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【新連載:古典に学ぶビジネスの要諦(3)】

できる人から抜け −項羽VS劉邦II−
銀鈴舎 仲原一也  
 

 めでたく天下を取った劉邦は家臣団との酒宴の席上、なぜ天下を取れたかを家臣に問う。人的魅力のある劉邦であったが、戦略も、体力も、馬の扱いも項羽の方が上であると自覚していたからである。しかし、唯一、項羽より劉邦が優れているものがあった。それが公平な人事政策であり、人の活用方法であった。人材活用術は誰しも悩むところ。それがモチベーションや組織の活性化につながるからなおさらである。トヨタではこれを「できる人から抜け」という言葉で表している。その真意とは何だろうか。

●適材適所と成果報酬

 劉邦が自分が天下を取り、項羽が命を失った原因を部下に分析させた。側近である高起と王陵が劉邦は功績があったものには惜しみなく領地を与え、利益を分かち合おうとするが、項羽は賢者を妬み、功績のある者に恩賞を与えようとしなかったことをその理由に挙げた。劉邦はそれは一を知って二を知らないとし、自分は策略は張良に及ばない。ロジスティクスは蕭何に及ばない。実際の戦闘は韓信に及ばない。しかし、自分はこの三人の英傑を見事に使いこなしたが、項羽は参謀の范増一人すら使いこなせかった点が勝敗を分けたと分析、群臣はその答えに感心したという。
 ちなみにこのときに最高にその業績を認められたのは蕭何だった。彼はロジ担。兵はもとより、兵器、馬、食糧を前線に送るために並々ならぬ苦労をしていた。だが、論功行賞があった際に彼への報償が自分たちの報償よりも多いことに不満を抱いたのは前線で戦っていた将軍たちだ。「苦労していたときに、彼は弓矢の飛ばないところで、座って算術をしていたではないか」というのがその理由だ。
 だが、劉邦は「諸君が安心して戦えたのは蕭何が後方で過不足なく資材を送ってくれたからだ」と一喝、将軍たちも納得したというエピソードがある。
 適材適所、そして各人の成果に対しての報償の公平さ、公正さ。それが劉邦を勝たせた要因だったと言えよう。

●なぜ、できる人から抜くのか

 さて、翻って現代。公平な人事とは難しい、評価も難しいという声を耳にする。そもそも基準がはっきりしない。プロセスを見るのか、結果を見るのか。数字を上げさえすれば何でもいいのか・・・・改善提案は件数か、効果か。グループでのプロジェクトをどのように評価するのか。
 トヨタ生産方式では「できる人から抜け」という大原則がある。改善を進めるということは限りないリストラを続けるということである。ムダな作業を省いて省いて、最終的には1人分の作業を減らし、人を抜くことが目的だ。
 だが、ここでもし「いらない人を外へ出そう」という暗黙の了解があったらどうなるか。「すごくやりにくい作業だし、時間もかかる。調整もしなくてはならない。しかし、それを簡単にしたら、自分の職場がなくなるかもしれない」そう思えば、改善提案などするはずもない。むしろ、もっと困難であることをアピールして、自分の能力を示すようになるかもしれない。
 それでは改善は進まない。当人にとってはよくても、会社としてはマイナスだ。また、不安全な作業をそのままにしておけば、事故も起きるかもしれない。無理な姿勢は後年、健康に影響を与えるかも知れない。当人にもいい結果は出ないはずだ。
 よって、できる人から抜くという不文律があるのだ。

●新天地での活躍も期待

 他方、できる人というものは順応力が高いのが普通だ。新天地で違う目で見ることで新しい切り口での改革を行うこともある。毎日見慣れていれば、それが普通と思えることであっても、他所からくれば、「なぜそれをするのか」「しなければどうなるのか」といった新しい視点でものを見ることができる。これは継続的な改善をしなければならない組織にとって、とても重要なポイントとなる。
 そして、その人が入った職場が活性化する効果も得られる。できる人であれば、なおさらであろう。職場に緊張感が戻るとでも言えばいいのか。
 中途採用の効果として「違う文化の流入」を挙げる企業が多い。天下りなどは別として、実務ベースでの経験や知識はもちろんだが、その人個人が持つパーソナリティに対する期待も大きい。
 人をうまく使うこと。これが劉邦流天下取りの極意であるが、トヨタ生産方式においても、人をうまく使うことが天下取りにつながっている。

★もっと学びたい人のための書籍紹介

●項羽と劉邦  司馬 遼太郎著 新潮文庫
●三国志  吉川英二著 講談社 吉川英二歴史時代文庫
●NHKそのとき歴史が動いた  中国英雄編(ホーム社漫画文庫) 沖 隆次、たかや 健二、NHK取材班

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