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【連載:若者を活かすジョブ型勤務システム2】

第2回
技術者と労働法

株式会社経営学校 代表取締役  左近 祥夫  
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目次
1 はじめに
2 若者を取り巻く労働環境
3 技術者
4 労働法
   −賃金等条件と退職
5 ジョブ型勤務制度の設計
6 最後に


3 技術者

3.1 技術者とは

技術とは「科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し、人間生活に役立てるわざ」を言い、技術者とは「技術を職業とする人」である10
技術者の働きがいを考える。その働きがいには次の二つのタイプがある11。技術者は下記二つの働きがいを得る可能性のある職業である。
  1. 職人的没我
    職人は、自分の仕事に入り込み、ワザのなかに自分を創り、対象物を創る。
  2. 社会的充実感
    技術者は自分が社会に役立っていることを実感できる。その仕事が社会・人類に有益であることを、誰もが是認することも実感ででる。
実態は、技術者に対し、技術者に必須とは思えない負荷をかけている。
技術者は、上司、同僚、部下との、通称、コミュニケーションと言われるものに無関係である。すなわち、あいさつ、宴会同席、葬祭出席などに、本来、技術とは無縁である。技術者の目は、上記(1)の場合、ワザにある。上記(2)の場合、科学的・技術的原理にあるのだから。

3.2 分類

ここでは技術者がおかれている産業分野(第2次産業・第3次産業)およびその技術者の担当範囲(全領域・一領域)の二つの側面から技術者を分類する。第2次産業では製造業を代表にとり、第3次産業ではIT業を代表にとる。
それぞれに該当する実際の技術者を枠のなかに入れると下表になる。なお、第一次産業の技術者はここで省く。
  1. 開発技術者
    製造業・全領域に関わる技術者を開発技術者と呼ぶ。その業務内容を確認する。開発技術者は、社内の多くの部門と関係を持ちつつシーズ(技術)とニーズ(市場)との両方に関わり、その「橋渡し」を行う。リチウムイオン二次電池を開発した技術者12を例として添える。
      手順1:
    シーズの開発
    例えば
    電気の流れるプラスチックは「電気化学的にイオンと電子を出し入れできる」「二次電池になる」ことを知り、二次電池の可能性を研究した
      手順2:
    開発研究
    例えば、
    実際にニーズはあるか、生産コストや生産性はどうか、・・・
    プロトタイプをもって想定顧客に使ってもらい事業化の可能性を探る
      手順3:
    事業化:
    例えば、
    工場を稼働し、製品ができたあと、その新製品の意義や利便性、その使い方をマーケットに知らしむ
  2. プロジェクトマネージャー(PM)
    ここではIT業におけるプロジェクトマネージャーを取り上げる。ソフトウェア開発は、一般に、プロジェクト13という形式で進められる。
    プロジェクトマネージャーは、基本的には、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)のコントロール(管理)を行う。プロジェクトマネージャーとメンバー(SE、プログラマー)の役割は異なる。昨今のソフトウェア開発は、多くの場合、基幹ソフトウェア(現行システム)を改修する事が多く、次のような手順で進める。
      手順1:打ち合わせ(要件定義)
    例えば、
    ある顧客は従来販売管理と生産管理とが別会社であったため別システムであった。
    合併に伴い全社統合システムを構築する案件を受注した場合、顧客と打ち合わせ、要件定義(開発の目的の明確化)を行う。そして開発における優先順位や予算、納期を確認し、顧客との調整を行う。
      手順2:計画立案
    開発プロジェクトのスケジューリングを行い、各フェーズ(基本設計・詳細設計・プログラミング・テスト)の期間の割当てを行い、開発のプロセスから工数を算出。必要な開発環境(資材・備品等)や人員を決定しプロジェクト計画書を作成する。
    計画書をもとに顧客と納期・予算・内容などの打合せ、計画を最終決定する。
      手順3:体制の構築
    プロジェクト計画書をもとに開発体制を構築する。実際に作業を行うシステムエンジニア、プログラマーの人員配置をはじめ、資材・備品の調達、クライアントや外部の協力企業との連携などを行う。
      手順4:プロジェクト管理
    実際にプロジェクトが開始したら、さまざまな管理を行う。費用のコントロールや、プログラマーへの技術的な指導、進捗管理、そしてリスク管理などを行う。
    予期せぬ進行停滞要因を予測し、いかに先回りしてリスク排除・回避しておくかが、プロジェクト成功への鍵である。
      手順5:テスト、評価・レビュー
    開発作業が完了したら、テストを実施し、評価を行います。それを元に顧客から承認を得、納品を行う。
    このようにプロジェクトマネージャーとは、プロジェクトの進捗管理だけでなく、各方面への交渉やメンバーのモチベーション管理、予算管理など、多岐にわたる役割を担うポジションである。

