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2006.02【特集記事−図説「目で見る管理」(1)】
時間が見える 遅れが分かる アクションできる!!
片岡 緑(本誌編集部)
 
 毎回、好評を博しているトヨタ自動車、デンソーの「目で見る管理」をメインテーマとした工場見学セミナー。3月以降もほぼ隔月で予定しているが、毎回定員が設定されており、希望者全員にご参加いただけない。また、これまでに開催したセミナーでお邪魔した工場にもさまざまな工夫やノウハウがあったが、これらも定員の関係で関係できた方は限られている。見学先には「今回だけ特別」という工場も含まれており、今後、現場で学ぶことが難しいものもある。
 そこで、「目で見る管理」ダイジェスト版をお届けしようとこの企画がスタートした。もちろん、現地で現物を見ながら「目で見る管理」の仕組みや動き、背景を学ぶのが一番いい。だが、ある場面を切り取り、分かりやすい解説を加えることでセミナーとは違うメリットもあるはずだ。
 すでにご参加いただいた方が社内で展開する際のヒントとしていただいてもよいし、これから参加される方がイメージを持たれるのにも役立つだろう。このページを見て、初めて「目で見る管理」をまなぶのもいい。現場カイゼンに、全員の共通理解に役立てていただければ幸いだ。

●目で見る管理で何を管理するのか

「目で見る管理」が注目されている。現場への取り入れやすさ、分かりやすさなどが受け入れられる要因だろう。このトヨタ生産方式で欠かすことのできない管理技術=「目で見る管理」の道具立ては比較的シンプルだ。アンドンで生産数を表示したり、部品や材料の種別を色や所番地で表したり。白線で区切ったり。
これらは
  1. 作業性向上・・・・・・・ポカよけ、ヒューマンエラー・ミス防止
                   確認・点検作業の簡素化・容易化など
  2. 正確性や品質の向上・・・ポカよけや管理ポイントの明示
                   機械設備の限界点明確化による品質確保
                   誤判断・誤操作防止
  3. 管理支援・・・・・・・・発注点管理、メンテナンス時期や場所の明確化
  4. 早期アクション支援・・・遅れや計画とのズレ、設備機械の異状などの明確化
などを目的としているが、いずれも一目で現状が分かり、それに対してなんらかのアクションがとられることが前提になっている。
 今回紹介するのは、そのなかでもシンプルで奥深い時間の管理方法である。

●ひもスイッチと連動した生産ペースメーカー

 生産ラインの床面に一本の白線。そのテープ上に明示された数字。それが今回のテーマである。実はこの数字は1つの工程を10等分にした数字である。どこの工程でも同じ様に10等分されており(オフラインや特殊車両、検査など一部例外がある)、これが作業の基本時間とリンクしている。(1)にあるときにはこの作業を行い、(2)に移るときにはここまで終了させるといった具合である。これはIEが完璧なまでにできているので、この数字による管理ができるといえよう。
 (1)番でその工程の作業開始、(7)番で作業終了になっており、それが床面に書かれている。ラインはゆっくり確実に動いているので、横の数字を見ることで、自分の作業内容と基準時間のずれが把握できる。いってみれば、ラインというペースメーカーに目盛りをつけているようなものだ。時間が見えるようになっているともいえよう。
 さて、ここで(7)番までに作業が終了している点がポイントである。通常、何の問題もなければ作業者は(7)番で終了、(1)番に戻るのであるが、不良があったり、何らかの事情で遅れが出たりする場合もある。このときに(7)番までに作業が終了しなければ、ここで作業者はひもスイッチをひく。このひもスイッチが引かれることでアンドンが点灯、工程トラブルの発生をリーダーに知らせ、リーダーがサポートに入る。無事、(10)番までに工程で決められた作業が終了すればそのままラインは流れるが、そこで終わらなかった場合、ラインは止まる。

図

●「目で見る管理」の目的は“見える”ことではない
 アクションが起こせることだ

 ここで、ショックアブソーバともゆとりともいえる3コマ分をとっているのが、トヨタ自動車ならではの工夫だ。生産の効率を追求するのであれば、工程間はできるだけ詰めたいところだ。しかし、もしきっちりと詰めてしまったら、何らかのトラブルが起こったときに対処できない。また、いきなりラインを止めることになれば、担当者は結果を恐れて、多少の不具合があっても次工程に流しかねない。
 だが、ここで3コマ分のゆとりがあり、万が一の場合はサポートが入ることになっているので、自らの仕事をきっちりと行うことが可能なのだ。たかが3コマだが、知恵の3コマだ。道具立てはラインテープとひもスイッチおよびそれに連動するアンドンとシンプルなことこの上ない。仕組みがシンプルでなければ運用は難しい。ここでは、(7)までに終了しなければ、ひもスイッチをひくというワンアクションに集約される。だれでもが使いやすい仕組みなのだ。
 だれでもが使いやすく、一目で内容が分かるがこの「目で見る管理」の仕組みは奥深い。
 まず、前提には工程分析能力(どの作業をどのくらいの時間で行えるのか、工程全体ではなく、一人が担当する部分を細分化し、10等分した結果を組み立てる)、リーダーの能力(多工程のマネジメントをしている。このため、すべての工程における技能を修得しており、しかもそれが早く的確に行えること。また的確な判断力も必要)、作業者の習熟(つねにひもスイッチを引いていてはラインが混乱する)がある。いずれが欠けても成立しない。また、(7)までに作業が完了しないときは必ずスイッチを引くという教育も必要だし、部品供給がきっちりと行われていることは必須条件だ。
 みよう見真似で一人の作業者の持つ作業を10等分し、時間を見えるようにするのは根気があれば比較的簡単にできるだろう。しかしながら、それをきっちりと運用し、成果を出していくのは別次元の話だ。たしかに(1)から(10)のナンバーで時間が見える。しかし本当に必要なのは時間を見ることではなく、そこで異状が起こった際のアクションのとり方であり、アクションをとった後、再発しないようにカイゼンをしていくことだろう。

今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫)
3 月23日 トヨタ自動車工場見学セミナー
5 月18日 デンソー工場見学セミナー
7 月11日 トヨタ自動車工場見学セミナー
11月21日 デンソー工場見学セミナー
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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