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2004.05【特集記事−本誌編集部より−】
進化するトヨタ生産システム
関根憲一(付加価値経営研究所所長) 

 

I.最新のトヨタ生産方式

最近トヨタ生産方式を再度勉強するため2カ月に1回位の割合でトヨタの関連企業、協力工場を「見たり、聞いたり、たずねたり」して勉強している。思いつくままに最新のトヨタ生産方式をメモしてみると、
  1. 製造のリードタイムはセルシオで29H(この前まではセルシオ43H、クラウンは34H、ハイラック30H、カローラ24Hと記憶していた)ハイラック20Hという。部品点数は3万点とする。ただし溶接4H、塗装16H、組立検査は9H計29H。プレスがぬけているので、私の記憶とちょっと違う。
  2. 最近のトヨタ式LT(リードタイム)の短縮法はSCMが主流である。
  3. 4500トン順送プレスの段替え3分
    トヨタ流段替え1/2化法
  4. 塗装の色替え、昔45分、今は1.3S
    トヨタの段替えは、すべてゼロ(3分)段のノウハウ
  5. 不良3.4PPM
    1)トヨタ流バカよけ、ミス防止法
    2)トヨタ式不良管理図
    3)すべてに「なぜだ」
    4)「とめる、よぶ、待つ」の徹底
  6. 組立工程数をSCMにより、1000→300モジュールに圧縮
  7. 歩くのも仕事のうち(最高17台/人、CT1.3分でまわる)。
    正確にはジョギング生産方式になる。
    1)歩行(速足)も仕事のうち
    2)労働効率とは、労働密度アップ
  8. フラット組織
    1)職長もインライン化
    2)実働人員比率アップ
    3)WF(動作の速さ)は1.3倍
  9. T工場とK工場とのレイアウトの違い。
  10. 1-12-2の電子かんばん。ワンウェイのITかんばん。
    遠距離では後引きが間に合わなくなった。
  11. 3日間の新人訓練法
  12. トヨタ7つのムダ。昔のムダと今のムダのちがい。
  13. トヨタには屋台方式、セルラインはなかった。Uラインまたは無人化のロボット ラインはある。
  14. トヨタの現場のIEは工程ばらし。在庫ばらし
  15. トヨタ式禁句は「でけへん」
  16. 5Sをそのまま導入すると誤Sになる。まず、5分前精神の徹底をはかり、行動改 革から意識改革に入る、たとえば、大きな声も出てくるし、職場規律もできる。命令、号令、訓令の使い方も上手になる。
  17. 造ると作るのちがい
    1)流して造ることを造るという。
    造るとは流してつくることをいう。ライン化ともいう。
    ライン化とは工程順に物を流して仕事をする。そのコツは機械から人をはなすことにある。
    2)作るとは手でつくることをいう。製作、ダンゴ作業、HT100%の工程をいう。
  18. トヨタの簡易自動化率は機械加工職場で70%、Aグループの無人化、ロボット化 は90%、ようせつで95%、組立で20%。
  19. 標準作業票のつくりかたは、ダンナドドイツ
    STEP1.まず、工程ばらし。工程別にムダをとる。
  20. O社、M社でも成功しなかったコンベアでの混合生産方式をいとも簡単に実施
    1)平準化と平均化のちがい
    2)混合生産が難しいのはΣHT(ST)が一定しないからだ
  21. 平準化。時間の平均化ではない。機種の生産数(受注数)と時間(ST)の平均化 生産をいう。しかも、バラツキは±20%以内。
  22. 紙のかんばんから、ITかんばんへ。そして2H単位の計画生産に入ったみたい。
  23. まず、安全作業の確認をすること
  24. トヨタの設備生産性は稼働率45%位。低い。人の稼働率は95%以上、成立条件は MTBFは200H、MTTRは3、5、7、9分以内
  25. 労働分配率は18%以下の達成
    V=300万円 世界ナンバーワン
  26. 在庫は売上が倍増しても2.4日分
    材  0.8日分   中間仕掛  0.8日分
    製  0.8日分   計     2.4日分
  27. 経営指標、利益率10%は不可能ではない。
  28. 生産計画の単位は2H。昔は3カ月のだろう計画生産、それが1カ月、10日、 週、日、8時間、現在は2H単位の受注生産計画という。
以上、思いつくままにメモしてみたが、これでは全体がわかりにくいので、II.昔のトヨタ、今のトヨタというように温故知新の形式をとって進化したトヨタ生産方式をまとめてみた。

