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2002.12【特集記事−本誌編集部より−】
企業戦略として品質マネジメントシステム
−TS16949で何を目指すか−

 
 自動車関係の企業でグローバルスタンダードとされていたQS 9000の有効期限が2006年12月14日で切れ、これ以降、TS16949にシフトすることが求められた。この段階では内部監査員が養成されており、システムが構築されていることが求められる。製造工程フローチャートやレイアウト、コントロールプランなどをここに間に合わせなくてはならず、あせる方も多い。が、これまでlSO 9000の認証取得を受けたことやQS 9000システムを確立してきたことはそのまま生きる。安藤黎二郎氏は「やってきたところのほうが絶対に有利」と断言する。最近、「QS 9000からのシフトをどうすればいいのでしょうか」「全く無駄になるのでしょうか」といった質問が増えてきた。今回は自動車セクター規格TS16949の読み方について概説する。なお、流れや認定状況についてはすでに9月1日発行の本誌で紹介しているので割愛する。

組織で品質を確保する

 TS16949はクライスラー、フォード、GMのいわゆるビッグスリーが認めた「唯一の品質管理システム」であり、サプライヤーに要求するミニマムのシステムでもある。
 規格はJIS Q9000(品質マネジメントシステム 基本及び用語)とJIS Q9004(品質マネジメントシステム−パフォーマンス改善の指針)に記載されている品質マネジメントの原則を考慮して作成されたものだ。自動車向けのセクター規格とはいえ、ベースにはISO9000があり、冒頭の安藤氏の発言につながり、また、他産業からの関心も高い。
 さて、そのTS16949だが、ここでまず要求されているのが、顧客満足だ。この顧客満足を得るために何をするかといえば、品質マネジメントシステムを構築することである。つまり、個人の能力や資質で支えるのではなく、組織、システム、仕組みで品質を保証するということだ。ちなみに、TS16949でもポカヨケ(原文ではerror proofing)や是正処置の水平展開にも触れられており、「組織」「仕組み」を重要視していることが分かる。
 だが、いくら仕組みを完全につくっても、これを硬直化させては意味がない。変わらずにいることは退歩となる。そのために継続的改善が求められ、そのためプロセスアプローチがある。「顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために。品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを奨励している」(「品質マネジメントシステム 自動車生産及び関連サービス部品組織のISO9001:2000適用に関する固有要求事項」より)はこれを意味する。

プロセスとは何か

 では、ここで触れられるプロセスとはどのようなものか。これについても、質問が多い。同書では「組織が効果的に機能するためには、数多くの関連しあう活動を明確にし、運営管理する必要がある。インプットをアウトプットに変換することを可能にするために資源を使って運営管理される活動はプロセスとみなすことがでさる」と規定している。
 顧客の要求(インプット)に対して、なんらかの製品(アウトプット)を出す。これが大きな流れであり、プロセスだが、インプットされた要求に対して、受け手では経営者の責任、資源の運営管理、製品実現、測定・分析というサイクルが回る。PDCAだ。この管理サイクル構築も重要なポイントになる。ちなみにこのPDCAについてはNOTEとして「あらゆるプロセスに適用できる」とわざわざ注記しているほどだ。
 プロセスを基礎とした品質マネジメントのモデルについてはすでに先月紹介したが、このプロセスの相互関係を把握し、管理し、一連のプロセスをシステムとして適用することが「プロセスアプローチ」である。

なにを目的とするのか企業戦略に結びつけよ

 さて、マネジメントシステムは強制されたから、確立しなければならないものかといえば、そんなことはない。組織が自らの手で選んでいくものである。選ぶか否かは戦略である。
「品質マネジメントシステムを採用することは、組織による戦略上の決定とすべさである。組織における品質マネジメントシステムの設計及び実現は変化するニーズ、固有の目標、提供する製品、用いられるプロセス、組織の規模及び構造によって影響を受ける。品質マネジメントシステムの構造の均一化または文書の画一化がこの規格の意図ではない」(前出書・序文より)。
 つまり、「これがTS16949」という形がぴたりと決定されているのではなく、ましてや、その組織を文書でしばるものでもない。変化するニーズに追随し、よい製品を生産するためのよりよいシステムを目指すところに目的がある。7.3でも「要求事項は製品及び製造工程の設計・開発を含み、エラーの検出よりもエラーの予防に焦点を合わせる」とある。つまり、エラーを検出することが目的ではないのである。予防に主眼がおかれているところがポイントであり、これが前述の「継続的改善」につながる部分でもある。
 さらに、特別採用や是正処置などに対しての規定もある。いずれも存在そのものを否定するのではなく、その処置をどのように行ったかの連絡、記録を要件とし、品質問題が起こった場合には「止める」権限を持たせる、不適合製品を分類するといったことが要求されている。TS16949は品質を保証する(できる)組織をつくること、そしてそれは組織が生さ残る戦略としてとらえていくことを求めている。
 カーメーカーにとって信頼できるサプライヤーを探すことは重要なことである。全世界を対象にこれを探す基準の一つがTS16949であるといえる。全世界が対象なので、電力の不安のあるところ、ロジスティクスが弱いところ、モラールが高くないところといろいろある。そのために設計や工程の規定、品質、システムだけでなく、トレーサビリティや設備・エネルギーなどのインフラストラクチヤー、緊急事態への対応能力、社員への教育・訓練、データ交換の設備(コンピュータシステムなど)など、細部まで述べられている。
 これらのどの部分をどのように組み込み、活かすか。あるいは別の方法で品質をつくりこむか。これこそがストラテジーだ。単にマネジメントシステムとしてTS16949を採用するか否かではなく、組織(企業)がどういう方向を目指すかを迫っている。
 当社でも規格を理解する完全理解講座、内部監査員養成講座などを用意している。ご活用いただき、グローバルコンペティションに参加する資格を手にし、ワールドワイドで勝ちにいってほしい。


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