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2004.10【特集記事−本誌編集部より−】
企業の社会的責任(CSR)とは
─ CSRマネジメント・企業はブランドをどう守るか ─
吉澤光男(吉澤経営研究所 所長) 

 

1.CSRとは何か

1.1 CSRの定義

CSR(Corporate Social Responsibility)には、さまざまな解釈があり、国際的に合意された定義はない。その理由は、企業活動を取り巻くステークホルダー(利害関係者:顧客、株主・投資家、従業員、取引先、地域社会、行政、NGOなど)の価値観に基づく企業への関心事が、国や地域、宗教、習慣、団体の目的などによって異なり、多様で、特定することが困難なことによる。
なお、一般論として、CSRの該当範囲は、経済、環境、社会のトリップルボトムラインを構成する要素として捉えられている。
参考までに、CSRの定義について例をあげる。
  • EUホワイトペーパー:CSRとは、「責任ある行動が持続可能な事業の成功につながるという認識を企業が深め、社会・環境問題を自発的にその事業活動及びステークホルダーとの相互関係に取り入れるための概念をいう。
  • BSR(Business for Social Responsibility:米国のCSR推進市民団体):CSRとは、社会が企業に対して抱く法的。倫理的、商業的もしくはその他の期待に照準を合わせ、すべての鍵となる利害関係者の要求に対してバランスよく意思決定をすることを意味する。
    従って、企業としては、自己の業務・活動範囲などを考慮して、自社に該当するCSRを選定して、対処することが必要となる。
(参考)CSRの概念・表現


1.2 CSRの歩み

CSR活動は、決して新しいものではない。 米国では、アルコールやタバコ企業への投資を避けようとする教会や宗教団体の信仰に基づく動きが、1920年代に始まった。
これが60年代後半から70年代前半のベトナム反戦運動や消費者運動、70〜80年代の反アパルトヘイト運動の高まりなどを契機に、兵器、タバコ、アルコール、ギャンブル、動物実験などに関わる反社会的業種を回避するネガティブ・スクリーニングによるSRI(Social Responsibility Investment)として勢力を拡大してきた。

2.いま、なぜCSRか

2.1 国際的なCSRの波

近年、CSRが声高に求められるようになった背景としては、以下の要因があげられる。

(1)企業活動領域の拡大
最大の要因として企業活動の規模の拡大・複雑化が挙げられる。この結果、社会の隅々にまで企業活動のインパクトが無視できない大きさで及びようになった。
多国籍企業に代表されるように企業活動がグローバル化すると、進出先の国の経済、環境、雇用、さらには国家主権にまで影響を与える。発展途上国における不完全な法規制の下では、児童労働・搾取労働、環境破壊などが発生しやすい。

(2)IT化の進展
IT技術の進歩は、情報の世界的な瞬時展開を可能にし、企業活動のグローバル・レベルでの監視を可能にした・また、インターネットによって共通の課題に関心を持つNGO、個人を問わず、ステークホルダーがネットワーク化され、企業評価情報が関係者の間で共有されることになった。
これは、問題を引き起こすと、世界的な規模での強力なインパクトを被りかねないことを意味する。

