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【連載:日本沈没に抗って!(2)】

令和6年能登半島地震でのドローンによる災害対応と
南海トラフ巨大地震に向けて判明した課題

澤田 雅之  
技術士(電気電子部門)  
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孤立地域の避難所への薬搬送に用いたAirTruck

機体サイズ1.7×1.5×0.44m
機体重量10kg  ペイロード5kg
最高速度36km/h  最大飛行時間約50分
最大飛行距離約20km
重心制御技術による積載荷物の揺れ防止
LTE電波圏内であれば通信距離に制限無し
外界監視機能無し


AirTruck(画像の出典はACSL社のHP)

1.ドローンが大規模災害対応に本格的に活用された我が国初の事例

令和6年1月1日に発生した能登半島地震では、ドローンが我が国で初めて、災害対応に本格的かつ多角的に活用されました。その中核を担ったのはJUIDA(一般社団法人 日本UAS産業振興協議会)であり、輪島市からの要請(1月4日)と珠洲市からの要請(1月14日)を受けて、ドローンを震災現場で活用する上で必要となる関係機関との調整や、JUIDAの協力会社への指示・統括を実施しています。

震災現場での実際の対応は、JUIDAの協力会社であるブルーイノベーション(株)、(株)リベラウェア、(株)ACSL、(株)ドローンオペレーション、(株)エアロネクスト等が、JUIDAの統括下で実施しています。具体的には、協力会社各社のドローンを用いて、孤立地域の避難所への薬搬送、孤立地域の情報収集、住宅・商業施設・漁港・地滑り危険区域等の被災状況の確認、倒壊した家屋内部や倒壊リスクのある大型商業施設内部の現場調査、仮設住宅建設予定地の撮影などを実施しています。

2.ドローンによる我が国初の大規模災害対応で判明した課題

我が国ではドローンによる大規模災害対応の前例が無かったため、能登半島地震被災地の実情に即した、臨機応変な判断と迅速な対応が求められたところです。このような対応に努める中で、次の2項目の課題が判明しています。

(1)捜索・救助を含めた災害対応を迅速に展開できなかったこと

1月1日に能登半島地震が発生した後、1月4日に輪島市から、1月14日に珠洲市から、それぞれJUIDAに支援要請がなされたのですが、いずれも、航空法が規定する「捜索・救助の特例」に基づく依頼ではありませんでした。このため、地震発生から既に日数が経過していたことや、使用したドローンには外界監視機能が無く自在な低空飛行には適さなかったことも相まって、捜索・救助を目的としたドローンの飛行は行われませんでした。

しかし、この先に危惧される南海トラフ巨大地震が発生した際には、非常に広範な震災現場のほぼ全域において、捜索・救助を含めたドローンの多角的活用が求められるところとなります。これには、JUIDAとその協力会社のみでは対応しきれませんので、消防本部への配備が進められている災害対応ドローンも含めて、自治体ごとに「大規模災害発生時におけるドローン活用マニュアル」を準備しておくなど、ドローンによる捜索・救助を含めた災害対応を迅速に展開できる体制の整備が望まれるところです。

(2)緊急用務空域における有人ヘリコプターとの飛行調整に課題を残したこと

JUIDAは、1月4日に輪島市からの支援要請を受けて1月5日に輪島市に到着したのですが、この時点で既に被災地全域が「緊急用務空域」として国交省により指定されていました。「緊急用務空域」では、災害対応等にあたる有人ヘリコプターの飛行の安全を確保するために、ドローンの飛行が禁止されているのです。

そこで、JUIDAは国交省と密接に連絡をとり、緊急用務空域を地上30m以上に指定変更することにより、地上30mまでをドローンが飛行できる空域として確保したのです。

これに加えて、警察・消防・海上保安庁・自衛隊等の有人ヘリコプターとの飛行調整(つまり、使用したドローンには外界監視機能が無く有人ヘリコプターを自律的に回避できないため、有人ヘリコプターが飛行する予定のエリアをドローンが同じ時間帯に飛行しないように調整)を行う体制を整えた上で、1月6日からドローンによる災害対応を実施しています。

このような空域分離と飛行調整により有人ヘリコプターの飛行の安全を確保する方策は、能登半島地震の被災地では非常に有効でした。しかし、この先に危惧されることは、南海トラフ巨大地震発生後の広域かつ長期間にわたる災害対応において、同様の方策では特にドクターヘリへの対応が難しいことです。ドクターヘリは、事前通告無しで地上30m以下の空間に降下してくるからです。このため、ドローン側で有人ヘリコプター(特にドクターヘリ)を検知して回避できる仕組みについて、速やかな導入整備が望まれるところです。

