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【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (4)】

成果をあげる知識労働者の働き方
〜仕事で効果を出す人〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
ドラッカーは「断絶の時代」(1969年)において、働く人の重心が専門的な知識を活かして働く人――知識労働者(Knowledge-Worker)に移行したことを述べた。さらに、「ネクスト・ソサエティ」(2002年)においては、「高度な専門知識をもって身体を使って仕事をする人――テクノロジスト」(注1)の増大を述べた。
研究開発に携わる人だけでなく、製造現場や管理部門で従事する人々は、この知識労働者でありテクノロジストでもあるといえよう。

■お金では働かない人たちが増加した

テクノロジストも知識労働者であることには変わりなく、お金を目当てに働くというよりは、自分の能力の向上だとか、人の役に立ちたいという「働き甲斐(がい)」を動機とする点に大きな特徴がある。(そもそもこの動機は、働く人たちに共通するものだといえなくもないが。)すなわち簡単に上司の言うことを聞いてはくれない。
知識労働者にその成果を出させるには、いくつかの条件がある。自分の仕事は自分で計画・設計させること、必要な情報は与えること、仕事の出来栄えのデータは本人に知らせること、「いつまでに、何(どんな情報)をアウトプットしてくれるか」という責任を持たせること、などである。MOTリーダーとしては、部下の技術職や製造職、研究職の知識労働者に対して、これらの条件を満たす努力をすることが大切である。

■知識労働者が目指すべき人材像

ドラッカーは、自分自身を組織で有効な一人となることを奨励する。「今日の組織では、自らの知識あるいは地位のゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブ(Executive)である。」(注2)として、目指すべき人材像を示すとともに、一人ひとりがその人材像を実現するための知識と実践方法を示している。
知識労働者やテクノロジストである技術職、製造職、研究職の一人ひとりが、自分自身を訓練し、エグゼクティブになるにはどうするかを教えているのである。
その一つが、「成果をあげる5つの実践」(注3)である。(1)時間管理を行うこと、(2)貢献に焦点を合わせること、(3)強みを生かすこと、(4)重要なことに集中すること、(5)効果的な意思決定をすることを述べている。

■時間管理について

下記の図を見て欲しい。ドラッカーの時間管理は、時間を記録するところから始まる。とはいっても毎日、365日、24時間をつけろということではない。年2回以上、3〜4週間について記録することを奨励する。こうして時間を記録すると、誰でもムダな時間に気づくことになる。従ってまず、ムダな仕事をしないようにする。次に自分でなくても出来ることは、その人に任せる。さらに自分の時間のムダに気づいても、自分が他人にムダを強いていることもあるので、この「他人の時間をムダにしている仕事」をしないようにすれば、組織全体の時間のムダを無くすことに貢献できる。
こうして時間を記録し仕事のムダを省いたり、任せて良い仕事を他人に任せたり、組織の時間をムダにする自分の仕事をしないようにするという仕事の整理をする。その上で、成果が望まれている仕事に集中するために、ある程度のまとまった時間を確保することが必要であることは、私の体験からもいえる。

■貢献に焦点を合わせる

知識労働者は組織人であるから、自分の好みで仕事を決めるわけにはいかない。自分と関係する人と無関係な仕事をするわけにもいかない。仕事は何でもそうだが、自分の仕事には必要な環境や情報が要る。その環境や情報は、自分が知っているか知らないかに関わらず、自分以外の人間がした仕事の成果である。誰かが仕事をするとき、誰かがした仕事の成果をインプットとして利用しないわけにいかない。このように、知識労働者の仕事は、その結果生じた成果が、別の仕事で満足に利用されたときに初めて”貢献”したとして“有効”となる。従って、仕事をするときには、自分の好みで選択するのではなく、組織が必要としていること、自分が成すべき組織のニーズを知ることから始める必要がある。例えば、技術者であっても、「これをすることは顧客にとって有益か?」の問いを自らに発し、行動をコントロールすることなどである。
このように貢献に焦点を合わせるとき、その仕事が自分の強みと合えば幸福なことであり自己実現と組織ニーズは共に満たされる。

