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【連載:工場ばらしのすすめ7】

第7回 応用実践篇4
K社のプレス、溶接、組立、連結ラインづくり

(株)付加価値経営研究所 所長  
関根 憲一
  
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受注から設計・加工・組立・出荷に至る工場全体の生産性向上の実現を目指して、トヨタ生産方式に着手する会社は多い。そんなトヨタ式現場改善の特色は工程ばらしにある。工程ばらしとは現在の方法を否定し、分解してムダをとり、工程を再編成することをいう。参考文献1にも掲げた拙著は、韓国では「工程編成少人化技術」、米国では「One Piece Flow」として翻訳出版されている。すなわち、“ばらす”ことは世界共通の現場改善手段なのである。工程ばらしとは、目的機能の異なった設備や機械、工程を連結していく整流化ラインづくりの技術と言える。

1.小林製作所の概要

本稿で紹介する(株)小林製作所は1962年の創立で、新潟県加茂市に位置する金属加工・組立メーカーである。石油ファンヒーターの部品や事務機器および周辺機器部品、医療機械部品、計測機器部品、家庭日用品などを手がけており、プレス加工や切削加工、ベンディング加工、各種溶接加工などを得意としている。

会社概要

1983年にはQCサークル活動を開始し、1991年からジャストインタイム生産方式に着手。2005年には目標に掲げた「プレスロボットラインの金型交換を3人で3分段取り」に挑戦してこれを実現するなど、ひたむきに改善活動を行ってきた。
同社は、石油ストーブ業界ナンバーワンといわれるダイニチ工業の協力工場である(写真4−1)。ストーブの心臓部に相当するバーナーを生産しており、プレス・溶接・かしめ・組立・検査という異工程を1個づくり方式で流してつくろうとしている工場である(写真4−2)。そんな小林製作所の長所としては、まず小林社長を中心にあらゆる改善を、QC的発想でQCサークル的に全員で問題解決しようとする原因除去型の現場改善に取り組んでいる点である。写真4−3にQCサークルのメンバーを紹介する。そして今回、1つの試みとして、IE的発想法を加味した工程改革にトライした。これはトヨタが得意とする「2日間・即実践」の技法である。両者を織り交ぜながら改善プロセスをつくったので、以下に紹介していく。

写真4−1 ダイニチの石油ファンヒーター
写真4−1 ダイニチの石油ファンヒーター

写真4−2 写真4−3
写真4−2 組立工程概要 写真4−3 QCサークルのメンバー

2.製品および工程概要

製品のバーナーの上板かしめは写真4−4に示す通りで、工程の概要は図4−1のようになる。
写真4−4の上板かしめ品は、自動車でいうところの車体フレームに当たる。これに火口、アミ、イグナイダ、固定板、点火プラグなどのエンジンに相当する部品を取り付けていくと写真4−5の組立品になる。なお、組立工程表については紙数の都合で省略する。
図4−1
図4−1 バーナー組立の工程概要


写真4−4 写真4−5
写真4−4 上板カシメ品 写真4−5 組付工程

3.工程別ムダとり

ムダとは、目的に対して手段が大きいことをいう。または合目的ではない手段や動作のことをいう。工場も同じであるが、まずは「運搬のムダとり」の見地に立って検証した方がわかりやすい。
図4−1の中央で組立の3ラインに振分けしているからバーナー取付板工程は、中央のかしめ機2台から運搬された取付板の振り分けでもある。そしてもう1つは前工程の混合管をかしめ、プレスされた部品の組立ラインへの振り分けである。
振り分け作業は一見すると忙しく見えるが、加工ではなくただ運搬しているだけという問題を抱えている。このようなことは、工程レイアウトの検討が不十分であるために起きる。そこで、ムダとり案としてはバーナー取付板かしめ工程とプレス工程を連結し、1個づくりにすることが挙げられる。
そして問題の2つ目は、コンベヤ上の停滞品(仕掛品)についてである。搬送距離が長いためについコンベヤを採用したくなるところであるが、流れるような運搬にはなっておらず、運搬・停滞・運搬・停滞の繰り返しでは利益を生むようなことはない。コンベヤによる運搬で、1個づくりを実現するのは難しい。そこで1個づくりが可能になるように、1個加工、1個運搬になるような工程ばらしが必要となるのである。
第3の問題は、動作のムダである。これについては目で見てわかるし、QCサークルでの作業者から聞いてもよいので、それほど難しくはない。以上をまとめると表4−1のようになる。