3.ドローン側で有人ヘリコプターを検知して回避できる仕組み

第2節に記載のとおり、空域分離と飛行調整による方策では、ドローンがドクターヘリと遭遇しないようにすることは容易ではありません。このため、ドローンがドクターヘリと安全に共存していく上で、ドクターヘリ等の有人ヘリコプターを、ドローン側で検知して確実に回避できる仕組みが必要不可欠となります。有力候補は、次の2項目に記載した仕組みです。

(1)ADS-B受信による有人ヘリコプターの検知と回避

ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)とは、有人航空機に搭載した送信機から、当該機の位置、高度、速度、進行方向等に関する120ビットの情報を、1090MHz帯の電波を用いて、0.4〜0.6秒のランダムな時間間隔で、半径数百kmの全周囲に送信する航空交通監視技術です。

欧米等では、有人航空機にADS-B搭載の義務付けが進められていますが、我が国では未だ義務付けられていません。

そこで、我が国でも有人航空機へのADS-B搭載を義務付ければ、ADS-Bの受信により近傍を飛行するドクターヘリ等の有人航空機の動向をリアルタイムに把握できるので、ドローンの飛行の見合わせや飛行ルートの変更を行うことにより、ドクターヘリ等との遭遇や衝突を回避することが可能となります。

米国では、都市部等においてドローンの目視外飛行が本格化しつつありますが、救急ヘリコプター等の飛行の安全を確保する方策として、空域分離と合わせて、ADS-B受信によりドローンの飛行の見合わせや飛行ルートの変更を行うことが主流の取り組み方となっています。

(2)ドローンに自律的な衝突回避システムを搭載

ドクターヘリ等の有人ヘリコプターをドローン側で検知して回避する仕組みの2つ目は、ドローンに自律的な衝突回避システムを搭載することです。自律的な衝突回避の手順は、我が国の提案が国際標準化されており、その経緯等は次のとおりです。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」(2017年度〜2022年度)では、ドローンの衝突回避技術に関する研究も実施されました。この研究成果に基づいて3社(SUBARU、日本無線、ACSL)により策定された「無人航空機の衝突回避に関する運航手順」が、2023年10月にISO(国際標準化機構)により、国際規格【ISO21384-3】として正式に採択・発行されたのです。

【ISO21384-3】では、ドローンの衝突回避手順として、「@対象物の探知」、「Aターゲットの認識」、「B回避機動」、「C回避結果の確認」、「D元ルートへの復帰」および「E元ルートでの飛行」の6段階が規定されました。これからのドローンは、この6段階に基づく統一された回避行動をとることが国際標準となったのです。

さらに、前記の研究成果に基づいて2社(日本無線、三菱総研)が取りまとめた技術報告書が、ISOから【ISO/TR 23267】として、2024年4月に公開されました。この技術報告書は、レーダーや光学センサーを備えたドローンによる6段階の衝突回避手順を具現化する無人航空機用衝突回避システムとして、ISOが目下開発中の国際規格【ISO/DIS 15964】に向けた技術的根拠に位置付けられています。

南海トラフ巨大地震発生後に想定される広域かつ長期間にわたる災害対応に備えて、国際標準化された自律的な衝突回避システムのドローンへの早期実装が望まれるところです。

【 この記事に関する出典 】

この記事は、2025年2月14日に(株)新技術開発センターが開催するセミナー【ドローン技術の最新事情】のプレゼン資料の中から、第8章の内容を抜き出して再構成したものです。
また、この記事に記載した詳細事項の出典は、次のとおりです。

  1. JUIDA(一般社団法人 日本UAS産業振興協議会)のHP
  2. 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2024年4月22日付ニュースリリース【日本発の無人航空機の衝突回避に関する技術報告書がISOより公開】
  3. 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構2023年10月16日付ニュースリリース【無人航空機の衝突回避に関する日本発提案が国際規格の改定版に採択・発行】
《著者のプロフィール》

澤田雅之技術士事務所所長、元警察大学校警察情報通信研究センター所長
2016年以降、サミットやオリンピック等のカウンタードローンに向けて、警察庁、警視庁、海上保安庁、経済産業省等で講演。2018年以降、空の産業革命に向けたドローンの利活用にも調査研究の対象を拡大し、これまでに執筆や講演の実績多数。




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