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2006.05【特集記事−図説「目で見る管理」(4)】
作業をしやすい環境をつくる
−見分けにくい部品も位置決めすれば、効率的に−

片岡 緑(本誌編集部)
 
 その昔、戦を行うときに重要なのが、前線に武器や食料を運ぶ兵站(ロジスティクス)だった。供給が途絶えれば、敗退は目に見えている。中国、三国時代に劉備につかえた軍師・諸葛亮孔明もこの兵站に知恵を絞り、自ら前線への供給用の車を開発したほどだ。
さて、トヨタ自動車のジャストインタイムを支えるのも、こうした兵站だ。JITで納入された供給された部品はどうやって誤りなく「前線」へ運ばれるのだろうか。前回ではセルラインにおける供給をみたが、今回はラインにおける部品供給の工夫をレポートする。


●組み付け忘れ防止のポカはボックスにあり

 自動車の部品点数は約3万点といわれている。これを1点の誤りもなく、正しい位置に組み付けていかなければ、製品にはならない。組み付け不良は事故につながり、これはユーザーの生死にかかわるだけに、気は抜けない。だが、人がやる作業だ。常に組み付け忘れもなく、同じペースで、同じ力加減でできるかとなると、これはとても難しい。
 そこで、組み付け場所近くに、必要な部品数量を必要なだけ、置くということが行われている。トヨタ自動車ではラインに流すシャーシとともに、部品が入ったボックスが流れていく。シャーシの前後、そして内部にもこのボックスがある。
 ここに収められた部品を配置、順次組み付けていき、ラインの最後でその箱に部品が余っていたら、あるいは途中で部品が足りなくなったら、それまでの工程でなんらかのミスがあったことになるのである。ねじ締め工程ではトルク管理によるポカよけを組み込んでいるが、それ以前に必要な部品の数がきちっとラインを流れており、これが部品組み付けのポカよけにもなっているという仕組みである。

●同様形状の部品、ボックスをどう見分けるか

 ところで、こうした部品の供給方法では、使用する部品が入ったボックスをどのように配置していくかが問題になる。ことに、徹底したIEが行われ、作業しやすい組み付け方法が行われている工程において、作業者が迷わず、部品を取れるようにするために、ボックスからの取り出し作業をいかに効率的に、できればなくしていくにはどうしたらよいか―というのが課題になってくる。
 他方、このボックスに間違えがあっては組み付けの効率が著しく低下する。リアの部品がフロントに置かれてしまうと、作業者は混乱する。不慣れであれば、誤って組み付けてしまいかねない。
 効率のよさと正確さ。この2点を両立させる方法として採用されているのが、「目で見る管理」である。フロントはグリーン、リアはブルーのボックスを使用する。これならば、似たような部品があっても、リアとフロントで間違えることはない。もちろん、ボックスにはきちんとリアかフロントかは明記してあるが、色が異なることで、だれがみても一目で分かるようになっている。しかも、このボックスには通し番号がある。作業者にとってはペースメーカーともなっているといえる。

図


●ライン上にも一工夫

 部品を組立位置のそばに置くというのは当たり前といえば、当たり前である。製品が大きいので、部品をライン上に置いて、流していくのであり、製品が小さいセルラインでは製品そのものを動かさず、部品を組みつけをしていく。
 そのセルラインでは部品の置き場が決まっているが、ライン上でどうやって部品おき場所を決定しているのだろうか。リアのボックスをリア付近に置くという決め事だけでは、ばらつきがでてしまう。もちろん、だからといって、組み付け不良が出るわけではないのであるが、コンマ数秒のムダを排除していくためには、ベストポジションにボックスを置くための規格を作らなくてはならない。といって、精密な位置決めが必要なのでは、ボックスを配置する作業の効率が悪くなる。
 そこで、行われているのはラインに合印をつけることである。グレーのラインに黄色でリア、フロントともに置き場を明示する。合印は平面状にきっちりと書かれているが、それほど厳密な位置決めを必要としない。しかし、シャーシ一台分を区切り、さらにそこに置くボックスのベストポジションを示すことで、供給者と作業者が互いの作業をやりやすくしているのである。

●システムがマネジメントを可能にする

 トヨタ自動車では決められた部品が決められた時刻に決められた数量、決められた順番で納入される。もちろん場所も特定されているので、その場所へきっちりと納入することになる。そのさきも決められた場所へと供給されていくのだが、それを支えているのがこうした管理手法である。そして、それは全員が守るべきことだと認識され、粛々と進んでいる。
 作業者の教育訓練は、品質確保に欠かせない要件だが、作業者が100%能力を発揮できるような環境作りがあってこそ、この能力は発揮される。米国で「トヨタで働いていたのであれば優秀だ。ウチでぜひ監督者として働いてほしい」と他社へ行った人が、転職した先でうまくいかなかったという話がある。
 トヨタの場合、全体システムが機能しているから、JITがかなえられ、品質も確保できる。そこでの作業も細分化され、ルールが決められているので、それに則って作業を進められる。そして、セーフ、アウトがきっちりと判断できる。ところが、先のケースでは転職先にこうした仕組みがなかったのである。「製品をつくる」という行為だけが同じでも、こうしたバックグラウンドなしに管理をすることができないのである。そして、バックグラウンドでの仕組みは組織として取り組まなければ構築はできない。
 グリーンの箱と青の箱。分かりやすい仕掛けであるが、置き場所の決定や中の部品の配置、そしてそれを供給するタイミングなど、考え抜かれた奥深いものだ。


今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫氏)
5 月18日 デンソー工場見学セミナー
7 月13日 トヨタ自動車工場見学セミナー
11月21日 デンソー工場見学セミナー
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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