  3. 保守員
    現実の技術者は、圧倒的多数が、一領域を担当している。ここでは、製造業のなかにおいて生産用機械を販売する会社の保守員を取り上げる。保守員は、機械が顧客に引き渡されたあと、その機械の保守(故障の修理)をすることが役割である。販売先は日本全域にわたりあるいは海外に及ぶことがあるため、出張が多い。保守部所の長は保守員の派遣に関する指示をする。いったん社外に出た後、保守員は自分の判断で行動する。
      手順1:準備
    次の準備をする。
    スキル
    顧客リスト
    道具
    取り換え用部品
      手順2:受注(故障連絡の受諾)
    顧客から故障、または何らかのトラブル(以下、故障などという)の電話連絡を受ける。故障などの内容から緊急度を判断し、当方のスケジュールと照合し、顧客訪問の日時を連絡する。
      手順3:回復
    顧客現場を訪問し、機械故障の回復を行う。責任者の立ち合いのもと、回復を確認する。
  4. システムエンジニア(SE)、プログラマー(PG)
    IT業におけるIT技術者は、細分化された、一領域を担当する若者で占められる傾向が強い。
    システムエンジニア(以下、SEという)は、プロジェクトマネージャーおよびリーダーの指揮にしたがい、システムを設計する。プログラマー(以下、PGという)はプログラムを実装することが役割である。SEおよびPGは所属する会社で、または派遣先で作業を行う。SEの行う仕事は、概略、下記のとおりである。
      手順1:システム要件の確認
    システム要件(基本設計)の説明をうけ担当部分を指定され、納期を含む制約条件が指示される。
    基幹システムERPの改修において資材購買業務を指示される。そのなかには発注残リストを日々確認できること、論理棚を簡素化する、などが要求される。
      手順2:詳細設計・プログラミング
    基本設計に基づき、詳細設計にはいる。リーダーに詳細設計の承認を受け、メンバーと打ち合わせをしながら上記のプログラム作業に入る。
    あらかじめ指示された日程計画と担当メンバーのプログラミング開発設計の進捗状況をプロジェクトマネージャーに報告する。
      手順3:テスト・検証
    SEおよびPGは仕様書を満たすか否かをリーダーおよびメンバーといっしょにテスト(検証)する。テストに合格した場合、顧客にテストしてもらう。
    顧客に改修したシステムのプレゼンをおこない、顧客から修正・追加的が要求された場合プロジェクトマネージャーの承認を得た後、プログラムの修正・追加を行う。
    SEは「上下関係(すなわち、プロジェクトマネージャーおよびリーダーへの服従)」が強く求められる。

