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2006.09【特集記事−図説「目で見る管理」(7)】
いつ、だれが見ても、現場の状態が分かるように
「現場に不要なものはない」を実現する

片岡 緑(本誌編集部)
 
いつ、だれが見ても現場の状態が分かるようにすること。これがトヨタ生産方式の一つでもある。トップがいきなりきても、だれの説明もなく、生産の進捗、ラインの稼働状況が分かるようにするには、結構、仕組みを作りこまなくてはならない。また、「これはなんだ?」と尋ねられて、現場リーダーが答えられないものがあってもいけないというが、ラインサイドにはさまざまなモノが出てくるはず。それをどうクリアするのか。日々変わる生産や状況にどう対応するのかを紹介する。

●不要なものは現場に置かない

「不要なものを現場に置くな」というのはだれでも一度はいわれたことのある言葉であろう。5Sでも不要物をまず徹底して捨てる。不用品に赤札を張り、だれがいつまでにどうするかを書き込んでいく「赤札作戦」もこのルールにのっとったものだ。
不要なものがラインサイドにあるデメリットは数え切れない。部品であれば、間違えて組み付けてしまう、誤って混入してしまう。異なる治工具を使ってしまい、所定の品質を確保できない。
大きなロッカーなどにいたっては、災害時の避難経路をふさいでしまう、障害物となってしまうなどの危険性もある。
また、雑然とした現場ではモラールも低下しがち。人間の心理としてきれいなところは汚しにくく、もし、汚したら、清掃をするが、汚いところではそのままになってしまうどころか、さらにモラールが低下する。これはアメリカですでに実験済みで「ブロークンウインドウ理論」といわれている。ピカピカに磨き上げられたロールスロイスを路上駐車しておく。1週間たち、2週間たってもロールスロイスはそのままだ。(ニューヨークにおける駐車違反の取締りはゆるいらしい)ところが、このロールスロイスの窓を一つ壊しておくと、次の日には落書きがされ、タイヤが盗まれ、さらに数日後にはその周辺の車にも落書きがされたり、部品が盗まれたりするという。
というわけで、現場の5S、不要なものは置かせないが徹底されることになる。

●それでも、でてくる「不要品」

ところが、それでも出てくるのが不要品だ。ウェスなど、事前に予測がつくものは回収ステーションを現場近くに設置することで解決できる。帳票などの紙類や端材についても同様だ。環境負荷低減の取り組みへの注力が増すにつれ、こうした廃棄物管理は徹底されることになる。
では、工程内不良や後工程で見つけかった不良はどうするのか。「さらし首」にするのはいいが、その場所や管理状態によっては、だれも見ない、知らない、埃をかぶっている状況になりかねない。また、「さらし首」は「気をつけましょう」という注意を喚起する手法としてはいいが、根本的な解決策を示すものではない。工程内の不要品集積場所となってしまう。
さらに危険なのは「ラインサイドにちょっと置いておいた」というもの。置き場への移動時間を惜しんだり、面倒だったりなどの理由でよくやりがちである。もちろん本人は十分その事実を知っている。だから、大抵の場合はトラブルとならない。
しかし、ちょい置きをした後、すぐに休憩時間になり、作業開始のときにその部品を使ってしまった、他の機械を見るためにその場を離れたときに、通りがかった同僚がちょい置きを正規の製品と勘違いして、元に戻してしまった・・・・・。こうしたケースはないわけではないが、いずれも恐ろしい事態を招きそうだ。
もっとも、工程で不良が見つからないわけはない。むしろ、ここで見つかるのは幸いというもの。ラインでは次工程が積極的に品質や重量、数などを積極的に見極めていくことが品質確保への第一歩でもある。自分が気をつけるだけでなく、第三者のチェックがあることでより確実になるはずだ。

図


●工程内不良を現場に置くとき

では、ラインで不良が見つかったらどうするのか。図はトヨタ自動車元町工場内のラインだ。専門家がオフラインで検査をしているライン脇で、ホワイトボディとよばれる塗装前のボディがチェックを受けている。工程で見つかった不良を解析中だ。工程内不良を限りなくゼロに近くするために努力を惜しまないが、ちょっとした打痕や傷なども許さないため、ホワイトボディ段階で不良が見つかったものだ。
部品というよりも、完成車に近い形をしているため、大きさ的にもラインに紛れることもなく、カンバンもはずされているため作業情報がないので、この部品がこの後、加工へ回ってしまう危険性はない。
だが、ホワイトボディがラインサイドになんの表示もなく置かれている状況を想像してみてほしい。それがどういう状態で、なぜ置かれているのかは当事者にしか分からない。紛れ込み、製品として次の工程にいくことは考えにくいが、他の作業者は「邪魔だなあ」「だらしがないなぁ」と思うだろう。「俺たちだけに5Sとかいうが、自分たちのやっているTSってなんだ?」と思う季節労働者もいるかもしれない。
折悪しく、トップが急に現場にやってきたとき「これはなんだ?」とたずねられたリーダーはどう答えればいいのだろうか。
そこで、解析中であることを示す表示をしっかりと提示しているのである。これであれば、作業中に担当者が現場を離れても、だれでもが「解析作業をしている」ことが分かる。現場を知らない人でも「ああ、作業しているのか」と理解できるだろう。

●ダンボールにトヨタスピリッツ

表示をすることは正しい。しかし、常にその表示が必要になるわけではない。むしろないようにすることが理想なのだ。臨時に置く、「表示のちょい置き」とでもいえようか。したがって、この表示にコストはかけられない。たとえ世界のトヨタ自動車といえども同様だ。むしろ、そう考えているから世界のトヨタとなったのかもしれない。
そこで活用されているのが、ダンボールにガムテープ。トヨタ自動車では電子カンバンが導入される前「どんなものでもカンバンになる」と納入される部品の形状に合わせたカンバンを活用していたが、どんなものでも表示に活用できる。ましてやダンボールならば、部品納入に使われたものを活用すれば、コストゼロで入手できるし、使用後は資源として回収もできるので、ゴミにもならない。
表示をしっかり、ラインをきれいにというと、その表示やラインにこだわってしまうことが多々ある。色で分けたり、表示用のプラ板をそろえたりといったことである。なるほど、美しいし、整然とする。しかし、本来の目的は表示すること、ラインで区分することである。一時の表示板に美しさを求める必要はないだろう。
ダンボール表示板にはトヨタの合理性と目的に合致すれば手段は無限にあるという同社の精神が垣間見える。


今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫氏)
9月26日 デンソー(愛知)&矢崎化工(愛知)工場見学セミナー
    (講師:高原昭男氏)
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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