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2002.06【特集記事−本誌編集部より−】
「YES」から始まる現場改善 現状肯定からのスタート

 
ジャストインタイム(関連商品→)=必要なときに、必要なものを必要なだけ納入する「トヨタ生産方式」の極意は「お金をかけずに生産性をアップさせること」に尽きる。在庫を持たず、不良を作らず、改善を重ねるのは生産性アップが目的だが、そのために人を阻害するものでもなければ、ぎすぎすした職場をつくるものでもない。「いまやっていることをまず肯定し、次にそれを改善し、標準化していこう」(中村信一氏)という現状肯定が基本だ。改革、改善となるとすべてが否定されるようだが、そうではない。人を大切にし、人の知恵を活かす。すべては「YES」から始まる。

●人と機械の仕事を分離、「やりがいのある仕事」を

「ムダのない人生」「ムダのないスケジュール」。これらからイメージされるのは、きっちりとした、しかし、ゆとりや遊び、余裕や面白みのない人生やスケジュールであり、ちょっとした揶揄さえこめられているケースもある。
しかし、こと仕事に関しては、あってほしくないのがこのムダである。仕事の内容は付加価値のある仕事とない仕事、つまりムダな仕事に分類される。外資系金融機関などは非常にシビアに査定しているが、製造業においては付加価値のある仕事とは製品に対する何らかの加工であり、単に「移動させる」など全く付加価値を生まない作業がある。そこを分類し、付加価値のある仕事の比率を上げていくのが改善である。
ところで、ムダを排除することは、経営上の意味も当然あるが、「人が働いているときに、やりがいのある職場、仕事でなくてはならない」という職業観、職業倫理も関連する。
その昔、トヨタ自動車物流管理部ではかんばん(関連商品→)の回収を人手で行っていた。A地点からB地点へ300メートルほどの距離をかんばんを集めては戻ってくる。そして、そのかんばんを次に使う。たしかにかんばんは一人では戻ってこないから、必要な「仕事」ではある。
しかし、所属長はこれを見て「その人がまじめにやっている。一生懸命であればあるほど、こういうことに人を使っていては申し訳ないと思い、改善しようと考えた」。結果、当時としてはかなり早い時期に電子化をした。つまり、人手を介さずに情報を取れるようにしたのである。
「子供に『お父さん、会社でどんなお仕事しているの?』と聞かれて、『かんばんを運んでいる』というのではいえないでしょう。気の毒です」とも。
これは「運搬」というムダ排除の事例だが、ムダの排除という視点だけでなく、「人の仕事」「機械の仕事」の分離であり、根底には「人らしい仕事」「やりがいのある仕事」をしてほしいというポリシーがある。
製造業は現場が基本である。やりがいのある仕事があってこそ、活き活きとした職場がつくれる。

●自働化にニンベンがつく意味

さて、人の仕事と機械の仕事を分離しただけでは、万が一に対応できない。
たとえば、何らかの加工を機械に置き換えただけでは機械が正しく作動するか、品質は保証できるか、次工程にきちんとワークが送られるかを「監視」をしなくてはならない。これでは機械Aが作業をしている間に作業者は機械Bにセッティングをするなど、多台持ちができない。また、セッティングに微調整が必要であれば、これもネックになる。不良を出したときに、作業がそのまま継続されても困る。 そこで、この機械に知恵をつける。これが自働化であり、ニンベンの意味である。自動化されたラインは不良品を作りつづけるが、自働化されていれば、1つの不良が出た段階で止まる。 その知恵の源は人だ。人がいるから「知恵」が出る。 機械化、自動化が喧伝された時代にFAメーカーのシステム担当者は「人をゼロにしていくことを提案していくことが、果たしてその企業のためになるのだろうか」と疑問を呈した。人がいなくなった現場からは自働化の知恵が出ないからだ。 この知恵は現場から出る場合もあるし、書籍や雑誌をヒントにする場合もある。他企業を見学できれば、そこから学ぶことは多い。事例を多く紹介するセミナーを受講することも着眼点を得る上で大きな効果がある。

●標準作業で次ステップへ

さて、こうした知恵やノウハウを組み込んだ工程や作業をどう定着させるか。あるいは新人に教育するか。そこが標準作業化である。
この標準作業は「いまやっていることをまず肯定し、次にそれを改善し、標準化していこう」(中村信一氏)という現状肯定が基本だ。そのため、ストップウォッチを片手にコンマ秒までをきっちりと計測、あるべき姿を描き、そこにむけて教育していくという方法とは異なる。
しかし、その日その日、あるいは人によって、作業のやり方がばらばらであったり、基準が一定でなかったりすると、「改善」をしようにも、何が「改善」に値するのか分からない。
Aさんが作業をしやすいようにしようと提案したものが、実はBさんはすでにやっていたというのでは、「改善提案」ではない。おそらく、こうした状況ではBさんはこの提案に対して、ピンとこないであろうし、これまでAさんがやってきたことはムダだ。「もっと早くに教えてよ」となるはずだ。
これを防ぐのが「標準作業」なのである。
治工具の使用方法、ワークの扱い方、タクトタイム、手順などが明記されることで、作業にかかわるすべての人が共通の認識を持てる。
ただ、この「標準作業」は常に見直し、ブラッシュアップされていかなくてはならない。一度決めたものが永遠に続くのではない。よいものがあれば改め、それを標準とし、さらにステップアップした「標準作業」にする。
記録は破られるためにある。標準作業は超えるためにある。
「一人あたり生産性アップの仕組みづくりとムダ排除」セミナーで貴社の「記録」を破る方法をぜひ見つけていただきたい。


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