3.3 勤務に係る要件

  1. 技術者の本質的な仕事
    技術者の任務をみると、現状の職場に置かれた技術者とは異なる姿が浮かび上がる。次の二種類の技術者がいることがわかる。
      (1) 会社内における多くの部門との協力関係が必要な技術者
      (2) 自分の能力で遂行できる技術者
    上記(1)の技術者は、創造にかかる孤独な時期があるも、多くの場合、関係者とのコミュニケーションのなかから新しいものが出てくる性質である。関係者とは異分野の人である。異分野との接触の繰り返しから創造が生まれる。
    上記(2)の技術者は、自分の技術で仕事をする人である。IT業のプロジェクトメンバーなどは、彼が個人的に習得したプログラムに関する技術(個人スキル)で、社会と渡り合っている。その技術は会社に共通であり、全世界の情報通信業に共通である。
    システムという用語は1945年以後に使われた。システムが、単に用語にとどまらず、社会を現実に規定している。それとともに上記(2)の技術者が大量に発生するようになった。すなわち、システムの現実は少数のタイプ(1)の技術者と大量のタイプ(2)の技術者が生まれ、そのあいだにギャップが生じているのである。

  2. 勤務との関係
    上記のタイプ(2)の技術者を、社内人間関係、能力開発、将来像の視点からみよう。
    1. 社内人間関係
      現在の会社に席を置くものは社内人間関係の巧拙で評価される側面が大きい。あいさつのできる技術者、報告・連絡・相談の上手な技術者は高く評価される。
      そもそも社内人間関係を維持する方法はコミュニケーション能力であるが、これが上手にできる技術者は少ない。技術者は「自分はコミュニケーションが下手だから理工系に進もう」と考えたものが多い。そのような技術者にコミュニケーション能力を要求することには無理がある。
    2. 能力開発
      大学、大学院で学習した知識を持って就職した技術者は、その知識が役立つのはせいぜい5年である。働きながら高度な知識・技術を身体に入れ込まなければいけない。
      知識・技術は他人が教えてくれない。自ら盗み取るのである。自ら盗み取ることのできる技術者だけが伸びていく。昨今の会社は、キャリアアップとかいって学習できる環境を整えているが、そのカリキュラムから学んだところで伸びない。孤独な行為が必要なのである。
    3. 将来像
      技術者の将来像は、技術者から外れ、マネージメントの領域へ進むことである。大企業はNo1が法文系、No2が理工系であり、あるいは法文系と理工系とが交互にNo1に就く。いずれにしても多くの会社において技術者が昇進するためには技術を捨ててマネージメントの領域へ行かなければならない。
      しかしマネージメントの道を望まない技術者は多い。マネージメントの領域ではなく、技術の領域で生涯を過ごしたいと考える技術者は多い。事実、課長試験を受けず、あるいは故意に落ちるものが多いことは多くの人の知るところである。
ジョブ型勤務は職務に報酬を当てる制度である。職務=技術に報酬を当てる。人間関係(コミュニケーション能力)が評価の対象になることはない。マネージメントとしての脱皮を期待するものでもない。

4 労働法

労働法は、ジョブ型勤務を設計・運用するにあたり、参照するべき法規範である。ここではジョブ型勤務の設計において必須となる事項を記述する。

4.1 労働法とは

(1)領域
労働法という名称の法律があるわけではない。労働法とは労働市場にかかる各種の問題に対応する多くの法律、施行規則などの集合体である。
さらにその体系には裁判所が出した判例が含まれる。
(2)範囲
法律としての労働法は、使用者と労働者(従業員)とのあいだを規制する個別労働関係の領域と、労働組合の立場を保護する団体労働関係の領域の二つがある。
ここでは個別的労働関係の範囲を取り扱う。
さらにそのなかでも、契約、賃金等条件、退職に関係する法律(労働基準法、労働契約法)を扱う。
労働法のなかには他に重要な法律がある。例えば、男女雇用機会均等法などである。しかし、本稿の目的を考慮して立ち入らない。
(3)用語
  1. 労働者(従業員)
    本稿では、使用者と従業員とを対峙して書いているが、労働法では本稿がいう従業員を労働者という。そのため、「4 労働法」に限定して、従業員を「労働者(従業員)」と記述する。その定義は次のとおりである。
      定義:
    使用者とは
      その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう
    労働者(従業員)とは
      使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう
    労契法 第2条(定義)
    この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
    2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