(3)NPO・NGOによる反社会的行為の追及
  1. ダウ・ケミカルに対するナパーム弾製造中止要求(1969年):ベトナム戦争
  2. GMに対する南アからの撤退要求(1971年):人種隔離政策
  3. ハーバード大学に対するガルフ石油株売却要求:黒人差別
  4. 米環境NGO・CERESが、バルディーズ号事件(1989年)を受けて「バルティーズの法則」を発表
  5. シェルの石油掘削プラットホーム海洋投棄に関する抗議運動
  6. ナイキ製品不買運動:ベトナムにおける児童労働
  7. 米国の遺伝子組み換え食品の欧州市場からの締め出し
  8. 米ロンロン、ワールドコムの不正経理スキャンダル追求
    現在追求され、情報公開が厳しく求められている事例
  9. タバコ会社:ケニアにおいて、タバコ農家による保護具なしでの殺虫剤散布作業を放置している。
  10. 石油会社:ナイジェリアにおいて、パイプラインの油漏れを放置している。
  11. 清涼飲料水会社:進出先の南インドの村で井戸水枯れが発生、企業は雨不足を主張。
(4)NGOによるグリーン・コンシューマリズム
NGOが、独自の基準で企業を評価し、情報を消費者に流して、その企業の製品の不買又は購入を推奨する活動が大きな影響力を持つに至っている。
  1. CEP(Council on Economic Priorities)
    NGO組織として69年にニューヨークで設立された。その活動は社会環境的観点から企業を評価し、4段階に格付けして、消費者などにその情報を提供するものである。
    そこでの評価は、次の7項目からなる。
    ■環境、■女性の登用、■マイノリティの登用、■寄付、■労働環境、■家族の福利、■情報開示

  2. Co-op America
    82年にワシントンD.C.で設立されたNGOで、ウエブサイトで、消費財生産会社約350社の情報を提供している。そこでは、次の情報が、詳しく提供される。
    ■企業格付け評価、■社会・環境関連事項での企業の賞罰履歴、■グループ企業、■ブランドなど
(5)SRI(Socially Responsible Investment)の勢力拡大
SRI投資活動は、次の3種類に分けられ、そこでは、年金基金の動きが特に目立つ。

1)スクリーニング(CSRを考慮する投資信託・年金運用:ポジティブ/ネガティブス クリーニング)
  1. 2003年における米国SRI市場の投資運用資産残高は2兆1750億ドル(約240兆円)、このうちスクリーン運用は全体の99%の2兆1540億ドルを占める。これは総運用資産に対して11%を占める。1995年のSRI運用資産残高が6,390億ドルであったことから、その伸びは驚くほど急激である。
  2. 欧州での2003年のSRI市場は3,482億ユーロ(45.5兆円)程度と推定される。このうち、オランダが1,814億ユーロ、英国が1,478億ユーロである。
  3. 日本で本格的なSRI運用が始まったのは1999年で、20004年3月末の総額は1,027億円に過ぎない。
2)株主議決権の行使(社会的課題に関する株主提案/議決権行使、エンゲージメン ト)
米国の機関投資家・年金基金の2社の例を挙げる。

  1. カリフォルニア州公務員退職年金基金(Cal PERS)
    議決権行使の基準を定め、投資先企業に責任ある行動をもとめて株主行動を行う。
    具体的には投資先に次の行動をもとめる。
    ■法令遵守、■グローバル・サリバン原則(人権保護、強制労働、差別禁止など)及びマクブライド原則(労働者の権利など)の遵守、■人権侵害の排除、■従業員と家族の尊厳と幸福

  2. TIFF-CREF
    「長期的な株主価値の向上は、投資先企業の取締役会が社会的責任と公共の利益を慎重に考慮することと一致する」との基本的な考え方を打ち出し、企業に次の方針の確立と実践とを求める。
    ■企業の操業及び製品の環境へのインパクト、■すべての人口セグメントの雇用機会の平等■従業員教育と能力開発、■地域社会の公共の利益にネガティブな影響を与える企業行動の評価
3)コミュニティ投資(荒廃した地域へ再開発資金の提供)

2.2 加速されるCSR

世界各国での取り組みが益々加速されることが予想され、一時的なブームで終わるものではない。
  1. エビアンサミット宣言
    CSR(企業の社会的責任)は、2003年6月に開催された主要国首脳会議(エビアン・サミット)におけるG8宣言にも取り入れられた。

