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【連載:工場ばらしのすすめ6】

第6回 応用実践篇3
ダイニチの「4Hハイドーゾ生産方式」コンベア組立法

(株)付加価値経営研究所 所長  
関根 憲一
  
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  1. D社の特色は受注後4Hで生産、ハイドーゾと納品する方式
    トヨタ生産方式の基本思想として「早くつくれば、よいものが安く出来る」という考え方がある。日本最速とまではいかないが、それを狙った作品のひとつがD社の4H・ハイドーゾ生産方式である。未完の部分(塗装と組立のライン連結)もあるが、全工程を連結し、組立はコンベアで組立る方式である。ただし、大型製品の受注品は、大型のセルである。海外に負けない工場づくりの1方法として紹介する。
    まず、図3−1のダイニチ工業の「4H・ハイドーゾ生産方式」を見てほしい。

    図3−1 ダイニチ「4時間・ハイドーゾ生産方式」
    図3−1 ダイニチ「4時間・ハイドーゾ生産方式」

    この生産方式を正確に説明すると、「販売会社から受注があったときに、資材課兼生産管理課が受けて在庫があれば即、出荷する。なければ即、その機種の生産指示を出して、プレス部品をつくり、塗装して組立、検査、梱包し、4時間後に出荷する」という方式である。
    従来は出荷までのリードタイムが2日かかっていたが、すべての工程を連結し、すべての段取り替え時間を協力工場ふくめ9分にしてしまった。

    石油ファンヒーターをはじめ5商品群を製造
    同社の概要は表3−1のとおりである。写真3−1は工場の全景、写真3−2は主要製品のブルーヒーターである。もう少し詳しく紹介すると、同社は1964年(昭和39年)に工具、刃物、フォークなどの生産が盛んな新潟県三条市に創立された。洋食器などで知られる燕市が隣接してあり、この2つの地区は1つの金属加工産業エリアとなっており、石油燃焼機器を製造する下地が準備されていた地域であった。1979年には新潟県白根市に移転し、現在に至る。
    石油ファンヒーターとは、灯油を燃料にしたマイコン制御の暖房機器である。従来の石油ストーブ(芯で燃焼するストーブ)との大きな違いは燃焼の仕組みで、石油ファンヒーターは電気で加熱された気化器で灯油を送り、ガス化しブルーヒーターにする点である。ニオイやススが出ない燃焼方式のため、家庭用暖房機器の主役となっているのである。日本で一番最初にこの仕組みを開発し、商品化したのが同社である。
    家庭用石油ファンヒーターや業務用石油ストーブでは、業界シェアのトップを占めている。その他には、空気清浄機、焙煎機能付きコーヒーメーカーなどを含め計5商品群を製造している。

    表3−1 ダイニチ工業の概要
     創立年月日:
     本   社:
     資 本 金:
     従 業 員 数:
     代 表 者:

     売 上 高:
    1964年4月1日
    新潟県白根市大字北田中780-6
    40億5,881万円
    315名(男211名、女104名)
    代表取締役会長 佐々木文雄
    代表取締役社長 吉井 久夫
    125億5,400万円(2002年3月期)

    写真3−1 写真3−2
    写真3−1 工場全景 写真3−2 ブルーヒーター

  2. QC的改善は1/2化、QC的改革は1/5というトップ方針
    1) ダイニチのQC思想
    同社の佐々木会長が折に触れ口にする言葉を2つ紹介して、QC導入のいきさつを紹介しよう。
    第1は「知行合一」である(表3−2)。陽明学の創始者、王陽明の基本思想で「知識と行動はもともと1つである」という意味である。改善活動においても、現場の人間が現状を知り、現実にあったムダとりの知識が基本となり、“行”とは、“知”の3現主義に基づき、“すぐやる”行動にある…、それがぴったりと合ったとき、両者は表裏一体をなし、知恵を得るという思想である。

    表3−2 知行合一
     「知」は認識すること
     「行」は実践すること
     両者は表裏一体をなす
     読書や講義によって得たものは知識である。
     実行することによって初めて知恵として会得できる。

    第2は、日本のQCの育ての親、故石川馨先生が海軍時代に身につけた思想、自省である。自省とはPDCAのCである。Cとは経営のまずさ、仕組みのまずさ、技術のまずさ、モノづくりのまずさに気づくことである。
    すべてC(自省)からスタートすれば、わからないことがわかるように、できないことができるようになり、自分自身もレベルアップする。したがってQCとはCがあれば、会社はもちろん自身の技能を高め、社会にも、会社にも貢献できるようになるというデミングの思想でもある。

    2) ダイニチのデミングプラン
    同社のデミングプランとは、「デミングSHOW」をやらずに、デミングのC(自省)をスタートとした、CAP-Dである。まず、図3−2を見てほしい。

    図3−2 ダイニチ全体のCAP-D
    図3−2 ダイニチ全体のCAP-D

    同社のTQC即デミングプランは、かれこれ20年の歴史がある。デミングプランではあまりにかたくるしいので、社内の各課および主要協力工場10社を中心とした組織で、「デミング(DEMING)の会」ということにした。

