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【連載:世界一の品質を取り戻す37】

検証・日本の品質力
太陽光発電の成否のカギを握る「FIT」制度設計
−関連する技術とシステムの最新動向を探る−
山本 行雄  
(ジャーナリスト・前日刊工業新聞論説委員)  
 

3.11東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故を受けて、わが国のエネルギー基本計画は大幅な見直しを今迫られている。
まず問題になるのが原子力発電の取り扱い。今震災の前年に策定された原発推進・拡大(2030年までに総発電量に占める割合50%計画)は消えたものの(1)現在建設中の電源開発の青森県大間原発などを含めて、安全基準を高レベルに設定し、ストレステスト(耐性試験)をクリアした原発を再稼動させ耐用年数が来たものから順に廃炉、フェードアウトする。(2)建設中のものは中止し、現在ある54基を耐用年数が来たものから順に廃炉にする、(3)ドイツのように一定期限を区切って(2022年)全廃するなど、幾つかの方向性があるが「脱原発」をうたっている政府の方針はまだ決まっていない。細かくは成長戦略の一つ原発輸出(インフラ輸出)、プルトニウム(六ヶ所村再処理工場)の扱いなど、まだ決断を迫られる要素は多い。
だが当初勢いのあった「脱原発」の声も現在では小さくなりつつある。「埋蔵電力」―これは一般企業が持つ自家発電による電力の余裕分のこと。この部分を企業は電力会社に売電しているが、自社消費分を除くと新たに売電できる埋蔵電力は約130万kWhで原発一基分に過ぎないことが経済産業省の調査で分かった。政府はこの埋蔵電力を原発の代替電源と期待していたが、当初の見込みより大幅に少ないことが分かり、「脱原発」方針の修正を余儀なくされている。
一方、日本は「2020年までに温室効果ガスを1990年(基準年)比25%削減する」を国際公約にしている。よって化石燃料(石炭、石油、天然ガス等)を用いた発電はこれ以上望めない。また、これら燃料は限りがあり、今後争奪戦が激しくなりコスト上昇が必然と言われている。
よって、当面の間は再生可能エネルギーの更なる技術開発と大幅な普及拡大を待つしか道はなく、そのギャップを原発が埋め、足らない部分は国民の節電努力に頼らざるを得ないというのが現状だ。
そこで浮上してくるのが再生可能エネルギー。これは太陽光、太陽熱、水力、風力、地熱、バイオマス発電などの総称だが、電力の主力となるにはまだ多くの課題が存在している。政府は現在、原発依存度の低減の代替エネルギーとして、再生可能エネルギーの普及促進のための法案、「再生可能エネルギー特別措置法」の制定を進めているが、具体的制度設定には相当の工夫が必要となる。
ここでは再生可能エネルギー、特に太陽光発電を中心に、各国の取り組みと普及促進の両輪である蓄電池その周辺の技術動向などをレポートしてみたい。

1.ドイツの太陽光発電 急拡大のスプリングボードとなった「FIT」

日本の太陽光発電の取り組みは早く2000年代初めまでその質・量とも世界を圧倒していた。
しかし21世紀にはいると国、自治体は「太陽光発電は軌道に乗った」(既存の電力会社の圧力等もあって)として、助成策を大幅に縮小(現在は余剰電力の買取のみ)してしまった。その間隙を突いてドイツ等欧州勢は手厚い助成策を武器にそのシェアを伸ばした。特にドイツは瞬く間に日本の地位を奪ってしまった。中核となったのが国の施策、「FIT」=Feed-In Tariff(固定価格買取制度)であった。世界で採用されている再生可能エネルギーへの助成制度はいろいろあるが、主なものを紹介すると