    この定義は労基法においても同じである。労働法の体系はすべて同じである。部長とか、課長が使用者にあたるか否かは、単に肩書で決めるのではなく、この定義に照らし合わせて「賃金を支払う(すなわち、経営的な地位か)」で吟味される。肩書が部長であっても、例えば50%は経営者であるが50%は労働者であることもありえる。

  2. 労働契約
    契約の法的概念は民法の定めるところである。民法には雇用(民623条)、請負(民632条)、委任(民643条)などがある。労働契約は「当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し相手方がこれにその報酬を与えることを約するによってその効力を生ずる」と規定する雇用契約(民623条)である。労働契約と雇用契約とのあいだに差異を指摘する法学者もいないではないが、実務的に同じ概念であると理解していいと考える。
    労働契約の定義は、菅野和夫14に倣って、下記とする。
      定義:
    労働契約とは
      当事者の一方(労働者(従業員))が相手方(使用者)に使用されて労働し、相手方がこれに対して
      賃金を支払うことを合意する契約である
  3. 就業規則と労働協約
    就業規則も労働協約も労働者(従業員)にかかる賃金、勤務時間、休日など勤務条件を定めた文書である。就業規則は、労基法89条で規定されたものであり、従業員代表に提示し説明することによって成立する。労働協約は労働組合との合意によって成立する。一般に労働協約のほうが安定性はある。

4.2 契約

(1)目的
何の目的で労働契約を結ぶのか、といえば、後からトラブルの発生することを防ぐことにある。ジョブ型勤務の導入にあたり労働契約(文書)を結ぶことは必須である。
もちろん、「トラブル」といったことだけではなく、次があると考えられる。
  労働者(従業員)からみると
納得して、気持ちよく働き、労働効率を高めるため。
  使用者からみると
高い生産性を確保するため。
労契法 第1条(目的)
この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。


(2)成立・変更
  1. 法律
    労働契約は、労働者と使用者との合意で成立し、変更できる。他に条件はない。
    口頭の合意でもいい(文書でなくてもいい)
    労働時間、場所、賃金の額などが決められていなくてもいい
    日本では、労働契約では詳細な条件が定められず、就業規則によって労働条件を設定することが広く行われているため、である。
    労契法 第6条(労働契約の成立)
    労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれにたいして賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意すうことによって成立する。

    しかし、使用者は労働条件の締結に際し次の労働条件を明示しなければならない。
     (1)賃金
     (2)労働時間
     (3)厚生労働省令で定める事項
    厚生労働省令で定める事項とは下記のとおりである(施行規則5条)。
       1労働契約の期間に関する事項
       1-2就業の場所及び従事するべき業務に関する事項
       2始業及び終業の時刻。所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
       3賃金(退職手当及び第5号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項。
       4退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
       4-2
    退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
       5臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
       6労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
       7安全及び衛生に関する事項
       8職業訓練に関する事項
       9災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
       10表彰及び制裁に関する事項
       11休職に関する事項

    これらのうち、労基法15条で指定する項目は上記1から4号までの事項(昇給に関する事項を除く)であるとの注釈がある。書面の交付で行う。
    労基法 第15条(労働条件の明示)
    使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
    (2)前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
    (3)前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。