表4−1 工程別ムダとり表
表4−1

4.1個づくりへのトライ

部品づくりにおけるトヨタ生産方式の適用は1個づくりが基本であるが、その導入に向けての手順を以下に示す。
1) 順送り方式
機械加工におけるU字ライン(製品の投入位置と取出し位置が同じ)づくりの場合は、ワークを右取り・左送りにする場合が多い。その理由は、チャッキングの位置が左側になっている場合が多いためである。
反対に、組立のU字ラインは左取り・右送り方式が多い。これは右手で位置決めする動作が多いからである。

2) バーナー取付板かしめ工程とプレス工程の連結
要は、図4−1の中央に位置する振分け作業をとってしまい、バーナー取付板かしめ機とプレス機を連結して、図4−2のように1人作業にしてしまうことである。その場合は以下のステップで進めるとよい。
  1. かしめ完了品を左手で取り、プレス上に置いてスイッチを押す。そして、すぐにかしめに行く。
  2. かしめ完了品を右手で取りながら、左手でかしめ機をセットして、右手はスイッチを押しながらかしめ済み品を完了台に置く。
  3. プレスに移行しながら①に入る。
図4−2
図4−2 かしめ、プレスの2台後引き1人作業方式

3) 1回目の結果検証
ΣHTは11秒で、目標のサイクルタイムである7秒には残念ながら4秒オーバーした。さらに改善が必要である。「即実践」にはならなかったが、原因は工程間の歩き過ぎである。

4) 異工程連結の工程設計
韓国の平和産業におけるダイカスト工場での機械加工のインライン化では1発で成功した(日刊工業新聞社発行「工場管理」2007年3月号に詳細を掲載)が、今回は1発ではうまくいかなかった。そこで代案であるが、全工程を2ライン直線ラインで工程設計することを提案した。図4−3には、異工程連結の2ラインで1個流しにトライする案を示す。
欠点としては、上板を流すのにコンベヤを用いているため、1個づくりにはならない点である。

図4−3
図4−3 異工程の連結ライン

一方の図4−4は二の字ラインで、日産が得意とする工程レイアウトである。ただし上ラインは右取り・左送り、下ラインは左取り・右送りになる。
図4−4
図4−4 二の字ライン案

5.同社の改善活動に学ぶべき点

この間、小林製作所が展開してきた1個づくり活動において、実践の際に参考となる点を2つ紹介して本稿の締めくくりとしたい。
1) 標準時間が設定されていること
協力工場にトヨタ生産方式の指導に行って最も困るのは、バックグラウンドとなるデータがないことである。あっても標準時間(ST)と称して、手扱い時間(HT)と簡易自動時間(MT)をごっちゃにしている場合が多い。
その点、同社は工場長がIEをきちんと勉強していたため、紙数の都合で一部しか掲載できないが、たとえば組立ライン編成表を見てもIE的な要素が反映されている(表4−2)。

表4−2 組立ライン標準時間および編成表
表4−2

2) QCサークルによる人間性尊重
QCサークルについて同社ではかれこれ20年以上の歴史があるが、今回のテーマがユニークであったので特別に紹介する。
  1. 工程ばらしの案を持っていたこと
    詳細図については省略するが、全部で5案を持っていた。通常は筆者の出した案にコメントする程度であるが、工場長の独創性は素晴らしいと感じた。
  2. 問題解決に「なぜか?」という原因追求があること
    一例を示すと、どこの工場でも困るのは通い箱の3S(整理・整頓・清掃)である。しかも取り出しに時間がかかる。そこでたとえばトヨタでも見られるかもしれないが、写真4−6のような通い箱を用意した。自動供給装置である。
    写真4−6
    写真4−6 通い箱、自動供給装置

  3. その他の改善
    大型プレスの段取り替え、チョコ停、プレス品の洗浄、金型のメンテナンスなど数多くの問題があるが、これをQC的に解決していく点が同社の特色といえる。
<参考文献>
1. 工程ばらしのノウハウ 拙著 日刊工業新聞社
2. 不良を出さない、つくらない、入れないしくみづくり 拙著 日刊工業新聞社
3. 中国に負けない工場 拙著 (株)新技術開発センター
4. 工場管理 1994年10月 野口恒氏レポート
5. 機械配置改善の技法 新郷重夫著 日刊工業新聞社
6. 工場レイアウトの技術 リチャード・ミューサー著 十時昌訳 日本能率協会
7. 工場管理(新しいジャスト・イン・タイム生産方式 連載) 拙著 日刊工業新聞社
8. 図説ローマ「永遠の都」都市と建築の2000年 河辺泰宏著 河出書房新社
9. 儲かる! 1人生産方式 拙著 (株)新技術開発センター
10. 進化するトヨタ生産方式 拙著 (株)新技術開発センター
当連載は「工場レイアウト改善技術」より。



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