II.昔のトヨタ、今のトヨタ

まず、表1を見て、昔のトヨタと今のトヨタを項目ごとに対比してほしい。
昔のトヨタとは昭和35年頃の元町工場、今のトヨタとは、2004年現在の田原工場、九州工場を意味する。約40年間の進化を数字であらわしたのが表1-1である。
工場の生産性をあらわすものさしは、いろいろあるが、最もわかりやすいのは、製造のリードタイム(以下・LTという)である。早くつくればよいものが、安く出来、儲かるからである。
昔のトヨタはヨコ持ち(機械の種類別レイアウト)だったので、LTは約50日かかっていた。エンジンの「からし」をいれると75日。今はすべてがタテ持ち(工程の流れに従ったレイアウト)になったので、35,000点のセルシオでも、42H、クラウンは34Hという。約1/50に進化している。

表1-1 TPS実践レベル比


成立条件の第1は

1.LT1/50化の技術

プレス、鍛造、熱処理、機械加工、溶接、塗装、組立、検査工程を連結して一貫ラインにする。あたかも装置工場みたいなラインをつくる。LAYOUTを思い切って改善す る。「タテ(縦)持ち」の思想から、 らゆる工程を連結していく行動力である。しかも、1人1人の生産技術者にタテ持ちの思想が浸透している点である。
例えば、O工場では機械加工ラインに鍛造設備はもちろん、ゴムの加流工程や高周波の焼き入れまでは組み入れる。そうするとLT(P)の短縮化(R)は次式のようになる。

この連結技術もトヨタのDNAのひとつである。
トヨタの連結能力はまさしく装置工業並で、一貫生産ラインをつくり1個流しにするのが得意である。
セルシオは35,000点を1,000ユニット化し、それをSCMで300モジュールにして組立しているので、42H、ハイラックは30,000点を300モジュールにして26H、カローラは22HといわれるからLTは1/50になっているのである。

2.在庫及び中間仕掛品の削減

原材料及び仕掛品は0.8日分、LTに換算すると約20H。自動車の部品点数は平均約3万点、100車種としても300万点が管理の対象になる。これを欠品ゼロにすることは不可能に近い。それをゼロにしたのであるから称賛に値する。しかも平均調達時間も0.8×24H=約20Hである。近郊は2Hであるから、かんばんの威力はすごい。これは中国が真似してもできない。
過去20年間のトヨタの経営数字を分析すると、原材料0.8日分、中間仕掛り0.8日分、製品0.8日分で、計2.4日分の在庫である。その後、殆ど増減はないことから、トヨタでは「在庫ゼロ」の思想はない。むしろ「必要な在庫は持つ」思想なのである。その必要量が少ないだけなのである。
中間仕掛り品の在庫日数(W、1)×1日の稼働時間(H)代入すると、0.8日分×24H=19.2H 約20H
従って、中間仕掛り品の圧縮によるLT短縮の成果は大きい。
方法としては、
  1. 工程ばらしによるUライン化、工程設計法、バッファはストアとして持つ。
  2. 層別した工程設計法
  3. 並行作業の実施
  4. 工程待ちロット数の規制{定置定表定量、先入れ先出し。FW(フルーワーク)で規制}
  5. 生産順序指示
  6. 必要な在庫と不必要在庫の区分、規制。
  7. 経済的小ロット化技術
以上の技法を上手に使いわけている。

3.生産計画の単位、短縮技術

昔は、P、D、C、Aの管理のサークルではないが、本社でたてた、だろう販売の3カ月販売計画(P)が基本だった、今月分は確定、次月は予定、次々月は予測という生産計画の順送りで生産していた。
ところが、だろう販売、だろう生産計画の欠点の
第1はあたらないこと、変更率90%以上
第2は後工程の欠品発生にともなう段替えの増加
第3は緊急対策にともなう会議の増加だった。

或る日、後工程(主に組立)から連絡のあった分だけをつくれば、欠品がゼロになるということを発見した。当時のO課長は2.2mmの鉄板に部品名と数量をペンキで書き、From-toという課間の定期部品供給板を発明した。
toの組立より2.2mmの鉄板にペンキをぬった連絡板をもらう。部品供給工程は、その連絡板どおりに物をつくり、現物をつけてFromよりToの組立に運ぶことにした。これで欠品はゼロになった。これがかんばん(当時ペンキで塗ったものはかんばんしかなかったのでかんばんと命名した)のがはじまりである。
次は、3カ月単位の生産計画を月単位、更に週単位に変更した、第1週は確定受注、第2週は予定。第3週は予測というように、準受注生産に切り替えた。
その次は、週を3日間の節に切り替え、実需生産方式になった(N社は最近になって成功したが約30年おくれている)。コンピューターの進化と共に日単位に切り替えた(1990年)。現在は受注の単位を直単位から8Hへ、8Hから4Hへ、そして2Hへ。ただし田原工場の輸出車については3週おくれの準受注生産方式になる。

