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【連載:日本沈没に抗って!(9)】

技術職員不足時代の新たな工事発注方式について
〜設計・施工一括発注方式の提案〜

澤田 雅之  
技術士(電気電子部門)  
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1 これまでの設計・施工分離発注方式は、技術職員不足・不在の自治体には不向き

(1)その証左として、秋田県横手市が設計・施工分離発注方式で整備した下水処理場は、施工不良で供用不可


完成から3年を経ても供用できない下水処理場
(出典は横手市の公表画像)

秋田県横手市が約6億円をかけて更新整備した下水処理場は、2023年7月の完成検査で合格とされました。ところが、それから約3年を経た今日(2026年4月現在)でも、下水処理場として供用することができていないのです。その経緯は、次のとおりです。

横手市の下水処理場更新整備事業は、設計・施工分離発注方式でした。具体的には、設計業務委託の成果物(実施設計図書)に基づき、施工業務を土木工事と建築工事に分割した工事仕様書を作成して、別々の業者に順次に発注しています。

建屋の基礎を兼ねたコンクリート製水槽を整備する土木工事については、2021年3月に契約を締結して工事を実施し、2022年3月の完成検査で合格とされました。そこで横手市は、同年同月に建築工事の契約を締結しています。ところが、同年4月、建屋の基礎となるはずのコンクリート製水槽の大規模な施工不良(クラック、ジャンカ、漏水)が、瑕疵として建築工事請負業者により確認されたのです。

このため、横手市では、土木工事請負業者による水槽補修工事を何度も繰り返して実施してきたのですが、水槽の瑕疵払拭を確認できない状況が続いています。それゆえ、建築工事の完成から約3年(土木工事の完成から4年)を経た今日(2026年4月現在)でも、下水処理場として供用することができず、供用開始の目処も立っていません。

(2)横手市の下水処理場土木工事の監督員を務めたのは事務系職員

横手市の下水処理場更新整備事業は、前記のとおり設計・施工分離発注方式でした。つまり、土木工事を請け負った業者は、横手市が示した工事仕様書のとおりに施工することを求められていたのです。

ところで、土木工事の本質は、鉄筋・鉄骨・生コンを主材とする工事ですから、工事仕様書が求める工事品質が実際に確保されたか否かは、最終的な完成検査の段階では確認が困難です。このため、施工時における工事品質の確保に向けて、発注者側の監督員が果たす役割(工事仕様書に基づく確認や指示)は重要であり、このような監督員には土木技術に関する知見が欠かせません。

ところが、横手市の下水処理場土木工事の監督員を務めたのは、土木技術に疎い事務系職員でした。横手市では土木系の技術職員が不足・不在のため、やむなく、事務系職員が監督員を務めることになったと推察されます。

そして、土木技術に疎い監督員では予見することが極めて困難な不都合が、コンクリート製水槽の施工中に生じてしまったのです。具体的には、次のとおりです。

契約当初の土木工事の工期は、2021年10月までとされていましたが、同年同月の契約変更により、工期が2022年2月までに延長されています。その結果、厳冬期にコンクリート打設を行うことになりましたが、このような場合にコンクリートの品質を確保するには、保温と養生による温度管理の徹底が欠かせません。厳冬期に温度管理を怠れば、コンクリートの品質に重大な悪影響を及ぼし、最悪の場合には構造物として使えないレベルの強度不足に陥ってしまいます。このことは、土木分野の技術者には常識であるため、工事仕様書には特段の注記もありません。

しかし、横手市の監督員は土木技術に疎い事務系職員であり、また、工事仕様書に特段の注記も無かったため、土木工事請負業者に「厳冬期の温度管理の徹底」を指示することができませんでした。そして、土木工事請負業者が温度管理を怠った結果、コンクリートの著しい品質低下を招いてしまったのです。

このことは、横手市の監督員による確認漏れ・指示漏れの結果責任に帰するのではなく、土木系の技術職員が不足・不在の横手市には、設計・施工分離発注方式がそもそも適していなかったことの証左として捉えるべきです。設計・施工分離発注方式による工事の監督員がその責務を全うするには、工事請負業者と同等以上の技術的知見が必要となります。つまり、設計・施工分離発注方式は、発注者側である官庁の技術力が受注者側である民間企業の技術力と同等以上の場合に、その真価を発揮する発注方式であるということです。

2 設計・施工一括発注方式が、技術職員不足・不在の自治体に最適

(1)欧米では一般的に用いられている設計・施工一括発注方式

欧米諸国では昔も今も、発注者側である官庁の技術力が、受注者側である民間企業の技術力よりも優っていた事実はありません。それゆえ、欧米諸国で設計・施工分離発注方式が用いられたことはなく、設計・施工一括発注方式が一般的に用いられています。このような設計・施工一括発注方式の特徴やメリットは、次の�@から�Cに記載とおりです。

① 「このとおりに造ってくれ」ではなく、「このようなものを造ってくれ」といった発注方式
② 発注者側である官庁には、特段の技術力を必要としない発注方式
③ 設計業務と施工業務を一括して受注することで、業者が存分に最先端技術の活用や施工上の創意工夫をできる発注方式
④ 設計業務と施工業務を一括して発注することにより、全体の工期を短縮できる発注方式

(2)常識的に取り組めば、誰でもできる設計・施工一括発注方式

我が国でも一般人が自宅を新築する場合には、官庁のごとくの設計・施工分離発注方式(つまり、建築工事に先立ち、柱や梁の一本に至るまで詳細に設計した上で、釘の一本に至るまで緻密に積算して必要経費を算出するやり方)を用いるはずはなく、実際には、特に意識しないままに設計・施工一括発注方式を用いています。