■強みを生かす

このような時間分析は、自分の強みを知ることにも有効である。成果を生んだ仕事とその時間帯を知ることができることから、自分の仕事の得意分野と得意な仕事の仕方までも気づかせる。このようなフィードバック(当初の期待と結果を照合して改善の気づきを得る活動)は、自分の強みを知るのに有効である。
自分の強みを知ったらそれを組織が求める成果を実現するために有効であるように組織内の役割を見つけることが大切である。誰でも上司から言われるのを待つのではなく、自分の強みを上司に理解してもらうように働きかけることが必要なのはいうまでもない。
組織の目的や目標を実現するために、一人ひとりの強みが貢献する有機的な関係こそ、マネジメントが目指す組織だからである。

■重要なことに集中する

効果的な仕事をして成果を出せる人と出せない人の違いはどこにあるだろう。多くの場合、良い結果を出せない人は、時間の使い方や仕事の仕方が適切でないことは明らかである。仕事の選択自体、適切でない場合は、初めから組織の成果と無関係な努力をしてしまうことになるし、その結果が組織から見て“貢献”と評価されることはないに違いない。
前述したように仕事に着手するときには、組織の目的と目標を実現するために成されるべきニーズに焦点を合わせる。その上で、成すべき事は何かを考える。当然、仕事の優先順位を考えるべきだが、時間の制約から優先順位だけでは仕事を選択できない場合も多い。
この場合、成果を生まなくなったもの、組織成果に貢献しないこと、自己啓発から見ても優先順位が低いものは、まず廃棄すべきものとなる。このように優先順位と劣後順位を検討することによって、集中すべきことが見えてくる。「過去を計画的に廃棄せよ」とドラッカーは言う。(注4)

■効果的な意思決定をする

集中すべき仕事を選択する場合においても意思決定は重要である。仕事は、始めから成すべきことがきまっている場合ばかりではない。特に課題を解決する場合には、新しい考え方や作業の段取りを計画する場合もあり得る。これまでの作業の仕方や順番が違ったり、手順が省かれたりする場合は、これまでの方法を支持する人から対立意見も生じやすい。ましてや新しい考え方を仕事に取り入れる場合は、ふだん革新的な人だと思っていた人までもが、反対意見を表明する場合がある。
自らこうしたいとの意見をもちそれに説得力を持たせるには、その意見としての仮説を証明するデータや情報を収集しておき、そのデータや情報をもって関係者を説得しなければならない。
一方「あのときやらなくて良かった。言わなくて良かった」という経験を誰もがもっている。どんな場合においても、意思決定をしないという選択肢はいつもあることを忘れてはいけない。

■ドラッカー「マネジメント」の個人の視点

マネジメントには、組織を運営するというもともとの意味がある。また同時に、組織の上に立ち運営する役割の人を表す。これだけでは組織が機能しない。働く一人ひとりがマネジメントを理解してそのニーズを果すべく“貢献”するとき、人が効果的な仕事をするとき組織全体が機能し得る。このような個人は、知識労働者であり、エグゼクティブである。しかし、ドラッカーは、このような人材像をエフェクティブ・エグゼクティブ(Effective Executive)と呼んで、有効的(組織の目的目標を実現するのに効果的)な仕事ができる人、良い成果を生み出せる自己訓練の方法を述べている。今回はその一端を紹介した。

■MOTリーダーの仕事の役割

ドラッカー「マネジメント」の特徴の一つは、マネジメントの対象を自分自身にも向けていることである。他人をどうこうする前に、まず自分から範を示すこと、自らエフェクティブ・エグゼクティブになることこそ、MOTリーダーの役割であり仕事であることを忘れてはならない。

<注の説明>
(注1) (1)p86
(注2) (2)p23
(注3) (2)p43
(注4) (2)p142
※参考文献
(1)「テクノロジストの条件」P.ドラッカー著、上田惇生編訳、ダイヤモンド社。
(2)「経営者の条件」ドラッカー名著集、P.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社。


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