     ルール①
     ルール②

     ルール③

     ルール④
     ルール⑤
     ルール⑥

     ルール⑦
    すべての改善活動はCAP-Dであること。
    改善手法はQCにこだわらない。たとえば、特性要因図はつくらなくてもよい。
    部門長は方針として改善テーマは2件/年以上と設定し、ブレークダウンする。
    楽しく、笑顔で真面目にやること。
    3現主義であること。
    参加各社はダイニチの毎月発表会に参加し、順番に実践例を発表すること。
    各社とも毎月1回2日間の即実践のQCをやる。

    以上のようなルールで運営している。

    3) QC的改善は1/2化、QC的改革は1/5でやれ
    これは同社の吉井社長のQC方針である(写真3−3)。中国に負けない条件の1つとして、QC的な小さな改善でも、チリも積もれば山となるから、コツコツ継続して活動しよう。

    写真3−3 吉井社長
    写真3−3 吉井社長

    ただし、発想だけは1/5化ができるという発想で取り組め、との考え方である。その方針が図3−3である。

    図3−3 社長のQC方針
    図3−3 社長のQC方針
実践事例紹介
事例1 プレスと塗装の連結ライン化


ネック工程は、工程前後に停滞(手痛い)品、仕掛り品が山積みしているのが特徴である。原因は段取り替えに時間がかかるため、つい大ロット生産をしてしまうからだ。同社のネック工程は図3−4のように天板ライン、本体、前パネルの3ラインで構成されているが次工程の洗浄、塗装のコンベヤーは1本しかないためと、場所が離れているために2ライン分が常時、停滞していた。
工程ばらし案としては、
 A案:プレスラインごと、洗浄、塗装シリーズ方式
 B案:プレスと塗装の連結混載方式
の2つの案について議論した結果、B案が採用され改善後のように連結レイアウトが完成した(図3−4)。仕掛り品1/3化、リードタイムは1/3化が可能になった。工場幹部との間に、工程ばらしについての意見のちがいが1つだけあった。プレス(順送、無人)の最終工程から塗装コンベヤーに移載する方法である。

図3−4
図3−4 3本のプレスラインを塗装コンベアに連結

私「移載の方法は目を持ったトヨタ式移載ロボットにしたい。中国に負けないためにも、思い切って無人化したい」
H幹部「無人化もよいのですが、よろしかったら養護学校出身者を数名訓練して担当させたいのですが」
話し合いの結果、現在は写真3−4のように3名以上が大活躍している。

写真3−4 養護学校出身者、塗装コンベアの移載に大活躍
写真3−4 養護学校出身者、塗装コンベアの移載に大活躍


事例2 タンクラインの段取り替え1/10化


タンクラインは図3−5のようなプレスのUラインで、1Fで6工程、2Fでリークテストをし、組立へ供給するラインである。プレスの型替えについては、ある程度の改善は実施していた。たとえば第1工程の300tプレスについては、①前出しの前入れ、②フォークリフトの爪入れなしの金型、③位置決め用のVブロックなど、改善されていたが、ライン全体(6工程)の段取り替えはバラバラであった。
図3−5
図3−5 タンクラインの概要

そこで海軍式のハンモック訓練を模し、みなさんに実行してもらうことにした。ハンモック訓練とはハンモックをおろし、つるし、ほどき、寝るまでの段取りである。教育時は5分かかるものが、何回か訓練を重ねるうちに、助け合いも含めて全員が45秒でできるようになる。つまり、これは1/5化訓練なのである。みなさんには安全訓練と称し、表3−3のような5つのルールを守ってもうらうことにした。

表3−3 段取り替え時リーダーのルール5ケ条
 1.大きな声を出し『集合』の合図
 2.段取り替え『はじめ』の号令
 3.安全を見て3歩以上は駆け足
 4.段取り替え作業の区切りごとの呼称
   (『取り外し』『取り付け』『終了』)ヨシ!
 5.助け合い

最も時間がかかるのは⑥の巻締機で、これについてのみシングル段取りの改善計画表を作成した。ただし、紙数の都合上省略する。
大きな改善は図3ー6のとおり。写真3−53−6に活動の様子を紹介しよう。

図3−6
図3−6 タンクラインの1/5化段取り

写真3−5 写真3−6
写真3−5 4歩以上は、かけ足  写真3−6 突き当て式 Vブロック

段取り替え1/5化のコツを要約すると、次のようになる。

 ①
 ②
 ③

 ④
 ⑤
 ⑥
 ⑦
段取り替え時、リーダーは全員が5カ条のルールを守れるムードをつくる
まず準備のムダをとる。次は交換、その次が調整である。3段階でムダをとろう
ゼロ段取りのノウハウの実行。たとえば「ボルトは取るな、外すな、ゆるめるだけにせよ」の徹底。できればボルトレスファスナーにせよ
カセット方式の工夫
基準不動の原則徹底、基準は動かすな。先端部から位置決めせよ。突き当てろ
2人段取り、並行作業の実施
標準作業と同時に標準改善の準備をする


事例3 中物、量産品組立はコンベアーラインがよい。


D社のコンベアラインは図3−7のマトリックスタイプのレイアウト。列は類似品種、行は工程である。

図3−7
図3−7 コンベアラインでの整流化

  1. コンベア組立の長所(連続生産の場合)。
    1)新人でも1日訓練で作業できる。
    2)なれによる工数、低減率が直線的である。
    3)後工程作業者が前工程作業者の品質のよし、あしがチェックできる。
    4)CT即PTになり、計算した通り物ができる
    以上のように安定したロットの場合は最良である。
当連載は「工場レイアウト改善技術」より。



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