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2003.02【特集記事−本誌編集部より−】
ISO/IEC 17025の活用で市場を広げる
−国際規格を上手に活用する方法−

 
国境を越える取引が増加するに従い、品質、環境負荷低減の共通ルールが必要になり、ISOが普及した。各国の品質基準がまちまちであれば、取引の際にいちいち品質について吟味しなくてはならない。あるいは、製品輸入の際に自社で再度、品質に関するチェックを行う必要がある。これでは、スピード感ある取引はできない上に、ムダも多く、コスト高になり、消費者の利益にならない。一方、A国が環境負荷に対して厳しいルールを用い、B国が甘いとなれば、B国の企業が国際競争に有利に働くのは目に見えている。スムーズな取引と同じ土俵での勝負。これがISOの目指すところである。同様に、「計測」についても国際ルールにのっとった基準でより円滑な貿易、取引を行うことが可能になる。計測を行う校正機関・試験所がSI単位につながっており、マネジメントシステムが確立されていること。この要件を誰もが認めるためには、計測の仕組みややり方をシステム化し、規定する必要がある。そこでISO/IEC 17025では試験所、校正機関が具備すべき管理システムと技術能力を定めている。ますます増えるであろう国際取引をスムーズに行うためのシステム構築について概説する。

■計測は取引の基本 国際取引増加で注目

「計量」は取引の基本であり、国家の礎でもある。万里の長城で有名な秦の始皇帝が国家を統一したときもまず、度量衡を定めた。豊臣秀吉が全国制覇した際も升を統一した。これらは単位の統一を行うことで、円滑な取引を迅速に行い、公平な徴税を行うためのインフラストラクチャであったからである。
これが保証されなくては経済活動の破綻をきたすのである。これは取引範囲が広がった現代においてはさらに大きな問題になる。A国とB国が相互認証していれば、A国内で生産されたものをB国内で販売する障壁が低くなる。逆に全く異なるスタンダードを持っているのであれば、再度、証明するなどの必要が出てくる。つまり、国際基準に沿っていることが証明されれば、輸出に際して大変有利になる。さらに「有利」から「輸出に際して必要」となってきたことから、計測については大きな転換期であるともいえよう。
一方で、環境問題への関心の高さからダイオキシン、環境ホルモンなどの微量化学物質の測定やバイオテクノロジー、ナノテクノロジーなど技術の進展にともなう測定の厳密さも要求されるようになってきた。

■自社校正機関のあり方 常に第三者機関として存在

こうしたトレンドに、自社の品質保証部門や検査部門を第三者機関として独立させ、自社製品品質証明を自社で行うことが珍しくなくなってきた。この場合、注意すべきは「校正機関・試験所はたとえ企業の中にあっても裁判官の立場である。そして常に真の値を追及しなければならない」(「校正機関・試験所のISO 17025適合マニアル」岩田英夫編著)点である。組織体制、作業体制、要員数と作業量のバランスなども重要になってくる。また、一方で校正・試験の依頼者に対しては機密保持と所有権保護を保証しなくてはならない。契約書や規定などに盛り込む、誓約書の発行などの具体策が必要だ。

■信用を担保するために 国家基準にトレーサブルであること

さて、この校正機関・試験所で使用する計測・計量器、試験設備、参照標準、標準物質などは、国際・国家標準つながっていること(トレーサブル)を証明しなくてはならない。これは当然といえば、当然で、どんなに全数計測し、正しいとして品質を保証しても、その肝心の計測器が標準とかけ離れていたのでは、品質を保証することはできないからである。計測するものによるが、土壌汚染における化学物質の含有量など、微量の違いが大きな金額に結びつくことも多い。そして、トレーサブルであることと同時に、業務使用に供する前に校正・検証を行わなくてはならない。
一方、見落としがちなのが、設備に付随しているコンピュータ。同じ入力に対して手計算とコンピュータ計算との突合せによる間違いの防止、故意にコンピュータ内部の数値にアクセスできないような対策を立てる必要もある。こうした一連の流れで品質を担保し、企業の信用を築くのである。

■マネジメント能力+技術能力が必要

ISO/IEC 17025はISO 9000や14000といったマネジメントシステムと異なり、管理能力にプラスして「技術能力」についても規定があるのが大きな違いである。
この申請のプロセスについては図で示すが、認定対象を決定し、システムを構築、その上で運用基準や手順を決め、文書化するといったフローはISO 9000や14000と変わらない。が、次に運用し実績データを収集し、さらに技能試験に参加するというところで「テクノロジー」の側面が出てくる。つまり、認定を受けようという機関(企業の試験所・校正機関や業界団体での組織など)は運用ルールを定め、それを遵守するマネジメント能力、そして技術能力(同一試料による比較テストによる)が要求されることになる。認定機関もシステム審査員と技術審査員によってチームを構成する。
マネジメント能力と技術能力というと、さらに負担が増える感があるが、せっかくの制度である。上手に活用することで、製品の市場が広がる(逆に活用しないと市場が狭められる)チャンスとして前向きに検討したい。

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 本稿は「校正機関・試験所のISO 17025適合マニアル」(岩田英夫編著・29,600円)「ISO/IEC 17025内部監査員養成講座」テキスト(15,000円)を参考にテクノビジョン用に書き起こしたものです。


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