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【新連載:世界一の品質を取り戻す7】 検証・日本の品質力 急がれる日本発の国際標準のための人材づくり(上) ―コンセンサス標準という新戦略とともに―
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1.グローバルスタンダードという亡霊1990年代の後半、バブル経済の崩壊による経済の停滞混乱からなかなか脱し切れず、この後遺症に呻吟していた頃、多くの経営者の口から「グローバルスタンダード」という言葉が発せられた。明治の開国以来日本は外圧に極めて弱い国民性を持っている。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された1980年代から一転し、なかなか苦境から脱し切れない日本を海外のエコノミストは「日本は特殊だ。別扱いにしなければならない。」とジャパンパッシング(日本素通り)、ジャパンナッシング(日本無視)の論が高まった。これは80年代、集中豪雨的な日本の輸出攻勢に際しての欧米国の摩擦が起きた時、日本に対する市場開放やシステム改善の要求に対して日本の主張が「日本には特殊事情があり、欧米のシステムにはなじまず変革できない」という姿勢へのしっぺ返しだったとも言える。そして更なる日本たたきが強まった。日本的経営の三種の神器(終身雇用、年功序列、企業内組合)、KEIRETSU(系列)、株式持合い、ボトムアップ型意思決定などなど80年代までの驚異的経済発展を支えてきた日本システムの特殊性が批判の対象となり、それに90年代以降の長引く不況、つまり3つの過剰(雇用、設備、債務)の解消に手間取ったのに加えて、企業、官僚不祥事、オウム、阪神大震災の危機管理の不備など種々の問題が重なり、世界から取り残される孤立感が高まっていく。 こうした危機感がGATT(現在のWTO=世界貿易機構)やIMF(国際通貨基金)などの国際機関に積極的にコミットメントしていくとともに、経営者の口から出た言葉がグローバルスタンダード経営だった。そして、この言葉に翻弄されることになる。 この和製英語に興味を持ったのが、当時在日米商工会議所会頭だったグレン・フクシス氏。かつて大統領府通商代表部代表として日米経済交渉に当たり、タフネゴシエーターとして名を馳せたフクシス氏(現在はエアバス・ジャパン会長)は全世界400名ほどのMBAの学者、経営者、政府要人にメールを送り、この用語に関する5つの質問(語源、定義、誰が、何時、日本での意味)をしたという。返事は4名からのみ(全て日本人)で他は全て「初めて聞く用語だ」。またスタッフに頼んで世界の論文、経済記事を検索した結果、97年当時出てきたのが「フィナンシャルタイムズ」の日本発の記事のみだったという。 そこでフクシス氏が出した結論は世界の経営システム、管理手法などをベンチマーキングし「ベスト・プラクティス」がこのグローバルスタンダードと考えればよいのではないか、ということだった。となればその多くの源流は日本が生んだ経営システム、つまり日本流品質管理(TQC、TQM)、改善、カンバン方式(ジャストインタイム=リーンシステム)に行き着くことになる。そしてこの言葉に振り回され、マインドコントロールに陥り欧米のシステムなら何でも無定見(多義的かつ曖昧)に取り入れた多くの経営者に警鐘を鳴らしている。 だが1ヵ所、このグローバルスタンダードという言葉が着実に重みを増している場所があった。それがOECD(経済開発協力機構)の移動体通信の作業部会。そこに集まった先進国の技術者たちが世界共通技術標準をグローバルスタンダードと呼んでいた。 2.競争力を失いつつある日本の「ガラパゴス化現象」南米エクアドルから約900キロ離れた太平洋上の沖合いにあるガラパゴス諸島には独自の進化を遂げた固有種が数多く棲息している。ダーウィン「進化論」着想の原点ともいうべきこの島は火山群島であり、大陸から隔絶した環境であったことが独自進化に大きく影響したといわれる。ユニークな進化を遂げた生物は外から入ってくる外来種の攻撃には極めて弱いという特徴を持つ。日本企業は国内での競争に勝つことが大変なのに加えて、質の高い消費者を満足させることに精一杯で、極めて国内市場を意識した財やサービスの提供に偏った戦略を取らざるを得ない特殊事情があった。一部のグローバル企業を除いて。それが海外進出の足かせとなり、国際競争力の低下を招いてしまったというわけだ。国内企業同士が切磋琢磨し、高い技術力を確保し他国の追随を許さない高みに立ち、優位にあると思っていたが、実は世界の中で特殊な存在になってしまった。外から隔絶し、内部で独自の進化をし、大陸から取り残されてしまったこの日本の技術現象を野村総合研究所のグループは「ガラパゴス化現象」と称している。 では産業・企業におけるガラパゴス化現象はどんなプロセスで発生するのか。同グループは次のように分析している。
どうして、このような事態に陥ってしまったのか。2つの側面がある。第1が世界の通信方式の主流がヨーロッパで生まれた「GSM」という規格に集約されつつあるということ。つまり、デファクトスタンダード(事実上の世界標準規格)争いに日本は対応を誤まったことを意味する。第2の理由が、わが国の携帯電話端末は通信サービス提供事業者(キャリア)が買い取る方式だったため、端末メーカーが世界市場を見据えたマーケティングを行うインセンティブに乏しかったことに起因する。NTTドコモは第二世代通信方式の際、世界戦略に打って出たが失敗、撤退した苦い過去を持つ。同様の苦い経験は、半導体やパソコン、その基本ソフトなどでも日本メーカーは体験している。当時、どの技術をとってみても決して遜色のあるものでなく、いやトップレベルにありながら米国や韓国にデファクトの座を奪われ、そのたびに国内市場に閉じこもってしまった。一般に日本製造業の成功の方程式は世界でもっとも洗練されていると言われる日本市場の消費者受け入れられることを第一に考え、その中で競争力がつけば自ずと世界市場でも通用するというものだった。しかし現在その図式は、変更せざるを得ない状況に陥っている。 3.ユーザーの利便性からみた規格統一かつて映像の録画方式の規格でVHSとベータが長い期間、争った経緯がある。その反省点に立って、最近ではHD-DVDとブルーレイディスク(BD=オランダのフィリップ社が基本特許を持つ)規格標準化争いで、割と早く決着、ユーザーにそれほどの不便を感じさせずに統一をみた。しかし、身の周りに目を転じると、消費者不在で企画争いをしている技術が多いことか。その主なものを挙げてみる。
前述したような利用者の不便を解消するため、新たな施策が試みられている。それが、コンセンサス標準である。広義では、デファクトもデジュールも、このコンセンサス標準に含まれると言ってよいが、狭義では、コンソーシアムやフォーラムを組んで参加者の話し合いによって規格統一を行っていく方式を指している。 経済産業省はこのコンセンサス標準づくりの方法論を確立する目的で03年6月に「標準化経済性研究会」を設置、研究に着手している。国際戦略に打って出る前に、国内での標準化までのプロセスをあらゆる方向から模索し、研究しようというものだ。平成16年から19年までの3年間で16の製品を対象に規格統一に向けた事例調査、影響分析などを行っている。対象商品と標準化技術ジャンルは以下の通り。
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