・固定価格買取制度(FIT):再生可能エネルギーの買い上げ額を一定期間保障する。
期間中の買い上げ額を固定する方法(Fixed Tariff)と、電気料金に一定額の上乗せする方法(Premium Tariff)がある。後者はFIP(Feed-In Premium)とも呼ばれる。買い取り範囲は余剰電力購入制度とは異なり発電量を一度全量買い取る。
・クウォータ(義務付け=QuotaもしくはObrigation)制度:
電力会社や消費者に一定割合での利用を義務付け守らなければ罰則規定があり、処罰する制度。たいていはグリーン電力証書制度(TGC=Tradable Green Cretificates=環境価値だけを取引可能な証書の形にしたもの)を併用するのが一般的。代表的なものにRPS(Renewable Portforio Standard=再生可能エネルギーの利用割合を義務付ける)制度がある。
・余剰電力購入制度(Net Metering):
自家消費しきれずに余った電力分だけを買い取る制度で買い取り価格の取り決め方によってはFIPと同等もしくはFITとFIPの中間となる。
・補助金制度:
設備導入費用などに対して直接補助する制度。導入時の負担を軽減し、電気料金への影響を抑える効果がある。
・税額控除(Tax Credit)制度:
この中には設備費など出費に対するもの(ITC=Investment Tax Credit)と発電量に対するもの(PTC=Production Tax Credit)がある。ITCは補助金に近い。また財源の違いを除けばPTCはFITやFIPに近い。ただし控除のみで払い戻しがない場合は効果が落ちる。
・生産企業に対する財政政策支援制度:
設備などの関連製品を生産する企業に対して、投資や融資に対する補助や税制上の優遇措置を与える。特に国内での生産を促す目的で用いられる。こうした制度は多くの国々で採用されている。
この他にも入札制度などがある。
主要先進国は1990年代からCO2削減の視点から再生可能エネルギー産業の育成に取り組んでおり、これらの施策を各国あるいは自治体の財政事情によって組み合わせを変えて取り組んできた。ドイツも試行錯誤を重ねながら1990年代後半から大胆な支援策を導入、太陽光発電といえばドイツといわれるほど世界の太陽光発電市場を牽引するまでに躍進した。完全に日本を抜き生産量世界一のQ-Cell社や老舗のSchott Solar社など数々の太陽電池生産企業と世界一の規模の国内市場を擁している(ちなみにソーラーパネルの世界順位は(1)Q-Cell社10.4%(2)シャープ9.7%(3)サンテック=中国8.8%(4)京セラ5.5%(5)ファーストソーラー=米国5.5%=2008年実績)。さらに2007年以降もドイツは国全体で年間70億ユーロ近い追加費用をかけて再生可能エネルギーの普及対策を続けている。それによって産業全体の売上高が250億ユーロ、約25万人の雇用を新たに生み出している。そしてドイツは風力、バイオマスで世界一の発電量を誇るまでになっている。
では現行の日本の再生可能エネルギー対策はどうなっているかというと、方式は太陽光並み、範囲は住宅の余剰分だけで、買い取り価格(1kワット時)42円、期間は10年(家庭の負担額10年後月100円程度となっている。
そして再生可能エネルギー特別措置法案では方式の対象は太陽光だけでなく、風力、小規模水力、地熱、バイオマスまで対象を広げ、範囲は太陽光が住宅は余剰分住宅以外の企業などは全て、その他の発電方式は全てとなっている。買い取り期間は太陽光は住宅が10年、住宅以外は15〜20年、その他の方式は15〜20年となっている。導入後の家庭の月額負担額は150〜200円を想定している。
では欧州の取り組みはどうなっているかというと、ドイツ、フランス、イタリアを代表例として紹介すると3カ国とも発電方式は太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの5方式全てが対象、買い取り価格(同)はドイツ32.2〜42.9円、フランス57.2〜75.4円、イタリア54.9〜61.1円(プラス個別の売電価格)となっており、期間は3カ国とも20年となっている。そして関連企業分野への年間投資額(2010年実績)は日本が3083億円だったのに対し、ドイツが3兆6293億円、フランス3524億円、イタリア1兆2245億円になっている。
ドイツ環境省はFITを中心とした一連の助成策の効果として以下、5つのポイントを挙げている(2008年)。
  1. 電力の15%弱が再生可能エネルギーに(現在は18%、2020年には30%以上が目標)
  2. 再生可能エネルギー関連の総市場規模約250億ユーロ(風力発電関連70%、太陽光発電関連30%を輸出)
  3. 約25万人の雇用を創出
  4. 枯渇性エネルギーの輸入量が減少、スポット価格も抑制、これらのトータル節約額は年間約50億ユーロと試算
  5. 2007年時点で1990年の排出量の18%を削減、外部コストの節減によって環境保護の面でも利益が上回ると推定
ドイツはこうした高い成果を上げたが、あまり厚遇しすぎるとスペインのように太陽光バブルが発生し、混乱する可能性もある。スペインは04年から07年にかけて雇用創出につながるとして、助成を大幅に拡大、FITは08年に市場価格の約10倍、期間も25年とした。結果スペインでは政府の巨額の補助金を目当てに太陽光バブルとも言うべき過剰投資が起き、大混乱を招いている。
日本の再生可能エネルギー法は8月末成立、来年施行の予定だが国情に合った詳細な制度設計が必要になる。基本は将来を見据えて、ビジネスになり得る価格で買い取る(産業振興と雇用創出)。
まだ残された課題として「例外規定」の問題がある。送電網が足りない、満杯になっているとして電力会社が全体の安定が損なわれるとして、買取を拒否できる規定があることだ。これを活用して新エネルギー促進が損なわれないように国は施策を講じる必要がある。その手立てとして、早急な発送電分離、新規参入企業出現を促す施策も必要となる。