これは、参考であるが、私が現在(2004年)TPSを指導しているA社は相変わらず、3カ月先のだろう販売、だろう生産、だろう購買、だろう外注なのであるからトヨタの40年前、そっくりであるから、特別不思議がる必要はない。特に昭和28年ころのトヨタは月初めの1日から20日までは、部品をそろえ、21日から30日で自動車を組み立てていたのである(デカンショ生産という)から3カ月区間で進める生産計画はそんなに不思議ではない〔現在のMRPも似たりよったりである〕それを旬、週、節、日、4Hにして、現在は2H単位の生産計画に進化させているから、進化力には驚きである。
トヨタ生産方式とは、かんばんと自動化となっているが、ひとことで言うと、「現状否定のDNA」といえそうである。一見、大野理論と思われやすいが、大野理論を否定した九州工場のレイアウトを見ると「現状否定のDNA」といえそうである。
この優れたトヨタの「現状否定のDNA」を利用して、日本の物造りの改良に役にたてるかが、われわれコンサルタントの使命かも知れない。

4.段取り替え技術

昔2000トンプレスは4Hかかっていた。クレーンでの型替えであったので、運搬、位置決めに時間がかかっていたからである。
その証拠にR社の段替えは1990年頃でも3Hかゥっていたから、そんなに不思議ではない。現在は5200トンプレスの段取り替えが3分である。通常なら3時間かかるが、わずか3分でできる。3という数字は同じでも、時(H)と分(M)の違いがある。他業界に比し、1/60の圧縮力をもっている。塗装のカラーチェンジは魔術に等しい。
昔、30分、今、1.2秒だからである。しかも組立の機種替えは殆ど自動段替えになっている。
トヨタの1次下請けのダイキャスト工場では450トンの型替えが予熱をふくめ、CT(42S)で出来るという、しかも、試し加工は2個から良品といっているから、正確には2CT(ツーサイクルタイム)の段替えかも知れない。

5.その他の改革技術

思いつくままに列挙してみると、次のようになる。
  1. MTBF(設備故障の平均間隔)。チョコ停の発生に悩み、すぐにTPMをやれという発想になるが、トヨタではそういう発想にはならない。「チョコ停が発生しない設備を設計せよ」という発想から設備を設計するので、MTBF(平均故障間隔)は昔20分、今200H以上といわれている。「TPMのムダ取り」が実践されているのである。O工場でのMTTR(修理時間)は3分以内は○、5分以内は△、7分以内が×である、昔は平均30分といわれていた。
  2. 設備能力の平均化技術
    各工程の設備能力にバラツキがないこと。生産技術部の設備設計能力が多機能である。工程設計をするとき、設備能力を均一にした設備を設計しあらかじめネック工程(制約条件)をつくらないことである。通常の工場はカタログエンジニアが多いので必ずといってよいほど設備能力にバラツキが発生し、負荷分析が必要になる。ネック工程は生産技術者が発生させているといっても過言ではない。トヨタは皆無である。
  3. 工程内不良3.4PPM達成技術
    10年前部品不良は1000PPMといわれていた。現在1〜10PPM。平均で3.4PPMといわれている。これは協力工場の実力である。品質は検査でつくりこんでいる所もある。1台出荷するのに2000項目(900+600+500)検査している。
  4. 思い切った設備投資
    表面は、けちけち生産方式であるが思い切った設備投資をする。世界の標準的自動車工場は、年200万台、2000人、2直、100台/人、自動化率95%、溶接箇所500、ロボット台数1000台(65%溶接)投資は700〜1000億といわれている。チャージは高くてもMT化率が高い。ライン編成効率(E)は95%。ダースでつくれば安くなるのである。
  5. コンベアー組立、完全な流れ作業。流し作業はない。部品づくりも。Uラインはあるが、屋台やセルはない。
  6. SCMのモジュールでの供給サイクルは1-12-2といわれている。運搬時間は5分位ですむからインラインに近い。一般のかんばんは遠距離は1-4-4、中は1-6-3、近は1-12-2といわれている。
  7. 協力工場も小ロット用兼試作ラインをもっているので、設計品質のよしあしは、DR2の評価できちんとしている。
  8. 高齢者、女子にもやさしいサイクルタイム、例えば昔、45Sがいま134Sになっている。
  9. 5Sという言葉はない。誤Sになるからである。それを不要にしたきれいな工場レイアウトはある。
  10. トヨタ生産方式イコール立ち作業であったが、組立時の工具台車は付いているし、らくらくシートでの、腰掛作業で人にやさしい物づくりになっている。
  11. 混合生産方式は、完全に身についている。O社でもM社でもN社でも失敗したがトヨタでは、いとも簡単に実施している。レベルのちがいがよくわかる。
その他については省略するが、トヨタ生産方式が適用できる工場は、トヨタ生産方式を真剣に勉強することが中国に負けない物づくりの条件になる。

本文は、「進化するトヨタ生産システム」の第1章の一部を掲載したものです。 続きをお読みになりたい方は、「進化するトヨタ生産システム」をお申込み下さい。


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