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2004.06【特集記事−本誌編集部より−】
ISO事務局の活性化
─ ISO事務局の活動上の工夫 ─
川ア 紀久雄(川ア技術士事務所所長) 

 

1.理解レベルに合わせたISO参考資料の提供

  • ISO事務局の重要な役割の一つに、ISOを理解するための資料の提供がある。ISO活動を開始すると、最初のPR活動が「ISO勉強会」で、ISO9001とは何かを取得対象の要員に説明することになる。
  • 勉強会は次のように区分して説明した方が効率的であるが、組織規模やそれまでの標準化活動の経験の有無によっても実行方法を変える工夫をした方が良い。規模の大きな組織の場合には以下のような勉強会を目的別に設けた方がよい。
    • 経営者を対象としてISO勉強会
    • ISO委員会参加者を対象としたISO勉強会
    • 部課長対象のISO勉強会
    • 一般社員を対象としてISO勉強会
    • 内部監査員教育──2日間以上の集中講座が必要である。
    • 内部監査事前勉強会──内部監査チェックシートの説明も含めて内部監査デモの実演が有効な方法である。
    • 受審準備勉強会──模擬監査デモも含め審査のための準備事項の説明を行う。
  • それぞれの勉強会では、ISO事務局が対象者のレベルと実施目的に合わせ説明内容を選択することになるが、理解度に合わせて段階的に説明内容を変化させることも必要である。
  • この他にも、ISO活動を開始すると、活動方法に対する説明資料が必要になり、各人の移動時間や自宅での勉強のための資料提供も必要になる。
    『JIS Q 9001:品質マネジメントシステム─要求事項』は基本文書であるが、これ以外にも、参考書、用語解説集、Q&A、種々のチェックリスト、審査計画書、審査議事録、企業相談議事録、ISO会議議事録、プロセス監査の回答集など種々の文書が参考になる。
  • これらの資料は、1〜2年間のISO取得活動に用いるが、多様な文書・記録となるので、階層化して分類し、概要や主な対象者を示すことにより容易に適切な情報を選択できるように整備することが大切である。
    また、ISO事務局はタイミングを図りながら関係者に読むべき情報を選択し、電子メールで送付し、勉強や準備方法をガイドすることがISO9001の理解を高める活動として重要である。

2.絶対的なキーマンの確保または育成が重要

  • ISO活動を効率的に推進するには、活動を推進するキーマンが必要である。
  • ISO活動を進める過程で、どのように実行したらよいか、この進め方がよいか、不適合になるか、ならないかなど判断に苦しむ状況が多々存在する。このような疑問が発生したときに自信を持って判定できる人の存在が重要である。組織内にそのような人材を育成するか、実行可能な人の協力を得るか、組織外のコンサルタントにお願いするかなどの種々の方法があるが、必要な時に素早く判断する人の重要性が非常に大きなものである。
  • 時に、判断のミス、見解の違いが存在しても、どう実行したらよいか迷っている損失時間がもっともロスとして大きい。ある方針に従って実行してみれば結果が見えてくるので判断ミスかどうか明確になる。
    判断ミスが明白になれば、修正すれば良いのである。その修正活動を素早く実行することで経験が深まり、ISO9001に対する理解が進むはずである。組織活動を効率的に実行するには、組織として行動し、必要な修正活動を組織的に実行することが、ISO9001の基本的な活動であることを理解戴きたい。
  • このように、ISO活動では、方針決定、適合性判断、業務標準化推進などの面でそれぞれキーマンがいた方が有効な活動となると考えるべきである。その意味では、組織的にキーマンを確保するための活動が重要である。場合によっては、候補者は期間を定めて組織外に派遣してでもキーマンの育成を考慮戴きたい。

3.ISO事務局の重要性

  • ISO活動は、組織改革、経営改革などの意味を持つ重要なプロジェクト活動と位置づけるべきである。その大プロジェクトを推進するISO事務局は重要な役割を担っていることを認識すべきである。
  • ISO事務局は、単に、ISO9001に関する知識を有するだけでは不十分である。組織の強み/弱みを把握し、これからの組織活動の方向を把握し、その方向にISO活動をどのように合わせ、他組織にない特徴あるISO活動にするかという見識も重要である。
  • ISO活動を効率的に推進するには、IT技術の活用も重要である。インターネットを活用し、ISOに関連した情報・知識を収集し、その中の有効情報の選別と活用の能力も必要である。
  • 組織活動としては、種々の部門長と対等に議論できる見識も必要であり、そのISO活動を部門長や経営者に共感を戴くように推進もしなければならない。
  • もっとも、基本的な事項として、ISO事務局はサービス業であり、皆さんにサービスを提供するのが仕事であることを忘れてはならない。非生産部門の代表であるISO事務局がISO取得・維持活動に苦労するのは当然であるとの認識に欠ける人がいることも事実である。
    どのような仕事にも苦労がある。ISO9001の取得をスムースに実現するにはISO事務局は非常にご苦労することになるが、それは当たり前であるとの認識で活動戴きたい。
    設計・開発や製造部門の方々がご苦労しているのと同じように、ISO活動の取得・維持活動にはご苦労が付きまとうものであると覚悟を固めて戴きたい。しかも、ISO9001への知識・経験が少ない状態でISO事務局を担当される方々は、ISOの勉強と事務局の重責の両活動に誠心努力を戴きたい。その努力は、業務の育成として「貴方の基本能力の向上」に結びつき、「貴方の発展・成長の源となる貴重な経験」であったと後で言えるはずである。