  2. 急増するCSRの指針・規格
    団体・国家によるCSR行動指針・規格の数は、既に数十件を数えるといわれる。主要なものを下表に示す。


  3. ISO(国際標準化機構)におけるCSR規格化の決定
    ISOは、理事会においてCSRの国際規格化の調査を採択(2001年4月)し、2001年5月からCOPOLCO(消費者政策委員会)によって国際規制化の調査を開始した。
    その調査結果は、国際規格化を提案するものにて、「企業の社会的責任に関するISO規格のデザインアビリティ及びフィージビリティ報告書」として提出された(2002年5月)。
    これに対しISO理事会は、更なる検討が必要として、TMBの下にCSR高等諮問委員長を設置(2002年9月)し、国際規格化の妥当性について議論を進め、最終勧告を提出した(2004年4月)。
1)最終勧告
  • 主な内容
    • ISOはSRの標準化を推進するための前提条件(ILOとの連携、他のガイダンスとの相違の見極めなど)を提示
    • 適合性評価に利用されないガイダンス・ドキュメントの作成
    • 途上国の参加強化を推奨
    • 先進国と発展途上国のTwinning形式でのリーダーシップポストを設けることを勧告
    • 既存の技術委員会ではなく新たな委員会の設置を推奨
    • 標準化の議論には利害関係者の参加を要請

  • ガイダンス・ドキュメントの要件
    • 産業界ばかりではなく、他の組織でも利用できる。
    • 結果、実行による改善を強調する。
    • 共通の用語を受け入れている。
    • さまざまな文化、社会、環境のSR(CSRの新しい名称)に対応できる。
    • 既存のSR規制を補完できる。
    • 政府が果たすべき役割を弱めるものではない。
    • 組織の規模を問わず有用である。
    • SRの運営、利害関係者の特定、信頼性の確保に関わる手段を提供する。
    • 明確な文章表現によるものである。
2)TMBの決定
TMBは、この勧告を受けて2004年6月、次のような決定を下した。
  • TMBに直属するWGを設置して、勧告を前提条件・構成要素とする新作業に着手する。
  • 以下について進め、2004年9月のTMB会議に提出する。
    • WGはTwinning形式とし、2004年8月15日までに幹事国候補の提出を求める。
    • タスクフォースを設けてWGの作業項目についての提案を作成する。 従って、このまま順調に進めば、2005年初にWGは活動を開始、2年後には報告書の完 成が期待される。
2.3 各国の動き

(1)米国

米国でのCSRへの取り組みの特徴は、コーポレートガバナンス、企業倫理、コンプライアンスをベースに、積極的な経済価値の追求を通じて社会にポジティブな影響をもたらす活動を展開している。
  1. 企業活動が主体となる。その取り組みも法令遵守を超えて社会を利するという、地域コミニュティでの企業市民活動(Corporate Citizenship)が中心である。
    また、優先分野を決め、「戦略的集中」によって個性を出すことを心がけている。
  2. エンロン、ワールドコムの粉飾決算を契機に、サーベインズ・オクスレー法(企業 改革法)が成立し、監査・内部管理体制の強化に関する規定が盛り込まれた。
(2)英国

英国をはじめ欧州各国では、CSRやSRIを側面支援する法律制定の動きが目立つ。
  1. 2000年7月に年金法が改正され、年金運用受託者(機関投資家)は、自己の投資原則を記載する中で、以下の開示が義務付けられた。
    • 投資銘柄の選定・保有・売却において、社会、環境または倫理面を考慮した範囲
    • 議決権行使を含む投資に伴う権利行使の基本的方針
  2. 現在検討中の会社法改正にても、大企業においては、その年次報告における経営者の説明の中で「環境、コミュニティ、社会、倫理、法令遵守に関する方針とパフォーマンス」に関する重要情報の明示が義務付けられている。
  3. 2001年4月にはCSR担当大臣が任命された。
(3)フランス
  1. 2001年5月には、SRIの普及につながるCSR関連の情報開示を定めた会社法等の大幅な改正が行われた。そこでは、年金基金や従業員貯蓄を運用する投資ファンドが、上場企業に対して企業活動の社会的・環境的影響に関する報告書の作成、開示を義務付けている。
  2. 2002年5月には、英国に次いでCSR担当大臣が任命された。
(4)ドイツ

