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【連載:MOTリーダーの条件 〜情報マネジメントが開く経営者の世界〜4】

プロジェクトを成功させる「もうひとつの技術」
〜新製品・新市場開発を実現する情報マネジメント〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
一人の技術者の発想が、新たな研究の段階に進もうとするとき、試作品を市場に投入しようとするとき、二人以上の共同作業がはじまります。これらの段階を成功させれば、経営者の期待に応えられるのですが、分野も所属も異なる人々の共同作業を成功させるには、「ものつくりの技術」を経営成果に結びつける「もうひとつの技術」を的確に活用しなければなりません。

■プロジェクトマネジメントの課題

筆者は、「新規のテーマあるいは特定の要求事項の実現に取り組む有期性のプロセス」をプロジェクトと呼んでいます(注1)。研究所の建設、製造工場の拡張、マーケティング調査、テーマによる試験研究、新製品開発、新製品の市場投入などは、代表的なプロジェクトです。

このようなプロジェクトの運営管理(マネジメント)上の主な課題をあげると以下のとおりです。
  1. 一般に、プロジェクトの成功率は30%と低いといわれている。
  2. プロジェクトの進め方は、プロジェクトメンバーの個人的な能力に依存している。
  3. プロジェクトメンバーの協働の巧拙によって、成果が大きく左右される。
  4. プロジェクトの利害関係者の間では、誤解や対立が生じやすく生じると修復しにくい。
  5. プロジェクト責任者も一作業メンバーとしての仕事を持ち、専任ができない。
これらの課題の解決なくして、「ものつくりの技術」を経営成果に結びつけることは、困難であるといっても過言ではありません。

■プロジェクトマネジメントの世界的なガイドライン

「ものつくり」そのものは、日常の仕事として定着しているのがほとんどです。この場合は、自分に任せられた(部分としての)仕事を定められた手順で実行すれば、一定の成果を出すことが可能です。
しかし、新製品のコンセプトをまとめるところからその試作品を期限内に完成させようとすれば、一般に、二人以上が一定のルールで協働しなければならなくなります。これがプロジェクトの発生です。

プロジェクトマネジメントの分野では、PMBOK、ISO10006、プログラムマネジメント(P2M)という、規格や標準が存在しており、いわばガイドライン(基準を示すもの)ともいうべきものです。これら3つのガイドラインの概要を以下に記します。

1.PMBOK(注2)
プロジェクトマネジメントでは広く知られているガイドラインであり、PMI(Project Management Institute、米国プロジェクトマネジメント協会)が、発行しているPMBOK(The guide  to the Project Management Body of Knowledge)のことをいいます。
世界で統一した資格試験があり、合格者は、プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)として認定される。現在は、2008年12月に改訂し第四版となっている。

2.ISO 10006
ISO 10006は、国際標準化機構(ISO)が、1997年にPMBOKをベースに、第一版を発行した。現在は、第二版のISO 10006:2003であり。PMBOKとは、別の視点でプロジェクトマネジメントの規格をまとめている。
また「この国際規格は、プロジェクトにおける品質マネジメントの適用についての手引きを提供する」(1. 適用範囲、ISO 10006:2003)ものとされ、プロジェクト運営の品質をいかに実現し保証するかについて書かれている。

3.プログラムマネジメント
プログラムマネジメントは、1999年に経済産業省の委託によるPM導入委員会による研究成果としてまとめられたP2M(注3)の中に、プロジェクトマネジメントとともに記載されている。この中で、「プログラムとは、全体使命を実現するために複数のプロジェクトが有機的に結合された事業である。」と定義されている。経営課題を実現しようとするとき、プログラムマネジメントがいうように、単独のプロジェクトというより、マーケティング、研究開発、製造、営業など多くのプロジェクト業務が有機的に連携してこそ、成果があがるものだと思われる。

■「ものつくりの技術」を経営成果に結びつける「情報マネジメント」

「ものつくりの技術」を経営成果に結びつけるためには、仕事の進め方という点でも、プロジェクトマネジメントやプログラムマネジメントという「協働による業務の進め方・運営の技術」の力を大いに活用しなければなりません。
さらに、日常の仕事との連携も必要になってくるところから、経営目標を達成するためには、これらの技術間の連携とバランスをとる必要がでてきます。これが、情報マネジメントの役割となります。

情報マネジメントの活動領域は、「ものつくりの技術」「プロジェクトマネジメント」「プログラムマネジメント」「日常の業務プロセス」を有機的かつ的確に連携させるのに必要な情報のやり取りを含む範囲です。(図を参照)

■「情報マネジメント」の特徴的な働き

さらに、具体的な情報マネジメントの主な働きをあげると以下のようになります。
  • プロジェクトを成功させる経営管理活動であり、プロジェクトマネジメントのガイドラインであるPMBOKとISO10006を的確に連携させます。
  • プロジェクトマネジメント、プログラムマネジメントと日常の業務プロセスとの連携を的確に行います。
  • プログラムマネジメントと他のプログラムマネジメントとのバランスをとり、それぞれのプログラム目的を達成させる情報連携を確保します。
  • プロジェクトとプログラムおよび日常の業務プロセスに携わる人と人による情報伝達の仕組みを確保します。
  • 情報マネジメントの活動領域(前述)におけるIT環境を確保します。
MOTリーダーは、この情報マネジメントの技術を修得することで、経営者の信頼を得られるだけでなく、自らの仕事の意義を再確認するとともに、職務の充実感を強く認識できるはずです。
<注の説明>
(注1) このプロジェクトの定義は、PMBOK(注3)とISO10006を参考に筆者が定義した。
(注2) PMBOKは、米国PMIの登録商標である。
(注3) )P2M(Project & Program Management for Enterprise Innovation;プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック)のこと。プロジェクトマネジメントについても目標マネジメントや組織マネジメントなど、PMBOKとは別の視点でまとめられている。また、プロジェクトマネジメント資格認定センターが資格認定を行っている。

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