  2. 労働契約、就業規則、労働協約
    ジョブ型勤務は従来の年功型勤務体系と異なる思想である。使用者は採用にあたり文書で労働契約書を作らなくてはいけない。詳細は就業規則、労働協約に規定することになるだろうが、それらを採用前に説明しなければならない。
    配置転換について述べる。
    ジョブ型勤務は職務に報酬を支払う制度である。職務が土台である。配置転換はなじまない。とはいえ、会社の成長、労働者(従業員)の適性などに伴って配置転換の必要が生じる。採用における労働契約に「配置転換はない」または「配置転換はありえる」規定をすることになるが、使用者は、必要に応じて、労働者(従業員)に相談することになる。
    配置転換に関し、判例は比較的使用者に理解ある態度を示す。
    • 労働協約及び就業規則に転勤命令の根拠規定があり、労働契約成立時に勤務地を限定する合意がないときは、個別的同意なしに転勤を命じることができる[最高裁二小(昭和61年7月14日)]。
    • 幼児を抱える女子従業員に対する配転命令には業務上の必要があったと認められ、雇用のさいに勤務地限定の合意はなく、新任地への通勤時間は合理的な範囲内であり、又は転居が可能で保育問題も解決可能であったこと等の事情を考慮すれば、女子従業員の不利益は通常甘受するべき程度を著しく超えるものではないので、配転命令には権利の乱用ではない[最高裁三小(平成12年1月28日)]。
    ただし、実質的退職を迫る配置転換は問題がある。
    • 出向命令が他の条件を満たしていても、出向者の身体的条件を無視した結果その者が新業務につくことができず事実上退職に追い込まれることとなるときは、その出向命令は無効である[大阪地裁(平成6年8月10日)]。
(3)労働契約と就業規則との齟齬の解決
  1. 法律
    労働契約と就業規則とのあいだにギャップのあることがある。この場合、次のように処理される。

    労契法 第12条(就業規則違反の労働契約)
    就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

    労契法 第13条(法令及び労働協約と就業規則との関係)
    就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。


(4)賠償予定の禁止
  1. 法律
    労働契約のさい、「履行できなかったら違約金〇〇円をいただく」とか、「顧客に損害をかけた場合、損害100に対しその30を賠償していただく」などを契約してはいけない。
    ただし、金額を予定することは禁止されるが、使用者が実際に損害を受けた場合損害賠償を請求することはもとより自由である。
    労基法 第16条(賠償予定の禁止)
    使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。


  2. 違約金、損害賠償金に関する判例
    使用者は職務に耐えうると考える人材を採用する。労働市場は使用者側に有利なこともあり、労働者(従業員)側に有利なこともある。採用にあたり「〇〇ができたら海外留学の機会を与える」などの甘言を使うことがあり、あるいは逆に「××の損害が生じた場合、弁償してもらう」などと迫る場合がある。
    これらに対し裁判所は次のように言う。
    • 技能検定試験に関する必要費用を立て替え払いし、合格、不合格に関わらず、その後、約定の期間内において退職するときは、右の金員を弁済し、その期間就労するときはこれを免除する等の特約は、(1)その費用の計算が合理的な実費であること、(2)その金員が使用者の立替金と解されるものであること、(3)その金員の返済により何時でも退職が可能であること、(4)右返済にかかる約定が不当に雇用関係の継続を強制するものでないこと、の場合は本条に抵触しない[大阪高裁(昭和43年1月28日)]。
    • 企業派遣留学制度による留学学費については、従業員が一定期間会社に勤務したときは返済債務を免除する旨の特約付きの金銭消費貸借契約が成立し、費用負担は同契約によって決せられ、労働契約の不履行によって費用負担が決まるものではないので、違約金の定め、損害賠償の予定に該当しない[東京地裁(平9年5月26日)]。

<引用>
  1. 10岩波書店「広辞苑」第六版
  2. 11この項はバートランド・ラッセル著堀秀彦訳「幸福論」角川ソフィア文庫を参考にした。ただし、本書は、技術者だけでなく人の幸福を論じている。
  3. 12NHKカルチャーラジオ・テキスト 吉野彰著「科学と人間:電池が起こすエネルギー革命」 p.45
  4. 13プロジェクトの定義を、菅野孝男著「ソフトウェア開発のためのマネージメント」新紀元社(第5版)2001年刊 p.16に倣って、「プロジェクト:ある特定の目的をもって実施されるソフトウェア開発や新技術開発など、一度限りの性格をもつ仕事または業務であり、明確に定義された目標、スケジュール、予算を持つ。」とする。
  5. 14菅野和夫著「労働法 第11版補正版」弘文堂 p.144



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