2001年8月より年金基金運用会社に対して、基金の運用にあたって倫理面、環境面、社会面への配慮について報告することが義務付けられた。

(5)EU

CSRを企業に求めて、EU内での国・地域による投資の偏りによる失業者発生を防ぐべく、行政が後押しをしているのが特徴である。
  1. 2001年7月欧州委員会はグリーンペーパー366「CSRのための欧州の枠組みの促進」を提出した。そこでは、CSR促進のための戦略の枠組みを提示し、CSRの議論を喚起している。その上で、2003年までに設立予定の欧州株式市場において社会的責任投資ファンド設立の基礎となる環境・社会パフォーマンスに優れた企業からなる欧州株価指標の必要性を謳っている。
  2. 2002年7月、同委員会はホワイトペーパー「CSR:持続可能な企業の貢献」を提出し、EU政策のあらゆる側面でCSRに取り組んでいくことを表明した。特に、行動規範、経営規準、会計、ソーシャル・ラベリング、責任ある投資に重点を置いている。
  3. 2002年10月、CSRマルチステークホルダーフォーラム(CSR EMS Forum)を発足させ、企業、労働組合、NGO、投資家、消費者などが参加して、企業の社会的責任について欧州全体のコンセンサスを形成する体制を作った。
  4. EU調達指令(2003年年末)によりEUの環境・社会・経済関連指令を規制し順守しない団体は、入札プロセスから除外される。
(6)日本

わが国では、経済産業省がISO・CSR関連委員会に委員を送るとともに、わが国の主張を規格に反映させ、規格化後の導入対応機関としての役割を負うCSR標準委員会(事務局日本規格協会)を発足させた。
但し、産業界がCSR規格化の動きに対して反対の姿勢をとり続けていることもあって、具体的な活動は見えなかった。
しかるに、ISOの規格化決定を受けて、産業界も規格化に協力する姿勢を打ち出している。
この他、CSRに関する国内的な動きには、以下がある。
  1. 経団連傘下の海外事業活動関連協議会が、国内のCSRの動きを精力的に調査して、情報の提供を行っている。
  2. 経済同友会が、第15回企業白書(2003年3月)にて社会的責任経営の指標を提示し、かつ、企業にアンケートとして回答を求め、CSR経営取り組み状況を分析・発表している。
  3. 経済団体連合会が、CSRを意識して企業行動憲章を改定した(2004年5月)。
  4. 企業の責任ある行動を即す法制度改革も進められている。「公益通報者保護制度」「消費者団体訴訟制度」、経済産業省による「内部統制ガイドライン」策定、「商法改正」による経営の監視・執行制度の改定
  5. 東京証券取引所の「統治原則」の策定により「有価証券届出書」「有価証券報告書」においては、コーポレート・ガバナンス情報、リスク情報、経営者による財務・経営成績の分析に関する情報開示の充実が求められている。

3.CSRが要求するもの

国際的に合意されたCS指標はないものの、公開されている指針・規格の内容から、その概要を把握することができる。

3.1 企業行動指針

(1)国連グローバルコンパクト(The Global Compact)
99年1月の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」において国連のアナン事務総長により提唱された企業の行動規範で、「人権」「労働」「環境」の3項目に関する9原則からなる。
グローバルコンパクトは、ILO(国際労働機関)の使命「労働の基本原則及び権利に関するILO宣言」を世界的に広めるための重要な手段でもある。
  • 人権
    1. 国際的に宣言されている人権の保護を支持し、尊重する
    2. 人権侵害に加担しない

  • 労働
    1. 組合結成の自由と団体交渉権を実行あるものにする。
    2. あらゆる種類の強制労働を排除する。
    3. 児童労働を実効的に廃止する。
    4. 雇用と職業に関する差別を排除するB

