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【短期連載 「技術の社会化」試論】

「技術の社会化」試論
III.技術的成果の数値化と技術者自身の‘社会性’

放送大学大学院選科生 山城 隆  
 

1.技術革新と技術的成果の数値化

こんにちまで技術者が、科学から技術へと導き出したのは、コストパーフォーマンスを創造することです。市場経済にとってコストは、最重要課題です。そのコストに関わってきたのは、技術者です。にもかかわらず技術者は、固有技術、管理技術でコストダウンし、代替商品を創造していながら、これらの集合的全体の技術革新による技術者の貢献度は、数値化していないのです。

GDPにおける中味は、意外と知られておりません。誰もが経済成長率つまりGDPに代表される数値を気にしています。ところが中味が毎年異なってきているのです。今やGDPの60%〜70%がサービスのカテゴリーに入っています。更にサービスの概念の内でもITの範疇に入るウエイトが多くなり、交通通信その他多くの産業にハードとソフトが混在しています。混在している中味は、技術革新の賜物です。一次、二次、三次産業に技術が混在している中から、技術革新によるGDPを数値化できると、GDPにおける技術者の果した役割を顕在化できます。

2.PFI=技術による付加価値の数値化

イギリスで1992年に考案された公共事業のための手法として、PFI(Private Finance Initiative)があります。PFIの基本コンセプトは、VFM(Value for Money)です。「一定の支出に対して最も価値高いサービスを提供する」という考え方。民間企業がサービスの提供において、より低いコストで高い価値を提供できるならば、PFIによって民間委託ができる制度です。PFIの意思決定に占めるウエイトは、技術の優劣にある場合が多いことに注目してほしいのです。極論をすれば、PFIの要は、技術者です。イギリスで創案されたPFIは、財政が苦しいから「民間の技術」にイニシアティブをとらせる政策として成果を得ました。

我が国でも1999年7月に「PFI法」(民間資金等の活用による公共施設等の整備の促進に関する法律)が制定されて、動き出しました。PFIは、技術者がイニシアティブをとれるシステムであると強調しておきます。

3.社会秩序維持のための技術

社会秩序維持の技術は、東京オリンピックの頃セコムが人的警備システムを機械的警備システムに技術革新したことが、一例です。こんにちマスコミで報道されている社会秩序の崩壊の対策に、欠かせないのが危機管理です。現在「社会秩序維持のための技術」は、人権との関わりが問題になっております。しかし社会の大きな流れとしては、当技術が、ユビキタス・ネットワーク時代を迎えて発展するでしょう。

写真1
写真1:間隔33cmの建売住宅
ところが逆説として「社会秩序維持のための技術」は、技術者の倫理と良識が問われます。昨今耐震偽装が、社会問題になっております。法整備してもまだまだ解決しないでしょう。

右の写真1は、建売住宅の隣接境界を示しています。この間隔は、33センチです。法的にクリアしていても、技術者(一級建築士)の良識が問われます。「お客様は神様」であっても、この33センチが意味する日本人の価値観に唖然としました。このような価値観を技術者は、どのように考えているでしょうか。当事例と類似の価値観の集積が、都市全体の危機管理をますます困難にしています。「社会秩序維持のための技術」は、市民意識と技術者の相乗効果を期待しております。そのためには、技術者自身の市民性形成と‘社会性’への意識改革が望まれます。

4.社会コストの創造

「技術の社会化」のためには、社会コストなる概念を構築する必要があります。社会コストの概念がないために、PFIが普及しても、「技術の社会化」を数値で捉えることができません。またPFIは、技術者に主体性を折角持たしてくれているのに、その全貌を掴む数値がなければ、技術者が創造したPFIのノウハウは、離散してしまう虞があります。

PFIは、一つの事例です。社会コストの対象になるリストを作って、社会コストで支えられているGDPに占めるウエイトを位置づけ、GDPにおける社会コストが生み出す付加価値を算出すると、技術者が社会に貢献した影響力を鼓舞することができます。

現在あるインフラで道路の交通渋滞を理学と工学の学際で解決に導き出す手法を著した「渋滞学」著者西出活裕氏は、’07.2.10.19時57分〜放映「世界一受けたい授業」の講師として発言中「交通渋滞による経済損失が推計年間約12兆円とのこと。交通渋滞の社会コストが国家予算の十数%に当ります」。

写真2
写真2:アルビン・トフラー
「第三の波」
社会コストという語彙を上記の現象等を総体として耳にすることがあります。しかし学問的概念と定義は、まだ定まっておりません。それらの語彙は、文脈の中で、漠然と公共的コストとして使われています。ところが、近年「公共」の概念が変わりつつあります。「公共」の概念自体が発展途上にあります。いま学問的に「公共」は、百家騒鳴です。「経済学のパラダイム」根岸隆著1995年1月30日有斐閣刊にも社会コストの概念は、ありません。[(株)リコーのhomepageでは、社会コスト=環境経営・会計の範疇に入れています。] 

「技術の社会化」を促進するためには、まず尺度を想定することが先決です。社会コストの概念構築と定義は、その最重要課題です。

「技術の社会化」を進める技術者への期待は、専門領域における‘蛸壷’の中で創造性を発揮する一方、その成果と社会との関わりを客観的に認識することです。技術者自身が、自己の技術を複眼的に受容れる方法として例えば、プロシューマー  的思考があります。アルビン・トフラーの「第三の波」は、技術の社会化に示唆を与えていると思います。(完)

環境コスト=社会コストの一部の概念として(株)リコーは既定している。
プロシューマー=日経新聞で連載した「新会社論」、1月29日にはこんな記事が載っている。「米国の未来学者アルビン・トフラーはかつて、自ら生産(プロデュ−ス)して消費(コンシュ−ム)する「プロシュ−マー」の出現を予言した。アルビン・トフラー著「第三の波」日本放送出版協会1980刊381頁。(写真2)


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