2.メガソーラー計画の相次ぐ立ち上げ

原発事故関連を受け、太陽光発電(太陽電池)メーカーが次のビジネスチャンスとして注力しているのがメガソーラーシステム。規模の問題でなく(パネルやモジュールの製造の販売だけでなく)太陽光発電システムの設計・施行事業(システムインテグレーター事業)も抱き合わせたビジネスモデルを構築し、差別化を図りグローバルビジネスとして育成しようとする戦略だ。
世界に太陽電池メーカーが林立し、価格低下が急速に進んだ08年ごろから米国、中国などでメガソーラープロジェクトが相次いで立ち上がった。09年に発表されたものだけを見ると、米国が10件、中国が6件、日本だけでも2011年までに21件が計画されている。
先行するメガソーラー企業の代表が米国のファーストソーラー社。米国のメガソーラー計画の大多数に同社が絡んでおり、たとえば南カリフォルニアの550メガワット規模(世界一の規模)の太陽光発電所建設計画には同サザン・カリフォルニア・エディソン電力会社を共同参画している。また、ドイツで勧められている世界第2の規模の「ソーラーパーク」建設にも、ドイツの太陽光発電企業ユーヴィー・グループと組み、昨年末稼動を開始している。
日本でメガソーラーが立ち上がったのは07年3月のこと。北海道稚内市内が市営で25000キロワット強の発電所を建設したのが最初。2010年に入ると昭和シェル石油が新潟市で(1000キロワット)、再春館製薬所が熊本県益城町で(1775キロワット)、関西電力が大阪・堺市に(1万キロワット)、メガソーラー施設を建設している。そして東日本大震災を受けてビッグプロジェクトを表明したのが、ソフトバンク、三井物産、東京電力の3社。ソフトバンクは今年7月、メガソーラー建設に向けた自治体との調整組織「自然エネルギー協議会」を設立した。震災復興、地域経済活性化や遊休地の活用につながる考え。地方自治体の関心も高く、36の道府県が参加を表明している。年内着工を目指し、発電能力は2万キロワット程度を目指す。再生可能エネルギー法の施行を待って稼動する。三井物産は被災地域および周辺地域の遊休地を活用して発電能力10万キロワット規模のメガソーラー施設を建設する。同社は既にスペインで発電能力約1500キロワットの太陽光発電事業を展開しており、国内でも東京電力と共同で羽田空港の貨物ターミナル会社に太陽光による電力供給を行っている。同社は中長期的構想として、現在の5倍以上に拡大し、日本最大の太陽光発電事業者を目指す方針を打ち出している。
東京電力は今年夏、神奈川・川崎市に浮島・扇島太陽光発電所を建設、2ヶ所合わせて2万キロワットの事業を開始している。
わが国では1995年、電気事業法を改正、独立系発電事業者(IPP)が誕生したが、原発とのコスト競争に敗れ、現状は自社工場の電力を供給するに留まっている。現状のIPP事業者は昭和電工、新日鉄、住友金属、JFEスチール、昭和シェル石油・東京ガス連合などが目立つ程度。脱原発が進めば、また発送・売電の分離が進めばビジネスチャンスは大幅に拡大する。電力小売りを手がける特定規模電気事業者(PPS=パナソニック、日産、王子製紙など46社がある)として今後、名乗りを上げる会社も増えそうだ。