  • 環境
    1. 環境問題の予防的なアプローチを支持する。
    2. 環境に対して一層の責任を負うためのイニシアティブをとる。
    3. 環境を守るための技術の開発と普及を促進する。
(2)OECD多国籍企業ガイドライン
OECD加盟国政府が多国籍企業に対し協同して行う勧告である。
企業が遵守すべき一般原則として「進出先の持続的可能な開発の達成に配慮し、社 会、環境、経済発展に貢献すべきこと」が挙げられ、次に関わる詳細な行動基準が規 定されている。
(1)情報開示、(2)雇用及び労働関係、(3)環境、(4)贈賄の防止、(5)消費者利益、(6)科学技術(技術移転など)、(7)競争(反競争的取り決めの禁止など)、(8)税(納税義務の履行)なお、採択国内でガイドライン違反の労働争議が発生した場合にはNCP(日本では外務省、厚生労働省、経済産業省が該当する)に提訴できる。

(3)コー円卓会議・企業の行動指針
コー円卓会議は、86年にスイスのコー(Caux)において設立された日米欧の企業経営者の団体である。設立当初は、通商問題を主要議題としていたが、「共生」「公正」「人間の尊厳」の理念が提唱され、世界の平和と安定に対する社会的・経済的脅威の減少に向けて果たすべきグローバル企業の責任について討議を行い、94年にその結果を「企業の行動指針」にまとめた。
  • 一般原則
    1. 企業の責任:株主のみならずステークホルダーの全てを対象にする
    2. 企業の経済的社会的影響:イノベーション、正義、地球コミュニティを目指す
    3. 企業の行動:法律の文言以上に信頼の精神を重視する
    4. ルールの尊重
    5. 多角的貿易の支持
    6. 環境への配慮
    7. 違法行為の防止

  • (以下の)ステークホルダーに企業が果たすべき責任
    1. 顧客
    2. 従業員
    3. オーナー・投資家
    4. 仕入先
    5. 競争相手
    6. 地域社会
(4)SIGMAガイドライン
英国貿易産業省の支援を受けて、「英国規格協会」、「アカウンタビリティ」、「フォーラム・フォー・ザ・フューチャー」の3組織が主導して、サスティナビリティ・マネジメントを実践するためのガイドラインとして1997年7月に立ち上げたものである。
  • 5つの資本:
    1. 自然資本(環境)
    2. 社会資本(社会との関係と社会構造)
    3. 人的資本(人々)
    4. 製造資本(固定資産)
    5. 金融資本(損益、売り上げ、株式、現金など)の維持・強化と説明責任を果たすために、

  • PDCAモデルに基づく4フェーズ:
    1. リーダーシップとビジョン
    2. 計画
    3. 実施
    4. 監視、見直し、報告
    から構成されている。
    また、持続可能な発展に関連する20の規格とガイドラインとを使用できるようにまとめている。
(5)GRI(Global Reporting Initiative)サステナビリティ・リポーティング・ガイドライン
米国の環境NGOであるCERES(Goalition for Environmentaliy Responsible Economies)は、97年に国連環境計画(UNEP)と共同でGRIを発足させた。
GRIは、企業、NGO、会計士団体、労働団体、環境保護団体、機関投資家からの参加者で構成されるマルチ・ステークホルダー集団であり、多面的な意見を反映させて情報開示のフォーマット「持続可能性報告書」を作成するという取り組みを進めている。
GRIガイドラインは、経済・環境。社会の23要素(triple bottom line)に関する企業のパフォーマンスを報告する枠組みを提示するものであるが、そこで取り上げられているパフォーマンス指標には、十分に注意を払う必要がある。
パフォーマンス指標には、次の項目が含まれる。
  • 経済
    直接的影響(顧客、供給業者、従業員、投資家、公共部門)間接的影響

