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2006.04【特集記事−図説「目で見る管理」(3)】
ミスを出さない組立と部品供給を構築
−ただし、コストに限りあり 知恵と工夫を追加−

片岡 緑(本誌編集部)
 
 スムーズに生産を行うための仕組みの一つである「目で見る管理」。
機械や人のマネジメントがしやすくなる、リアルタイムで変化や異常が分かるため、対応ができる、安全や環境などに応用することで、職場環境もよくなるといいこと尽くめである。自動車が有名だが、製品の大きさは問わない。装置産業、組立、卸売業などでも活用しているところは多い。が、ここで問題点が・・・。
それはコストである。白線をきれいにする、アンドンを設置するなどの基本的なことから、大掛かりなシステムまで、いずれもゼロ円ではない。今回は少しでもコストを低減するための工夫を紹介する。


●セルラインにも欠かせない「目で見る」仕組み

 防災や防犯などが世間で話題になっている。それにともない、通学路の危険箇所市場の売れ行きに合わせて、生産を調整できるメリットがあるセルライン。人員の増減によって、生産量を変えることができ、さらにその人員も社員、パート、アルバイト、派遣、請負を上手に組み合わせることで、市場の変化により積極的に追随していくことが可能になる。複数機種を同時に流せる、機種の変更に伴う段取りもほぼゼロというメリットもある。
 しかし、このセルラインにも問題がある。作業者の習得が必要なことである。一人で複数の工程を担当する、場合によっては完全に組み立てるため、部品数が多くなる。いきおい作業手順も複雑になったり、やりにくい作業や勘所も必要な箇所がでてきたりする。
 こうなると新人を投入できないラインや派遣で人が頻繁に変わると対応できない工程が出てきてしまう。それでは本末転倒である。
 そこで、登場するのが「目で見る管理」だ。手順書に写真を添付、重要ポイントを分かりやすくする、矢印や白線などによる位置の明示を行う。また、ポカよけを組み込み、作業に間違えがあっても、次工程に流れない仕組みをつくるのである。見分けにくい部品の裏表をセンサで判別したり、ねじ締めをトルクで測り、締め忘れや締め付け不足を防ぐといったものだ。また、万が一、作業者がうっかりとミスをしても治工具や機器に工夫がしてあれば、不良は流出しない。さらに、このデータをまとめていけば、改善にもつながる。
 こうした工夫のなかで、「目で見る管理」を活用したシステムが右図である。次の作業に必要な部品が入った棚を光らせることで、間違えなく部品をピックアップできる。似た形状の小さな部品が多い工程では重宝する。これならば、作業者への教育期間も短縮できる。
 日用品の卸売業においても、物流センターで活用、ピッキングカートと合わせて採用し、小売への欠品、誤配ゼロに貢献している企業もある。この卸売業では小売店に納入する個数がそれぞれ異なることから、ピッキングカートには重量の検知器も備え、個数違いも防ごうとしている。

●さらにもう一工夫で供給側にも便利さを

 さて、こうした「今、必要な部品を明示する」システムだが、部品を探す、取り出すなどといった動作はできる限り少なくする思想にも合致している。
では、ここに部品を供給するときにどうすればいいのか。部品置場から生産計画書や指示書にしたがって必要な部品を必要な量、部品棚にいれていく。この役目は習熟した人がペースメーカーもかねながら行うことが多いが、この人も人間だ。うっかりすることもあるし、見間違えることもあるだろう。そこで、供給側にも同じシステムをとりつければ、部品の投入違いはありえないだろう。重要部品などは部品置場からの一貫した管理もできるので、トレーサビリティも確保できることになる。しかも同様の部品棚が並ぶなかで、目的とする部品を供給する箇所が早くみつかり、配給にかかる時間が短縮される。
 部品供給からみても、ミスは減る、時間短縮はできるといいこと尽くめなのだが、単純な棚を作るよりはコストがかかる。
 そこで、登場するのが、紙シールだ。この紙シール、機種ごとに違う色になっている。部品の供給は機種ごとに行うので、同じ色のシールを貼った棚を探すことになり、たとえ、棚が連続していなくても、入れるべき棚を探す時間は短くなる。しかも、紙シール。これならば、機種が変わるごとに色を変えてもそれほどの手間隙はかからないし、第一コストも格段に安い。
 そして、このシールで部品を供給していくのはライン作業者よりも習熟度が高い人である。そのため、すべてを表示しなくても品番と色の組み合わせで十分機能するのだ。ここの工場ではすべて丸いシールを使っているが、品番が複雑であれば、シールの色と形で表示していくこともできるだろう。姿絵などを併用しているところもある。
図


●ラインへの部品供給は知恵の出しどころ

 「目で見る管理」だけでミスがなくなるわけではないが、ラインへの部品供給は各社とも知恵を絞るところだ。トヨタ自動車の場合、バースにつけたトラック運転手がバーコードを読み込み、そのまま入庫するが、タイヤはきちんと5本ずつ、1台用の部品がセットされてくる。各種部品やガラスも同様だ。時間通り、予定数がきっちりと納品されてくる。これらは無検査で直接ラインに入れることになるのだが、これは外注との信頼関係があって成り立つものある。
 では、これをどう納入するか。荷台と受け入れ側の棚を同じ高さにし、若干の傾きをつけてスライドさせる、フックにかけたものは留め具をワンタッチではずし、スライドさせる、上から下へと落とす、反転させるなど、引力や重力を活用したものが多い。これはラインへの投入時も同様で、ワンタッチ、動力源なしだ。搬送用のパレットやフックなどは専用に開発された形状となっているので、供給に関しては「目で見る」以前に間違えようがない。しかも、その日の組み立ての順番通りに納入されてくるので、一つひとつの部品を指示するような管理とはならないのである。
 今回、小さな部品組立を例に挙げたのは、自動車や大型製品とは異なる管理視点もあるという意味合いからだ。しかし、根本にある「だれにでも○○できる(○の中には管理、アクション、操作、作業、発見などがはいる)」という考え方は普遍だ。

今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫氏)
5 月18日 デンソー工場見学セミナー
7 月11日 トヨタ自動車工場見学セミナー
11月21日 デンソー工場見学セミナー
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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