4.ラインと事務局の根競べ

  • ラインは手抜きを担う
  • 組織の実行部隊はいかに「その場で仕事を効率的に」実施するかと考えるのが当然である。
  • ISO活動の審査は、「その場」だけでなく、一連の流れの業務・プロセスが合理的に、決められた通りに実行しているかどうか審査される。この違いをラインの人々にどのように理解して戴けるかが重要である。
  • 自分で決めた方法であれば、その手順を守ろうという意識が働くが、押し付の意識が働くと反発するのは自然である。このためにも、できるだけ多数の人々の参加を受け、標準手順を一緒になって定め、全員参加の精神でISO活動を進める必要がある。
  • ISO活動を進める部門長は、自部門の業務標準化を進める業務を実際に実行している優秀な人々を中心に担当させて戴きたい。ただし、放任はもっとも部門長としてよくない行動である。一緒に、具体的な方法を考え、担当者を励まし、試行錯誤を通して改良を図り、実行方法を固めて戴きたい。
    このような作業を通して業務手順を合理化し、「ムダ・ムリ・ムラの3ム」を無くすことが業務改善の基本であることを理解して推進して戴きたい。
  • ラインが手抜きを考えることは当然であるが、ISO事務局は外部審査・内部監査を考慮してISO9001の要求事項を満たしていなければ、それらをどのようにすべきか根気よくラインに説明戴きたい。
  • 事務局はサービス機関に徹底できるか。
  • 前述のように、ISO事務局はサービス機関であることに徹底すべきである。
  • サービス機関としての行動基準や価値判断をどうすべきかを事務局内で話し合うことが重要である。事務局がサービス機関に徹しないとラインからの批判は厳しいと考えるべきである。
  • サービス機関としての機能・プロセスを、社内顧客満足をどう監視・測定するのか、ISO9001的に見直す活動を行うことが、ISO9001活動の推進方法の見直しに結びつくはずである。
  • 事務局のトップは副社長クラスが理想
  • ISO事務局は、全社、全組織の行動を改革する活動であり、ラインの従来の活動を否定する場合すら存在する。このためにも、副社長的な人がISO事務局のトップを担うか、指揮をとることが理想的である。
  • 副社長的な人が事務局のトップを担う代わりに、ISO委員会の委員長となりISO活動の指揮をとる方法もある。
  • ISO委員会を設けてISO取得を目指すのあれば、副委員長に主要部門の統括責任者、役員などに就任して戴くことも必要である。
  • ISO委員会は月2回程度の定期開催が重要である。この程度の活動を行い、規定・基準などの業務標準化作業を推進しないと実現が困難であろう。

5.管理責任者の役割と事務局の機能分担

  • 管理責任者が事務局責任者を兼ねる場合は問題ないが、別々の人が担当する場合には、その役割分担を明確にしないと問題を起こしやすい。
  • ISO事務局責任者は、実務作業が必要になるので、ISO9001の理解を深めるために専門家として勉強し、ISO9001の知識・情報を吸収しやすい立場にある。
    しかし、管理責任者は別の業務が多忙で、ISO9001に関する理解が不十分なままとなるケースがある。このような場合に、管理責任者の発言とISO事務局の発言に齟齬を生じる場合がある。この齟齬が発生するとラインに無用な混乱を生じる恐れがある。どちらを信用するのがよいか、場合によるとその発言が基となり右往左往してロスを生じる場合もある。
  • このような問題の発生を防ぐために、管理責任者とISO事務局は意見交換を深め、ISO9001に関する価値観・判断基準・行動規範などの共有化を図って戴きたい。
  • 管理責任者は、内部監査員教育を早期に受けることが必要である。また、ISO事務局責任者はISO9001審査員資格のセミナー受講でISO9001の知識と審査テクニックを早期に学ぶことが必要である。

6.事務局メンバーに要求される能力・力量・資質について

  • ISO事務局メンバーに最初に要求される能力・力量は、ISO9001に関する知識とその説明能力である。自分がISOの知識を所有しても、その内容を受け手の知識・経験レベルに合わせて説明し、納得させる能力・力量が必要である。
    単に、ISO9001の要求内容を解説する能力では困る。その要求内容が必要な背景・狙いを説明し、実際の業務ではどのように関係するか、どこまで実行する必要があるかを的確に説明する能力・力量が必要である。
  • ISO活動では、多くの関係者がいるので、口頭説明では徹底ができない。少なくとも文書を利用して説明することが必要になる。この他にISO9001を理解して戴くために、素早く文書を作る力が必要である。ISO9001とマネジメントを理解した上での文書化能力が必要である。単に、文書が書けるではない。重要な点が明確で、しかも、その説明が端的でなければならない。また、文章の意味が明確に理解できる記述能力と親切心・気配りの発揮が必須である。
  • しかし、これらの説明能力よりも重要な能力が、ラインの実行業務とISO9001の要求との差異を合理的に解決する課題発見・解決能力こそ、事務局が持たねばならない能力である。
  • 事務局はサービス業であるからサービス精神が豊富でなければならないことは当然である。

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