  • 環境
    原材料、エネルギー、水、生物多様性、排出物・放出物・廃棄物、供給業者、製品とサービス、法令遵守、輸送、その他全般

  • 社会
    労働慣行と公正な労働条件(雇用、労働者と経営者の関係、健康と安全、教育訓練ほか)
    人権(戦略・マネジメント、非差別、結社の自由・団体交渉、児童労働、強制労働ほか)社会(地域社会、贈賄・汚職、政治献金、競争・価格設定)製造物責任(消費者の健康と安全、製品・サービス、広告、プライバシー保護)

3.2 団体・国家戦略

(1)SA8000(Social Accountability 8000)
米国のCSR評価機関CEP(Council for Economic priorities)が母体となって97年に設立した団体CEPAA(Council on Economic Priorities on Accreditation Agency)によって規定された「児童労働・強制労働・搾取労働問題に関する認証規格」である。
当規格は、遵守すべき規定のみならず、第三者認証の仕組みを備えている。
わが国では、SGSグループほか9社がこの認証機関となっている。
規定は、以下の9項目よりなる。
(1)児童労働、(2)強制労働、(3)健康と安全、(4)結社の自由と団体交渉権、(5)差別(人種、性など)、(6)懲罰(体罰、威圧など)、(7)労働時間、(8)報酬、(9)マネジメントシステム(文書による開示)

(2)AA1000
英国の社会倫理説明責任研究所(Institute of Social and Ethcal Accountability)が開発したAA1000シリーズは、企業が社会倫理に関する報告を行う際、どのようなプロセスを踏む必要があるか祉窒キ、プロセスに関する規格である。
パフォーマンスの水準については規定していない。
その構成は、4つの項立てと12のプロセスとからなる。
  • 計画:
       プロセス1 コミットメントと統治手続きを確立する。
       プロセス2 ステークホルダーを確定する
       プロセス3 価値を規定・見直す

  • 会計:プロセス4 課題を確定する
       プロセス5 プロセスの範囲を決定する
       プロセス6 指標を確定する
       プロセス7 情報を収集する
       プロセス8 情報を分析し、目的を設定し、改善計画をたてる

  • 監査と報告 プロセス9 レポートを用意する
          プロセス10 レポートを監査する
          プロセス11 レポートを公表し、フィードバックを受ける

  • 埋め込み: プロセス12 システムを構築し、埋め込む
(3)AS8003 企業の社会的責任
オーストラリア規格協会が作成した企業統治に関する規格シリーズAS8000〜8004の1つである。企業組織の中で効果的なCSRプログラムを確立し、実施し、運用するために不可欠な要素を提示し、かつ、これらの要素を活用していく際のガイダンスとして作成されたものである。ここでは、組織の事業活動に関連するCSRの問題及び責任の領域として次を含んでいる。
  • 収益性、競争的慣行及び価格設定、
  • ガバナンス/倫理、腐敗/贈賄/政治献金
  • 従業員関連の問題
  • 供給業者関連の問題
  • 健康及び安全
  • 環境影響
  • 受け入れ側地域社会への影響
  • コンプライアンスシステム
  • 利害関係者の特定及び利害関係者との議論
3.3 ホットボタン(注目を引く重要指標)

CSR要求事項の抽出においては、以下の項目には、十分に留意すべきである。これらに対しては、ステークホルダー・グループが「全段抜き大見出し」とするものであり、メディアも注目する。こうした指標は企業にインパクトを与える可能性が大きく、漏れなく管理しなければならない。


3.4 指標選定上の留意事項

CSRに関する指標・規格は数多く存在する。しかも、その内容は、ステークホルダーそれぞれの価値観を表すものとして多様である。然るに、個々の指標を見ると、表現の差はあっても共通するところも多い。この点に着目して、指標篩い分け、それらの数に圧倒されないことが肝心である。
また、これらの指標に対する日本企業特有の対応度合いの強弱も念頭に置くとよい。



