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は人質づくりできまる』という名言をはいてなくなられた。現世は甘えの時代であるから西堀式の人質づくりとという考え方は通用しないかも知れないが、関連会社を含め、何故トヨタの人づくりが成功し、企業に貢献するマンパワーとなるのかを汲み取って欲しい。
1.トヨタの現場での人質づくり
1)職場規律の確立
- 5分前の徹底。始業5分前に機械の前で、3分間ミーティング。
段替えも同様にすべて5分前。5Sという意識改革より5分前という行動改革から身体で教えるところがトヨタである。
- 定時まで機械を動かせ。掃除はするな。するなら当番または専任化せよ。
- 5Sのしつけは、躾けではなく、やるべきこと、やってはならないことの、「仕付け」訓練。室内では禁煙、脱帽、あいさつなど。4Sになっている。
- ライン外のトラブル発生時は正直に、ダンナノドドイツで報告、連絡する習慣をつける。上司は、その場でおこってはならない。ライントラブル発生時は、「とめて、よんで、待つ」の仕付けの徹底。
ダンナノドドイツとは海軍式5W1Hで、報告のチェックポイントである。
ダは(誰が発見し誰に連絡したか)ナニオ(用件)ド(どこで・場所)次のドは(どんな状況か)ド(どれだけ)イツ(時間)という訓練をうける。
- 全体照明は暗く、要所は明るく、休憩時間は消灯。暖房なし、健康状況は毎日「心身チェック表」でチェック。体調不良時はライン外仕事。
- 業績が悪化したら、昔の2班、24H制にもどるという危機意識。
- 訓令、命令、号令の使い分け。命令とは、目的をいい方法をいう。
号令はやるべき行動のみ、訓令とは目的をいい制約条件をいい方法は一任。
- 命令時大きな声を出す。返事はハイの確認。3歩以上はかけあし。お願いしますは禁句。
- 1対1の対話。相手がわかったかどうか確認。
2)現場での標準作業、標準時間
- 3ケ月の期間工に対しても新人3日間の教育、訓練をせよ。班長、組長はわかりやすく丁寧に、根気よく、文句を言わずに教える。
- スキル目標。74分→51分/8W、約30%の工数削減を動作と方法のムダとりで教える。
- 左を制するものが世界を制すで、左手の訓練をうける。
- 業務資格制度。社内ライン認定試験でOKなら晴れてラインマンになれる。帽子のシールを見ればわかる。
- 歩くのも仕事のうち、ただし1万歩以内/日。改善提案は1件/月。
3)不良を「出さない」「流さない」「つくらない」しくみづくり
- 「とめて、よんで、待つ」の仕付け
- ラインは6点チェック(2Hおき)スタップは2点チェック、QAはWチェック
- 目で見てわるさがわかる管理、物造りが「見える化」すること。ライン設計が大切。
- 欠品発生時は即ライン停止(不良防止)、機種替えはやらない。
- とりあえず発想法は禁止。安全面もあるが、すべて標準のとおり実施せよ。
- SPDは100%達成せよ、残業は15分単位、100%達成なら作業日報はいらない。
- 早番のおくれは遅番でとりかえせ。あわてて仕事をするな。
- NG品の展示場をつくり、現品でトラブルを教えること。
- ヒューマンエラーはまず、「なぜ流出したか」現場に行き現物をみて、現実をとらえよ。
- 長は「なぜだ」をいう前に三現主義で頭のなかを整理してからものをいえ。
- 不良防止の基本は几帳面の徹底。
- QCの基本はPDCAではない、CAP-Dである。
自分のまずさに“気付く”こと。それがQCである。
4)段替えはすべて3分段取り
- ユニット化でくるりとまわせ。
- カセット化。
- 押すだけ方式にせよ。ねじは3山。
- 段替え改善の目的は
(1)計画生産をやめ、かんばんへ
(2)LTを1/50化
(3)在庫、仕掛品の1/50化。JIT生産の第1条件。
- 1人段替えは助け合いで2人段替え
- 段替えの自動化
5)トヨタの人質強化法は、フラット組織
- 昔の工長は管理者、工長は、フォーマン、ライン業務兼リーダー。班長は一般作業者と同じ仕事。任務を聞くと、人をぬくことという。
- 昔は、課長、今は、プロジェクトマネージャー、改善業務責任者。
- スタッフ部門の係長、副課長、次長、副部長、部長は廃止。部長、室長、プロジェクトグループ長に。
- 現場決裁はハンコ3つ方式。昔、6ケ月、今、3日。担当員、主任、主査という組織に。
