを一生懸命やっていますが、成功しません。とくに、ピッキングキット化が注文内容によって異なるので、誤品取付などの不良がふえ間接人員が増えて困っています。どうすればよいでしょうか」という質問をうけた。
    最近の組立工程は多品種特注型の小ロットが多いので、1本のコンベアーに供給する場合、ピッキングに伴う組立ミスが多くなっている。ミス防止の対策として、大幹部から「5Sをやれ」と言われたという。一般的な5S運動の結果は、はじめぱっぱ、中チョロチョロ、あとはもとのもくあみになるからだ。これは参考であるが、5Sの起源は海軍の2S、整理整頓がはじまりである。

    (1) 5Sの起源は海軍の2S
    整理とはあらゆるものにすじ(道理)が通った状態にしておくことをいう。たとえば、潜水艦の3分潜水、零戦の30秒発進など、なにひとつムダのない、すじの通ったプロセスにしておく。ところが、海軍の欠点は、予定は未定にし、しばしば変更すること得である。ミッドウェイにおける爆弾から魚雷への切替作業は残念ながら9分以上かかった(図2−1)。その結果、赤城の甲板は敵の急降下爆弾にやられ穴があいてしっまった。原因は日頃の頭の整理整頓の2S不十分と言われていた。爆弾から魚雷に切替える必要がないのに、敵空母には魚雷という固定概念がそうさせたのである。命令者の頭のなかの整理、整頓がきちんと出来ていなかったのが、ミッドウェーの敗戦の原因であった。以上の理由から海軍はすべて2Sが基本になっている。2Sの基礎はハンモックの2S訓練、前段取りにあったように記憶している。(以下、省略)
    以上のように、工場の責任者が、工場ばらしより2Sの方が大切だと信じこんでいる場合は成功しない。
    即、辞退することにした。
    図2−1 取替え作業に時間がかかり過ぎるのは2S不足
    図2−1 取替え作業に時間がかかり過ぎるのは2S不足

2.H社防振ゴム工場では成功

H社のJ社長は5Sを要求せず、ひたすら
  1. 運搬のムダをとった工場レイアウト改革。
  2. 精度のよい原価計算のためのレイアウト改革。
  3. 設計不良を設計者、自らわかるような工場レイアウト改革。
以上の3点でスタートした。では、J社長流の工場ばらしのやり方を紹介しよう。
  1. 現工場の運搬のムダに目をつけて原因を追究する。
    どこの工場も運搬のムダは同じである。
    1. 運搬距離が長い。(通路がせまい)時間がかかる。
    2. 積卸し、積こみにともなう手待ち、難作業
    3. トヨタのまねをした水すまし
    4. 組立、工程別、製番注番別ピッキング、キット化
    5. ジグザグ運搬
    6. 先入れ先出し不十分
    人生いたるところ青山ありではないか、「工場いたるところ運搬のムダありき」である、原因は工場レイアウトのまずさにある。

  2. 工場レイアウトがわるいと、製品別採算管理がわるくなる。
    J社長は、運搬のムダに気がつくのは初級IEマンという。理由は目で見てムダがわかるからだという。
    中級IEマンは、
    1. 工程レイアウトがわるいと、工程別、製品別工数が正確につかめないから原価把握不充分からくる製品別採算管理に失敗。赤字の原因をつくるムダが発生するそうである。
    2. 工場レイアウトがわるいと設計の改良が進まない。J社長によると工場レイアウトがわるいと設計者に工場を見せても、設計のわるさがわからないから、設計不良に気付かないムダが発生するそうである。従って、設計者の設計品質の自己評価が甘くなり、自己満足することからくる設計不良が多いそうである。従って、目で見てわかりやすい加工、加工、加工の連結型のラインが設計品質をよくする条件である、といい切っている。
    図2−2−1
    図2−2−1 多品種工場のPQ分析
    図2−2−2
    図2−2−2 H社の3年後のPQ分析

