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2003.05【特集記事−本誌編集部より−】
トップのコミットメントは顧客満足
−顧客ニーズ・期待をフィードバックできる仕組みをつくる−

 
顧客の存在しないビジネスはない。ゆえに「顧客満足」をあえて語るというのもおかしな話ではある。だが、ISO9000:2000はあえて顧客の範囲、顧客満足度の継続的計測をうたい、原点を語る。ここをスタート地点としていくことで、さまざまな解が得られる。たとえば、中国シフトにしても「コスト」という顧客満足を満たすために行われている。では、コストとは異なる次元のサービスが提供できるとすれば、顧客はどうするか。また、コーポレートガバナンス不在による不祥事を顧客は歓迎しているのであろうか。「顧客重視」からビジネスプロセスを考える。



◆◆◆ISO 9000の背景◆◆◆

ISO9000制定の背景は英国における品質向上の必要性からであった。これは1979年に制定されたBS5750にさかのぼるが、もともとは第二次世界大戦下、英国の火薬工場における爆発事故が多発したため、国が生産システムを管理し、爆発事故を防ぐシステムを構築したことに端を発する。しかも、このシステムを海軍が監査し、承認したのである。
このときに留意したのが、事故防止である。つまり、この製品が肝心なときに不発であろうが、爆弾の大きさにばらつきがあろうが、製造システムが機能していればいいとしたのである。つまり、品質面は考慮されていない。
この尾を引いて、ISO 9000が決定されていったのである。このため、監査システムや製造プロセスを重視する姿勢が受け継がれたISO 9000:1987ファミリー(87年3月発行)、これにマイナー修正を加えたISO 9000:1994と続いたが、このころになってくると、製造業以外での取得が多くなってきたこと、また経営との乖離があったことに対する反省から目的の拡大(顧客満足、継続的改善、経営とのリンク)を伴う大改正が行われた。
さらに、環境マネジメントシステム監査との整合性の視点からISO 19011も発行された。

◆◆◆顧客満足をいかに知るか◆◆◆

2000年版の改正項目でも筆頭とされる顧客重視。具体的には「顧客及び法規制要求事項を満たすことの重要性について、組織に伝達する」ことがトップマネジメントとしてあげられている。顧客要求を満たすことはいかなる企業であっても、その存在基盤としてあるべきものだろう。むしろ、この要求を満たさない企業は淘汰されるといっても過言ではない。6σでも「VOC(顧客の声)」と表現する。
だが、これをきっちりと経営者のコミットメントとして打ち出し、さらに管理責任者の責務に「顧客要求事項に対する認識を高める」ことを明記したところにISO 9000:2000の先見性がある。顧客満足とは担当者一人ひとりが実現するものではなく、企業姿勢として問われるからである。
ところで、顧客といっても広い。ISO9000:2000は非製造業も想定しており、ここでいう顧客とは小売業では購入者であるし、ホテルでは宿泊・利用者、コンサルタントではクライアントとなり、教育では生徒や依頼者、病院では患者・保護者など呼称が変わる。また、郵便・貨物輸送などでは施主(依頼者)と届け先という2つの側面を持ち、小口配送においては、しばしば立場を変える。
また、ここでいう顧客の所有物は「product」から「property」に変わり、「もの」だけではなく、すべてを含むものになったことも大きな変化といえよう。たとえば顧客支給品、顧客の工具、装置、敷地、設備などのハードから、顧客から提供された機密情報などもこれに含まれる。これらの適切な管理と問題が発生した場合の連絡、改善処置のための顧客との合意などがここで必要となってくる。
では、この顧客満足をいかに満たすか。
方法としては顧客とのコミュニケーション(クレームも含む顧客からのフィードバック)、顧客、関連業者及び業界の情報、売上・シェアの推移、アンケート・市場調査、ポートフォリオマネジメント、ベンチマークなどがあげられよう。また、契約のキャンセルなどはもっとも強烈な顧客からのメッセージと受け止めていいだろう。一方、顧客の「こんなものがあったらいいなあ」が新しいビジネス展開をもたらすこともあるはずだ。
そこでこれらの顧客の受け止め方を特定できる情報源を確立すると同時に、データの収集・分析についても責任及び方法を規定していくことが求められる。

◆◆◆すべては顧客の満足のために◆◆◆

顧客満足、あるいは不満足を知った上で、顧客に対していかなる財、あるいはサービスを提供していくかが次の課題である。これを展開したものが品質方針となり、品質目標となる。もちろん、このときにはリソースをどのように配分するかといった計画やそれを実施していく上でのスケジュール、プロセス管理が出てくる(図参照)

だが、実施し、データ分析をしてもそのままでは何の進歩もない。これらの分析結果や集計結果を見て、是正処置をしていくさらにこれをマネジメントレビューの形でまとめ、品質方針にフィードバックしていくことが重要になる。
また、このときに経営理念や経営方針といったトップの考えとリンクさせていくことがポイントであろう。
顧客の存在しないビジネスはありえない。常に顧客の目、満足を追求することでビジネスが発展する。ここにこそ経営者の最大のミッションがあり、経営責任がある。そして、このミッションを遂行するために確たるマネジメントシステムが必要になるのである。

「極めつけ!ISO9000:2000体系 −基礎と実践―」より


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本稿は「極めつけ!ISO9000:2000体系−基礎と実践−」(編著:大石直暢氏、39,800円)表4をもとにテクノビジョン用に書き起こしたものです。


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