- 係長の任務は専門職、昔、最低単位の長、起案のハンコ捺し、今、ハンコ捺印業務なし。
- 年功序列型賃金(生活給)は資格給、職能給の2本立て。
(1)職能給は成果+プロセス化の努力で評価。
(2)終身雇用制度よりプロ人材開発へ。
- 役員のフラット化
(1)決裁の上あげ防止。
(2)9人の副社長で決裁。他の役員は30名の執行役員制
- 「さん」づけ運動
- チャレンジローテーション。本人の希望でプロ化の道。
- 人質管理の基本
いきいきするときの7ヵ条
(1)仕事をまかされたとき
(2)達成したとき
(3)仕事が自分に合っているとき
(4)自分の業が向上したとき
(5)会社に貢献し、会社に認められたとき
(6)やりたいことがやれるとき
(7)賞金をもらったとき
- トヨタのフラット組織
- エキスパートに必要な能力
(1)ムダ発見力
(2)ムダの取り出し(ムダの見える化)
(3)問題解決力
(4)説得力、実践力
(5)技能、知識収集力
その他については省略するが、派遣社員として働いた経験からまとめたもの、トヨタの人づくりの実態がわかり参考になる。
2.トヨタの新人3日間訓練法
第1日目
現場につれてゆき、現場をみせ、作業の順序を教える。組立作業の場合は
- 準備、部品及び本体の現物、組立工程表
- 対象部品の名称、製品の知識
- 指揮、命令系統を教える。会社のルール、食事、事務、脱衣所、トイレ
- SOPで組立順序、急所、コツといったものをキチンと教える。
やってみせる。やらせる。SOPとは標準作業表の略。
- 安全面から、やってはならないことを教える。
- 訓練コーナーでの実践。
組立作業は、ボルトナット板での左手の訓練、右手は軍手グローブをはかせる。組立工程に訓練台を設置。立ち作業で、分解、組立(ボルトのくいつき)のコツを教える。何回も何回も組立、分解を繰り返す。機械加工については、操作訓練、ワークの取付け、SWの入れ方、ワークの取外しを教える。はんだ、ようせつについても操作能力の訓練をする。
- 立ち作業について理論武装する。
(1)腰痛防止
(2)リズム作業
(3)1個づくりの目的
第2日目
- 分解、組立の、動作スピードを訓練。第1日終了時間に測定したSTに対し30%UPを要求、トライさせる。
- フラット組織のための→昔みたいに親切に教えない現組織、工長─職長─班長の基本任務を説明する。
職長の任務は人を抜くことであるというが、これはいわない
- 本人に作業順序のメモをとらす
- 作業順序を口でいいながら仕事をさせる。SOP作成の準備をさせる。
第3日目
本人にSOPをつくれと命令する。本人にやらす、長がチェックする
- ラインSTOP権を与え、トラブル発生時は、とめる、よぶ、待つ、の徹底、訓練。 「とめる、いじる、こわす、よぶ」の防止
- IN、OUTの1人持ちの1人QA作業の意味、やり方を教える。
- 5分前の徹底。ヒル休みのときは作業開始10分前についている。ラインでの仕付け訓練
- 躾けとは仕事の基準を身に付けさすことをいう。昔流の標準作業、標準時間で仕事をする「仕付け」の方がわかりやすい。
- 「標準時間は標準動作の影」ということを教える。
- 動作のムダ特に、とりおき、位置ぎめのムダを教えSOPは「改善のための資料」
であることを教える。マンガの標準書はない。
- 「工数は動作の影、品質は工数の影」の意味を説明し標準動作が品質づくりの基本であることをわからせる。
以上のようにして3日間の訓練でラインの補助業務につかす。
3.トヨタの人質管理
品質は人質によってきまる。人質のPという標準をきめ、そのとおりDとして実行させる。人間はそのとおりやるのをきらうからCという確認、場合によりテストや評価をする。評価の結果、第2のPをつくっていく。これをA、アクションという。
このようにして、その人の持っている潜在能力を高めていくことを、人質管理の人づくりという。図-1のとおりである。これを実際に実行しているのがトヨタである。
図-1 人質管理とは標準による人づくり
1)まず標準をきめる
方法の標準と時間の標準をきめ、教育し、訓練し、テストし資格を与える。まかす。まかされたひとは、それに情熱をもち、更に改善していくので、ますますスキルアップする。これがトヨタの人づくりの基本だと思う。
- トヨタの標準とは?