3.併せて脚光を浴びる蓄電市場

再生可能エネルギーで発電した電力をさらに使い勝手を良くするためには蓄電池の性能向上が必要になる。オフィスや家庭で電力を貯め、必要な時に使いたいという利用者が増大するためだ。調査会の富士経済によると2010年の世界の蓄電池市場は約6400億円。それが5年後の2016年には約3倍の2兆1000億円規模に拡大。電池の主力は電気自動車やプラグインハイブリット用(現在は1400億円だが5年後7.4倍の1兆130億円に)などだが、電力貯蔵用分野も3.8倍の1226円市場に拡大する見通しだという。
蓄電池の種類はリチウムイオン電池、鉛電池、ニッケル水素電池、NAS電池などが主なものだが、今後より蓄電性能が高く、安価な電池が開発される可能性が高く普及は加速化される。
だが当面主力となるのがリチウムイオン電池。ソニーは今夏、福島県本官市に約260億円を投じ同電池の電極工場を完成、年末には出荷を開始する。東芝が昨年完成させた新潟県柏崎工場の生産能力を倍増させる方針。
各社とも新商品の投入に余念がない。ソニーはマンションなどの蓄電用に使う業務用蓄電モジュール(耐用年数10年以上)を、NECも来年初旬に家庭用蓄電池(価格100万円程度)を本格投入する。NECの新蓄電池は4人家族の1日の平均使用量の3分の1を蓄電できるもの。
こうした大容量のリチウムイオン電池は日本が先行していたが低価格で韓国勢がシェアを伸ばしており(サムスンSDIやLG化学)、調査会社テクノ・システム・リサーチによると、世界市場の日本のシェアは38%、韓国勢が37.7%とほぼ並んだ。3年前は日本が29ポイント上回っていた。

4.電力使用の「見える化」とスマートハウス戦略

不安定で質のあまり良くない自然エネルギーを有効活用するためには、今自分は電力をどんなところで、どう使用しているかを把握し、コスト意識を高める電力使用の「見える化」が必要となる。本来、原発事故以前はCO2削減の目的での再生可能エネルギー開発促進だった。電力の「見える化」はエコ意識の高まりの効用も期待できる(CO2排出量も併せて表示)。
内田洋行はオフィスや工場など大量に電力を使用する施設のBEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)の中で電力使用状況を見える化した監視制御システム「エネルセンス」を開発、市場投入した。エネルセンスは電力計、マルチメーター、コントローラー、サーバー用アプリケーションなどで構成される監視・制御システムに新インターフェイス、各種センサー、バッテリーレススイッチなど連携させたソリューションシステム。分電盤内のブレーカーに後付け可能。1フロアから組織別、座席レイアウト単位の詳細な消費電力の見える化も可能。ネットワーク化されたPC、無線LANに接続されたタブレット端末、スマートフォンで管理が出来る、などの特徴を持つ。将来はクラウドコンピューティングで見える化を指向する方針。
住宅メーカーも個別住宅の電力「見える化」構想を展開し始めた。それが「スマートハウス」構想。日立製作所、パナソニック、KDDIなど10社は今夏、次世代の省エネ住宅「スマートハウス」を普及させるため家庭の発電設備や家電製品の電力制御の規格統一化を目指したコンソーシアムを組織した。スマートハウスは再生可能エネルギーと家電、電気自動車などを一元管理する仕組みで3年後の商品化を目指す。
各メーカーもスマートハウスの住宅販売に力を入れ始めた。積水化学工業(「セキスイハイム」名で展開)は太陽光発電装置で発電し、使用エネルギーの管理(見える化)も行うシステム(HEMS)を搭載したスマートハウスを今春から販売開始している。太陽光発電(PV)搭載の全部に、スマートハウスマネジメントシステム(「スマートハイム・ナビ」)を標準搭載し、需要状況を見える化、併せて双方向コミュニケーション(クラウド化)で省エネを促進、さらにサービス内容を充実させたコンサルティング(「スマートハイムFAN」)を今秋オープンし、サービスの強化、充実を図る方針としている。


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