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【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (25)】 マネジメントと社会的責任(2) 〜本業でITを使う解決策、「おまけ」ではない〜
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私たちの常識には、社会に対するインパクト(影響)に対しては、責任を持つべきだというのがある。さらに意図的に生じたインパクトではなくても責任を持ちなさい、というのがドラッカーである。ビジネスの成功という光の部分に対して、インパクトという影の部分がある。午前中には日陰だったが、午後からは日向(ひなた)になる場所は、生活圏の中に多く発見できる。マネジメントが社会的責任を初めからあわせ持った存在であることは、自然の理が私たちに示していることでもある。 ■製造会社の社会的責任の例日向の部分といえば、製造現場で進んでいるコスト削減と生産性向上を目的とした製造現場の機械化がある。理想像としては、ボタン一つで製造工程が完全に自動化されるというビジョンも描かれる。すでに一部の製造ラインでは、製造工程の完全自動化が実現されている。このようなマネジメントは、コスト削減と生産性向上という社会的責任を本業で実現している姿として一定の評価はできる。しかし、完全な自動化が出来ないほとんどの製造現場は、機械と人とが共働によって、仕事の成果を出すという製造工程である。機械の働きに品質を要求することから機械消耗や機械保守に関心をもつのは当然である。それでは、人の働きに対する品質については、どれだけ関心をもちその改善に機械への投資以上のことをしてきたであろうか。ホンダは、人の作業負荷の改善に関心をもち、人間工学の観点を取り入れて、作業姿勢評価システムなどを開発しそれを活用することで作業負荷の改善に取り組んでいるという(注1)。作業ごとに腰などにかかる負荷を3段階で評価し、その結果を作業手順の改善や補助器具の導入に活用しているという。人が働くときの動作を細かく分析し、人体の部位(首、腰など)にかかる作業負荷を判定するという仕組みである。作業負荷の状況報告を個人の自己申告に任せておくと、ベテランほどモノを言わなくなる傾向が強い。若い人が育たないどころか、本人の健康が蝕まれていることに本人は慣れてしまい、会社は気付かないでいるということが起り得る。影の部分に光を当てる(新たな社会的責任の課題)というマネジメントは、まだ、緒についたばかりである。 ■社会的責任は「おまけ」ではないドラッカーは、「マネジメントは、四次元である」と定義した(注2)。これを簡単にいえば、第一、組織の目的とミッションを果たす。第二、仕事を生産的なものとし、働く人たちに成果をあげさせる。第三、社会的な責任を果たす。第四、現在と未来をともに満足させる。という四つの次元を意識して意思決定し、行動するのがドラッカーの説いたマネジメントである。単なる金儲けの方法論としてのマネジメントとは、明確に区別されるべきものである。また理解しておかなければならないのは、四次元の各次元の優先順位には、差が無いということである。成果を上げる事を最優先にして取り組もうとしても、第二次元である「仕事を生産的にして一人ひとりの強みを結集すること」無しに、成果を出せることはない。これらの4つの要素を優先順位とはしなかったドラッカーの意図を理解したい。つまり、ドラッカー「マネジメント」においては、社会的責任は三番目ではなく、第一の組織の本来の成果をあげることと同じように、最初から合わせて考えて取り組むべき課題であり、マネジメントの役割であるとする理解が求められるのである。■運送会社の社会的責任の例運送会社にとっての社会的責任とは、依頼者から受け手に荷物を毀損することなく、希望の日時に届けることである。しかし、そのためにはどんな運転をしても良いという訳にはいかない。道路交通法があるし、歩行者を危険にさらすこともドライバー自身が危険な目にあうこと(これらは、急ブレーキ、急ハンドルなどの危険な運転に象徴される)があってはならない。このことも社会的責任として受け止めることが必要である。川崎市にある「寺本運送はシステムが記録したデータを基に、ドライバーへの個人指導を開始。動画をその場で見せて注意した結果、危険運転は8ヶ月間で5分の1に減少した。」(注3)という。その仕組みは、運転中の映像や音声、速度や位置などを自動記録するドライブレコーダーと某ベンダー(コンピュータメーカー、ITコンサルタント、ITサービスを提供する会社を一般にこう呼ぶ)が提供する運転監視システムを組合わせたもので、2010年1月に導入したという。このシステムを導入した主な効果は、(1)このシステムが検知した危険運転の数は、導入当初月間280件〜391件あったが、システムが記録したデータに基づいてドライバーへの個別指導をしたところ、8ヵ月後には5分の一に減少した。(2)事故の減少で保険料が約3割減った。(3)運転の変化で車輌の燃費が改善した、という。同社は、また、遠隔操作で結果を確認できるアルコールチェッカーもすでに導入済みである。この運送会社の事例は、社会に対するインパクトが起こってから、その後始末をすることが、社会的な責任を果たすことであるというような「おまけ」的な考え方とは、一線を画すものである。 ■IT(情報とその関連技術)が鍵を握るホンダの作業姿勢評価システムは、着想が良い。さらに、そのソフトウェアを開発した担当者は、IT部門ではない。人事部安全衛生管理センターの社員だというのである。寺本運送の運転監視システムは、安全運転に対する経営幹部のリーダーシップが無かったら実現しなかったに違いない。何故なら、ドライバーは監視されることを嫌うからである。ITの問題は、IT部門に任せていれば良いという考え方は、もはや通用しない。 良いことだとは知っていても、それに手をつけず見過ごしてしまえば、製造現場で働く個人の健康を害したり、交通事故という人命に直接関わる社会的不祥事を激減することはできなかったであろう。製造ラインの人的負荷を軽減した仕組み(システム)も、危険運転を激減させたシステムも、ITを活用したものであり、ITが無ければ実現することはできないものである。いずれの事例も、経営幹部や現場従業員が、社会的責任を強く自覚し、ITの作り手(社内のIT部門やIT専門家)を巻き込んだことが、社会的責任の成果を出せた要因である。これら業種が異なる二つの会社の事例は、本業においてITを活用することで社会的責任を果たしている好事例と言えよう。 ■ISO26000に見る情報原則下図を見て欲しい。ドラッカーのマネジメントにおいては、組織が成果をあげることと同等に、社会的な責任を果たすことの重要性が強調されている。これまで企業は、環境報告書やCSRレポートという形で情報を開示してきた。しかし、ISO26000が世に出たことで、これまでの環境や社会的責任に関する情報開示の形が変化し始めた。株主をはじめとする利害関係者(ステークホルダー)に対する社会的責任に関する情報提供を行なうためには、組織全体に社会的責任を徹底するための情報基盤を構築するよう勧めており、社会的責任に関する情報の条件として次を挙げている。(注4)
■MOTリーダーの役割現代は、企業として社会的責任を重視するマネジメントに移行していく過渡期にあるといっても良い。職場をあずかるMOTリーダーには、ドラッカー「マネジメント」とISO26000の両方を学び、社会的責任とは何なのか、自分の働き方にどのように活かすことができるのか、また活かすべきなのかを問うことが求められている。
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