自宅の新築では、設計と施工を依頼したい建設業者に、「希望」を伝えるところから始まります。具体的には、「このような立地条件でこのような広さの土地に住宅を建てたい。坪数はこれくらいにしたい。2階建ての洋風でクラシックな感じにしたい。2階にはバルコニーを設けたい。明るくて開放的なリビングにしたい。玄関は南向きにしたい。大きな地震に耐えられるようにしたい。2台分の車庫を設けたい。・・・」といった「希望」です。建設業者は、このような「希望」を聞いて設計を行い、施工図面を作成します。設計を行う上でまだ情報が足りない場合には、「ここはどうしたいですか?」と、建設業者はさらに「希望」を聞き取ります。

実は、発注者としてのこのような「希望」を必要十分に箇条書きにしたものが、設計・施工一括発注方式における発注書(要求水準書)なのです。ここで、「2階にバルコニーを設けること」は、有るか無いかを規定する「機能要件」です。また、「大きな地震に耐えられるようにすること」は、どの程度かを規定する「性能要件」です。このように、設計・施工一括発注方式で用いる要求水準書には、決まった様式はなく、その作成を難しく考える必要もありません。受注業者に実現してもらいたい目標をしっかりとイメージして、つまり、コンセプトを明確にして、「このようなものを造り上げて欲しい。」と、受注業者に分かりやすく必要十分に伝える工夫が、最も重要となります。

このように、我が国でも一般人が自宅を新築する場合には、誰でもごく自然に設計・施工一括発注方式を実践しています。つまり、必要に迫られた場合に常識的に対処すれば、技術的知見がなくても設計・施工一括発注方式を効果的に用いることができるのです。このことから、技術職員不足・不在の自治体には、設計・施工一括発注方式が最適であり、後は具体的な取り組み方を理解して実践すれば良いのです。

(3)技術職員不足・不在の自治体における設計・施工一括発注方式の具体的な取り組み方

設計・施工一括発注方式を成功させる上での要諦は、理想的な要求水準書(つまり、受注業者が設計業務と施工業務を実施する上で必要十分となるように、「機能要件と性能要件」をリストアップした要求水準書)を作成することです。このような要求水準書が準備できれば、下記の�@から�Gまでの手順に従うことにより、技術職員不足・不在の自治体であっても設計・施工一括発注方式による工事を着実に実施することができます。また、このような手順に従うことにより、会計検査院の会計実地検査を受けた際に、発注の手続き面が問題視される恐れを払拭することができます。

① 【要求水準書の作成】 発注しようとする工事で実現したい目標(コンセプト)を明確にして、受注業者が設計業務と施工業務を実施する上で必要十分となるように、実現を求める「機能要件と性能要件」をリストアップした要求水準書を作成する。
② 【見積依頼文書の送付】 発注しようとする工事と同種工事の設計業務または施工業務の受注実績を有する複数の業者を書面決裁により選定して、①の要求水準書を添付した見積依頼文書を送付する。
③ 【予定価格の策定】 ②で徴収した複数の見積書を査定することにより、予定価格を策定する。
④ 【一般競争入札による業者選定】 ①の要求水準書と③の予定価格に基づき、発注しようとする工事と同種工事の設計業務または施工業務の受注実績を有することを入札参加条件に加えた一般競争入札により、発注しようとする工事の設計業務と施工業務を一括して担うことができる業者(設計業者と施工業者がJVを組む必要はなく、委託契約による補完が可能)を選定する。
⑤ 【承認図書の作成と承認】 ④で選定された業者は、要求水準書に規定された承認図書を作成して、発注者の承認を得た上で施工に着手する。ここで、承認図書とは、要求水準書に記載された要求要件を全て満たすことの証明、施工内容や工法についての詳細(つまり、実施設計)、社会資本整備総合交付金の交付申請に必要となる積算、全体の工程、施工時の体制、現場における安全確保策等、について記載した図書のことである。
⑥ 【社会資本整備総合交付金の交付申請】 ⑤の承認図書に記載された社会資本整備総合交付金の交付申請に必要となる積算に基づき、社会資本整備総合交付金を国土交通省に交付申請する。
⑦ 【工事の実施】 ④で選定された業者は、①の要求水準書と⑤の承認図書に基づいて工事を実施する。工事の施工管理と品質管理は、④で選定された業者の責任で行う。品質管理は、その結果が確認できる資料を作成して発注者に報告する。
⑧ 【工事の完成検査】 ⑦の工事の終了後、①の要求水準書と⑤の承認図書に基づいて、発注者側の検査職員が工事の完成検査(必要に応じて破壊検査を含む)を実施する。

【 この記事の参考資料 】

  1. 横手市監査委員による「議会の請求に基づく監査報告書(監第32号、2024年5月27日)」
  2. 横手市議会の「大森浄化センター整備事業に関する調査特別委員会」による調査報告書(2025年8月)
  3. 2026年4月20日付の日経クロステック記事【下水処理場で施工不良、2年以上稼働せず】
《著者のプロフィール》

澤田雅之技術士事務所所長、技術士協同組合理事、元警察大学校警察情報通信研究センター所長
2022年、書籍【「性能発注方式」発注書制作活用実践法】を(株)新技術開発センターから出版。
2026年、書籍【最新のインフラメンテナンス成功法】を(株)新技術開発センターから出版。




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