  3. 次は、工場レイアウトの構想であるが、この付近からアメリカの伝統的IEとトヨタ式の違いを少し勉強してみる必要がある。

  4. アメリカ式IEとトヨタ式IEの違い
    (1) アメリカのIEは、[1] 単純化(Simple)、[2] 標準化(Standard)、[3] 専門化(Specialist)の3つの技法から成立している。原因の1つは旧約聖書の「他人の職をおかすべからず」からだとも言われている。多工程待ち否定の思想がある。
    結果的には完全ヨコ持ち型になる。アダム=スミスの分業の原則から見ても仕方ないかもしれない。防振ゴム工場の場合を例にとると、製品は、ゴム材料と金具の2つになるから工場も別工場と発想してしまう。工程としてはアメリカ式の場合は図2−3のようになる。
    図2−3
    図2−3 防振ゴム工程

  5. 工場レイアウト、3つの型
    (1) A型の専門工場型レイアウト
    アメリカ型の工場レイアウトとしては、技能別専門工場レイアウトになる。1945年代はほとんどが図2−4のような専門工場スタイルだった。 まず、金具とゴム製造を分離した工場をつくるから、図2−4のような工程の流れになる。
    長所は分業化による作業習熟が早い点である。 短所は、
    1. 分業化による工程間に見えない壁ができる点である。たとえば不良の原因がわからないムダが発生する。
    2. 次は手待ち発生(段替えもふくむ)。
    3. 運搬のムダなどが発生する。水すましなどの運搬専門の間接人員が増える。
    4. 流れとしては運搬、加工、停滞、運搬、加工、停滞になり、必ず停滞工程が入るのでテイタイ(手痛い)工場レイアウトになるのである。トヨタではヨコ持ちレイアウトという。
    図2−4
    図2−4 専門工場スタイル

    (2) B型のマトリックス型レイアウト
    図2−5のように同じ工程はヨコに配置、製品を大きさ、形状別にわけ、タテに流れるようにレイアウトする。流れの早い小物は中央にレイアウトし、国道をつくる。次には両サイドに県道をつくる。
    1. フリーハンドでよいから図2−5のようなマトリックス工場レイアウトを描く。
    2. あたかも絵のデッサンのようにレイアウトを一筆でつくりあげる。中央はAグループの小物で流れの早い品種を、一個流しのラインにする。将来、中国移管を考えて設備据付は定盤方式にする。
      左は大物、右は特殊物というようにレイアウトする。
    3. ヨコは図2−5のように工程別に設備をレイアウトする。
    4. 人員はで加硫工程をモデルとして少人化ラインをつくる。
    図2−5
    図2−5 マトリックス型レイアウト
    ΣHTをできるだけ少なくするため、手動設備を簡易自動化設備(MT化)にする。たとえば、インジェクションスタイルの加硫機や自動はねだし機を入れる。ゴム材料はリール方式にする。
    1. 天井は室内体操場のような天井にし、屋根は3角形にする。ゴミ、異物防止、火災防止、耐振性のためである。(参考資料篇参照)
    2. モデル工場を1つつくって、最高責任者に見てもらい、結果で評価してもらう。
    3. 経済性の評価項目は
      1. きれいな工場による受注増加。H産業K工場は売上成長率i =15〜20%。工場ばらしの費用は億単位でかかったが、大成功だった。相手のQC監査に合格するためライン別品質安定度評価表をつくる。
      2. 1人2工程(加硫+検査)もちによる。少人化30%向上
      3. 金具や材料運搬の物流ロスをなくすため、キッド化して、見出す、ピッキングのムダをとる。かんばん化すれば死蔵品ロス防止(全在庫の15〜20%)に成功、物流コスト(韓国は5%、日本7%、アメリカ10%)5%以上ダウンする。
      4. ゴム材料の供給をリール(物流治具)かんばん化により材料在庫、加工前仕掛品ゼロ方式に成功した。シート材料はブックかんばんにする。
      5. 受注後、1泊2日に納期体制を完成、新規営業をしやすくする。
      6. 工場が見違えるようにきれいになったので、5S運動は不要になった。IE社長からは「5Sをやれ」という言葉は一度も聞いたことがないから従業員は幸いである。トヨタも同様だった。
      7. 海外にも移管できる全工程連結ラインレイアウトが完成した。コストはセルラインの20倍以上かかるが、海外も、いずれは、人件費との戦いになる。それを想定して作り上げたのが、図2−6の少人化セルラインである。ただし、受注変動を想定し、ピッチ速度は可変式フリーフローラインにしておくことが大切である。
    セルの強さは減産、増産に対応し、 の可変人員制が採用できる点である。
    図2−6
    図2−6 C型・ブロック別セルラインレイアウト
    (3) C型・ブロック別セルラインレイアウト
    形状別(小、中、大)に前工程と加硫仕上の後工程に分類し、キャッチボール式のレイアウトにし、後引き生産にする。
    以上、工場レイアウトとしては3つの型があるが、可能ならC型にトライし、ロボットを利用しHTをMT化し、少人化ラインづくりにトライすることである。