時間は方法や動作の影といわれているから、標準時間はムダな方法、ムダな動作の数と早さできまる。
トヨタで言う標準時間(ST)というのは、改善のSTをいう。たとえば3日間の訓練後の実績時間は7掛とみた方がよい。それ位きびしいのである。Aさんの実験によると、図-2のとおり通常は11日間で安定するのであるが、Aさんは器用だから、3日間で暫定STを達成し、その後も減少している。
- 標準をつくり、守る、守らせながら標準のムダを発見し更に標準(方法、動作)を改善し、時間は30%位、短縮する。目的はコストを安くしてUserにサービスしたいからである。
- 標準に達成したかどうかは、訓練し、テストし、資格制度で評価する。たとえば小さなことであるが、ラインに入れるかどうかは「独り立ちシート」で自己評価する。トヨタにおける標準は次のようなものがある。
(1)職階別基本任務、責任
(2)QCの品質マニュアル(トヨタ標準、TSと略す)
(3)品質異常時の「とめる、よぶ、待つ」標準
(4)品質異常発見報奨金
(5)品質異常品処置指導員資格制
(6)ライン作業社内認定試験
(7)ライン安全面、理解度試験
(8)独阯ァちシート
(9)業務資格制度
(10)技能評価制度(技能の種類は50〜70位あるらしい)
図-2 トヨタのST
2)次は多工程待ちの教育訓練に入る
組内の他工程(設備)について、操作能力、検査能力、段替え能力、小保全能力、改造能力を段階的に習得、テストし、資格を与え、マルチに人間を育成していく。例の星取り表によってマルチ人間が出来上がってくる。
3)職場の規律訓練に入る
前節と一部重複するが、改めて整理すると
- 毎朝のセルフチェックであるが、「心身チェックリスト」によって、標準のとおり働けるかどうかを自己チェックをする。OKならライン内の仕事をし、Nonならオフラインの仕事をさせてもらる。不良防止(うっかりミス)と安全のためである。
- 5分前集合、3分meeting、定時稼働。あらゆるものに5分前の徹底が要求される。たとえば、会議5分前に全員集合。昔の海軍と同じである。確かに5Sよりは5分前の方が効果がある。
- 2名/ライン以上の有給休暇はとらない。他部門に迷惑をかけないためである。
- 定時に機械をとめる。5分前そうじは禁止。
- 返事はハイ、3歩以上はかけ足。歩行作業は1万歩以内といっているが、S道場主によると「歩くのも仕事のうち」といっているから、そんなに気にしていない。
- 作業中、私語禁止、勝手に職場離脱禁止。
- 服装自由。
- 2H単位ごとのホットタイム(無給休憩時間)以外、トイレも禁止。
ただし例外は認める。
- サービス残業禁止。
以上のように職場規律によって「仕付け」教育を実施し、人質を高めていく。
4)とりあえず発想の禁止
「とめる、よぶ、待つ」の徹底訓練。
小さな設備トラブルが発生する。たとえば、パイプのジョイント部からエアーがもれると、われわれは、すぐにゴムテープを持ち出しとりあえずぺたりと貼りつけ、エアーをとめる。
トヨタはこのとりあえず発想法が禁止されているから、ゴムテープを貼った設備は見当たらない。「とめる、よぶ、待つ」が基本である。
エアー漏れを発見したら、とめて、よぶ、そして、「なぜだ」と5ナゼで原因をその場で追究していく。特性要因図は作成しない。現場主義なのだ。原因がわかったら「どうすればよいか対策を3案考えろ」である。
以上のように3現主義の原因追究法で発想訓練が行われ、人質を高めていく。
5)トヨタの敵はトヨタ
昔はトヨタの敵はN社だった。今は、トヨタの敵はトヨタ自身になっている。人質向上の結果と思う。
第1の敵はうぬぼれである。これは発生しやすい。
第2の敵は不良、クレームであり、コンプレイントである。M社のようにならないことである。
第3は心のゆるみ。ラインにはりつめているピーンとした緊迫感を失うこと。
第4は現状維持の安住心である。現状否定のDNAを失うとトヨタではなくなるからだ。
第5は標準設定の最大目的は標準を改訂することに意義があるからだ。一歩先を実現する先見性、それを調子にのり、3歩先、5歩先を見て先取りするよりは「及ばざるはすぎたるはよりはよし」が人質管理の基本かも知れない。
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