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【連載:MOTリーダーの条件 〜情報マネジメントが開く経営者の世界〜3】 イノベーションを成功させる「もうひとつの技術」 〜経営者を支援する情報マネジメントの全体像〜
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「この製品は、ヒットしそうだ」「これは、上手くいかないだろう」など、全てとは言いませんが、多くの場合、経営者は、経験から来る勘(カン)を働かせるのが上手いと言えます。ところが、多くの経営者が「製品開発のスピードを上げろ」「新製品開発費を削減せよ」などの経営課題を繰返しあげる背景には、「経営者の勘だけでは、製品開発は経営成果に結び付けられないという現実」を表しているのではないでしょうか。 ■マーケティングと技術をつなぐ技術マップ製品開発にはマーケティングが不可欠であることは、良く知られていることです。これは、「市場データを新製品開発に活かす効果的な方法は?」「社内技術資源を活かしてどのような製品を開発できるか?」などの経営者の関心事に合理的に答える必要があるからです。これに対して、「ものつくりの技術」が優れているという説明だけをしても、経営者を納得させることは、かなり困難です。 経営資源の投資計画に合理性を失えば、結果的に経営者の勘に頼ることになり、「当たった」「はずれた」という「成り行きの経営」に陥りかねません。 次頁の図をご覧ください。この図は、マーケティング情報と技術者の保有スキルを対比させた一般に「技術マップ」と呼ばれるものです。 この技術マップという情報を得るためには、技術情報だけでなく、マーケティング情報、人事情報などが必要になるのです。 ■経営者が期待するイノベーションと3つの戦略企業価値を高めるイノベーションは、ノートンの言う「企業価値を高める3つの戦略分野」でとらえることが出来ます(注1)。第一に、部材調達から製造、在庫管理などの業務の効率化戦略です。第二に、ロイヤルカスタマーの育成やブランド認知度の向上、顧客内シェアの向上などの顧客管理の改善戦略です。第三は、R&Dによる特許取得や新製品開発に関する戦略です。第一と第三の戦略は、「ものつくりの技術」そのものか、多いに関係している製品イノベーション戦略と云えるものです。さらにここで注意しておきたいことは、これらの3つの戦略を実現するために必要な期間は、それぞれ異なるということです。すなわち、第一の業務の効率化戦略は、規模が小さければ1年以内から2年で経営成果(企業価値を高める)に結びつきやすいといえます。 ところが、第二の顧客管理の改善効果について、短期であるものは一部の業種(飲食サービスなどの)に限られるでしょう。一般の業種では、2年目から3年くらいで改善の効果がでるようです。それでは、第三の製品イノベーションは、どうでしょうか。研究成果の整備状況によりますが、3年以上の中長期的な改善活動だと思います。 経営者の期待に応えるためには、このようなイノベーションを継続して行うことが強く求められてくるのです。 ■継続的なイノベーションを監視・統制するそれでは、技術者でなくても知識労働者を活かすマネージャーの仕事は、どうあるべきでイノベーションに関する3つの戦略を確実に実行しようとすれば、「ものつくりの技術」と「経営管理の技術」(注2)とを連携させて統合し、実行状況を監視することが必要になります。こうすることで、予定と実績のズレを認識することができ、修正する活動を起動させる(統制活動)など、イノベーション戦略の進捗(しんちょく)状況を捕捉すると同時に「情報」として、フィードバックさせ、経営者にイノベーションの状況を認識させることが可能となります。実際の業務で、この戦略の実行状況を監視し統制するには、どのような方法があるでしょうか。まず、これらの戦略の進捗状況を捉えるための計測可能なデータを定めて、これを効率よく収集し分析することで情報とすることが考えられます。また、定性的な情報といえども可能な限り計測可能なデータとして定義し、一定の期間ごとに収集することが必要になります。どの製品をどの市場にどれだけ、どのように導入しようとするかという事業戦略を立てた後は、その戦略の実行過程をモニタリングし、コントロールしていく段階に入ります。 このように、イノベーションのデータや情報を取り扱う活動やプロセスは、研究開発や技術部門の従業員も知っておくべき情報マネジメントの基本的な役割です。 ■経営者を支援する情報マネジメントの役割を概観するこれまで述べたイノベーション以外の情報マネジメントの機能を以下に概観しておきましょう。
研究開発や製品開発などの現場業務や顧客管理の改善、製品イノベーションなどの3つのイノベーション分野において、ある業務プロセスを対象にする情報システムの企画および、全社的なIT活用の計画(情報戦略)を立案します。 新製品を開発するために、技術者と研究者を主体にしたプロジェクトを編成して、取り組む場合、プロジェクトに関する業務(進捗管理、コスト管理、品質管理、人的資源管理、コミュニケーション管理、リスク管理など)に関する情報管理を行います。 情報リスクには、財務情報、製品技術情報、研究開発情報、新製品開発に関する情報、特許情報、技術者の個人情報などがあり、これらは情報セキュリティ(脅威からの保護)の対象でも有ります。また、製品のリコール情報など企業リスクに直結する情報もあります。このような情報リスクを防ぐ活動をして経営リスクを低減する必要があります。 一方でITは情報を蓄積することで価値をもったり、ITを構成するハードウェアとソフトウェア自体は、財務的価値や知的財産としての価値を有しています。またITに関わる業務は、それ自体、情報リスクを負っており、経営リスクを引き起こさないように「IT(情報と情報技術)およびITに係る業務を統治(ITガバナンス)する」必要があります。 企業価値を高める経営を行うためには、イノベーションが目指すビジョンやイノベーションを継続できるビジネスモデルを構築し、運営状況を監視したり統制するための情報管理が必要です。 「ものつくりの技術」の担い手は、技術者です。ドラッカーは、テクノロジストと呼んでいます(注3)。永続的なビジネスモデルを構築し、従業員の能力と組織の情報活用力を強化するためにも、経営情報を定期的にフィードバックして全社的規模で継続的なイノベーションを行う情報管理が必要になります。
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