4.CSRマネジメント

CSRマネジメントは、企業におけるリスクマネジメントの一環であり、ステークホルダーにリスクの焦点を絞ったものといえる。従った、リスクマネジメントのプロセスに則って進めることが大切である。

4.1 事象認識

リスクを認識するためには企業の目的を明確にしなければならない。更に、その目的が企業内に共通認識として浸透していないと機能しない。そのためには、社内関係者を全面的に動かし、教育を行い、CSRに対する広範な支持基盤を組織全体にわたった築く必要がある。
  1. トップが、企業目的を明らかにし、その中でCSR体制構築の明確な指令を作成する。
  2. CSRについて取締役会、CEO、経営幹部チームを教育する。
  3. 取締役会、CEO及び経営委員会レベルの支援と関与を明確にする。
  4. 組織全体にわたってCSRの関心を盛り上げる。
4.2 リスク評価(現状評価)

CSRに対してはどのような方針や計画、構造が既に実施されているか、どこに空白が存在するか、について現状体制を総合的に評価する。
  1. 現在のCSRの定義(認識)を評価する。
  2. 現行のCSRについての方針、規準、価値観、及びビジネス原則を評価する。
  3. CSRに関する現在の公約、例えば採用または是認している外部規準を理解する。
  4. CSRに関与している部門、職能、または職能横断型組織を特定する。
  5. サプライチェーンを含め、現在取り組んでいるCSRの課題を特定する。
  6. ステークホルダーとの関係図を作成する。
  7. CSRに関する現在の計画及び活動を評価する。
  8. CSRの実施、報告活動を評価する。
4.3 リスク(ステークホルダー)ヘの対応

特定したステークホルダーのポートフオリオ分析を行い、当面の対象相手とそれらに対する取り組みを明らかにすることがステークホルダー・エンゲイジメントのキー・ポイントとなる。
  • 企業にとって主なステークホルダーは誰か
  • それらのステークホルダーの持つ課題と企業との関係はどのようなものか
  • 企業が最も重要視しなければならない戦略的なステークホルダーはどれか
を明らかにすることによって彼らと協働する方策も具体化しうる。
なお、分析は以下の手順にて進める。

■ステークホルダーの特定
  1. 企業の主要なステークホルダー・グループ及びグループ内の組織あるいはセグメントのリスクを作成する。
  2. ステークホルダー側の関心または概念に関する情報を収集する。
  3. ステークホルダーと企業との関係を整理する。
特に社内のどの部門と連絡を取り合っているのか、あるいは交流関係があるのか。
そこでの交流から得られた情報は、社内でどのように使用されているのか明らかにする。

■ステークホルダーの評価
  1. 知識水準:彼らの関心、懸念を持つ分野に対してどの程度の専門知識を持っているか。
  2. 影響力:彼らの行動が、企業・業界の慣行、公共政策、立法、またはメディア取材 に、これまでどの程度影響を与えてきたか。
  3. アプローチャビリティ(近づきやすさ)と関心の程度:彼らは企業との交流に関心が あり、それによる影響を受け入れるか。
  4. 信頼性:彼らは、他のステークホルダーや専門家によってその行動(仕事)が評価さ れているか。メディアや他の企業は、彼らをどう評価しているか。
  5. リスクの潜在性:彼らは、どのような意味で、潜在的リスとなり得るのか。
  6. 戦略的/長期的パートナーシップの潜在性:彼らは、企業と生産的な関係を築くことに関心を持っているか。その点について他の企業との関係においてはどうか。
■ステークホルダーの関心



4.4 統制活動(体制構築・運用)

CSRマネジメントシステム運用体制の構築を行う。体制の検討に当たっては、起業の使命や規模、活動分野、企業文化、事業構造、地理的条件、リスク分野、公約範囲を考慮に入れて構築を進める。
また、CSRは、課題が多岐に亘り、社内関係部門も多いことから、組織横断的体制の構築と、全体を統制しうる委員会組織・トップリーダーが不可欠となる。


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