  6. 工場ばらしのノウハウを修得する方法
    (1) まず、現場に行き、現ライン見て、現実的な運搬のムダとりをマスターすること。
    1. 1個流し、1個加工、1個造りの流してつくる方式を工夫する。
    2. 運搬の逆流はないか。ピッキング・キット化のムダをとる。
    3. 仕掛品、停滞工程はないか、整流化のコツは加工、加工の連続ラインづくりである。
    4. 通路に凹部がないか。平滑な面にする。
    5. 天井からゴミが落ちていないか、火災防止はできているか
    6. 暗くないか
    7. 従業員の動きはスムースか
    8. 満足して仕事をやっているか
    (2) 現物を2個とって、出来ばえを見る。差異を見る。ちょっとでも違っていたら、差異について質問する。
    (3) 作業者の現実的な動きについてムダがないか、IE的モーションマインドで目的は何か、取置きの動作にムダはないかをみる。以上は、どこの現場に行っても同じである。IEの三現主義という。
    (4) PQ分析で3年後を予測する。
    一般的PQ分析は、図2−7のようなパレート分析で昔の標準型2:8型から3:7型、更に多品種変種(特注)小ロットの4:6型になり、現在は変種、変量のランダム受注になっているので実態を把握する。標準型なら強い営業、強い技術者がいるので大成功であるが、私が関連している工場はほとんどが4:6型の変種、変量ランダム受注である。設計と営業が弱い会社である。
    図2−7
    図2−7 4:6型パレート分析
    Aグループは海外生産になると予測し、表2−1のような層別二元分類的PQ分析を作成しておくことも大切である。
    絶えず、3年後を予測して、
    1. 工場規模およびレイアウトを考えておく。
    2. 次は、製品の変化である。たとえば防振ゴムの場合はSTRUT、BUSH(大)(小)CORW MCRになるかである。
    予測は当たらないが、予測のない工場レイアウトはすぐに「運搬のムダ」「人のムダ」が発生するのである。
    表2−1 海外移管を想定したPQ分析表
    表2−1

  7. J社長の工場ばらしマトリックスレイアウトに成功した要因。
    第1の成功要因は改善前の工場の敷地が図2−8のようにヨコ60m×タテ8mの4:6型だったこと。
    トヨタの九州工場も4:6型の工場の連結である。これなら工場ばらしが自由に出来るのである。(参考資料篇参照)
    第2の成功要因はJ社長がIE的発想の持主だったからである。
    第3の成功要因はK会長がJ社長を信頼していたことである。
    図2−8
    図2−8 工場敷地が4:6型
当連載は「工場レイアウト改善技術」より。



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