前のページへ戻るホームへ戻るテクノビジョダイジェスト
  背景画像
【連載:日本沈没に抗って!(6)】

劇的に進化したAIドローン
〜ニューヨーク市警はAIドローンを24時間遠隔無人運用〜

澤田 雅之  
技術士(電気電子部門)  
  背景画像

●2月20日「これからの老朽インフラ対策〜ウォーターPPPの要件をみたす包括的民間委託のポイント〜
 セミナー開催
●書籍「『性能発注方式』発注書 制作活用実践法」発売中


画像-1
高度な「AIの目」を備えたSkydio X10
画像-2
暗闇の中を自律飛行するSkydio X10
画像-3
ドローンポートDock for X10
(画像-1と画像-2の出典は米国Skydio社のHP、画像-3の出典はKDDIスマートドローン社のHP)

1 今日の最先端ドローンが備える高度な「AIの目」(4)(5)

今日の最先端ドローンは、高度な「AIの目」を備えています。分けても、米国Skydio社のSkydio X10(画像-1)は、そのような目で人や自動車を判別しながら、自動・自律で障害物を回避し、夜間も高速飛行(画像-2)ができます。つまり、操縦者無しでは飛ばせなかった機械装置から無人の空飛ぶロボットへと、パラダイムシフトが起きているのです。

これまでのドローンは、機上に搭載した外界センサーを「白杖」のように用いて、前方を探りながら、障害物の手前では立ち止まりながら自律飛行していました。しかし、電線や小枝などは探り当てることができず、衝突を避けるためには操縦者による常時監視と随時介入が欠かせませんでした。

ところが、空飛ぶロボットに進化したAIドローン(Skydio X10)は、障害物の間隙をしっかり見極め、電線や小枝も自律的に回避し、高速で駆け抜けることができるのです。

それゆえ、例えば山岳地帯の森林の中で、自動車並みの速度で障害物回避飛行をしながら搭載カメラで遭難者を捜索するといった、夢のような活用方法が現実になりました。屋外に限らず、工場や倉庫の中を夜間にくまなく巡回・点検することも朝飯前です。

生誕地の米国では、ニューヨーク市警が2024年秋から、24時間の遠隔無人運用によるファーストレスポンダー(現場に真っ先に駆け付ける者)として、Skydio X10を本格活用しています。

そこで、次の第2節では、Skydio X10が夜間も高速で自律飛行できる仕組みについて記載し、第3節では、Skydio X10の24時間遠隔無人運用を支える専用ドローンポート(画像-3)について記載し、第4節では、ニューヨーク市警におけるSkydio X10の24時間遠隔無人運用の実際面について記載し、第5節と第6節では、我が国における24時間遠隔無人運用によるファーストレスポンダーとして、南海トラフ地震などに備える活用について記載します。

2 夜間も障害物回避飛行ができるSkydio X10(1)(5)

米国Skydio社のSkydio X10(画像-1は、機体の上面と下面にそれぞれ3個ずつ計6個搭載したナビゲーション専用の4Kカメラを用いて、Visual-SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の技術により、機体の360度全方位の三次元空間状況をリアルタイムに把握します。

そして、機体に搭載した組み込みAIコンピュータ(NVIDIA社のJetsonシリーズ)上でのディープラーニングにより、直径1.5cm以上の電線などの障害物を全て回避する飛行ルートをリアルタイムに算出して、高速かつ自律的な障害物回避飛行をします。

また、前記のディープラーニングにより、機体前面の撮影用4Kカメラで捉えた映像の中から特定の対象(人または自動車に限る)を識別して、対象が森の中を疾走する場合であっても高速で自動追尾することができます。

このようなSkydio X10の他に類を見ない特徴は、機体に搭載した可視光ライトまたは赤外線ライトを点灯するNightSenseモードにより、暗闇の中でも障害物回避飛行ができることです。
Skydio X10の主なスペックは、次の①〜④のとおりです。

① 機体のサイズは311×256×57mm、機体の重量は2.14kg、最大離陸重量は2.49kg
② 最大水平速度は約72km/h、障害物回避飛行時の最大水平速度は約57km/h
③ 最大風圧抵抗は約12m/s、最大飛行時間は約40分
④ 機体保護等級はIP55、パラシュートを搭載可能

3 Skydio X10の24時間遠隔無人運用を支える専用ドローンポート(2)(5)

NightSenseモードにより夜間も障害物回避飛行ができるSkydio X10は、専用ドローンポートDock for X10(画像-3)と組み合わせて、遠隔操作プラットホーム用ソフトウェア(Remote Ops)を用いることにより、ネットブラウザを介して任意の遠隔地からのオンデマンドで、夜間も無人運用できます。
Skydio X10の遠隔無人運用を専用ドローンポートで支える仕組みは、次の①〜③のとおりです。

① 専用ドローンポートに装備した気象センサーやADS-B受信機(第4節の(3)で具体的に記載)を用いて、天候や救急ヘリコプター等接近の有無を遠隔で判断できる。
② 専用ドローンポート内のカメラ等を用いて、Skydio X10の飛行前点検を遠隔で実施できる。
③ Skydio X10は、Wi-Fi6による無線接続が弱くなれば、自動的にモバイル通信(4GLTE、5G)に切り替わる。

4 ニューヨーク市警はSkydio X10を24時間遠隔無人運用(3)(5)

ニューヨーク市警は、2024年9月にFAA(米連邦航空局)から、ニューヨーク市内でSkydio X10を24時間遠隔無人運用する許可を取得しました。

これによりニューヨーク市警は、我が国の110番・119番通報に相当する911通報により事件や事故の発生を認知した場合には、遠隔操作により専用ドローンポートからSkydio X10を直ちに飛び立たせて、夜間も自動・自律で現場に直行させているのです。つまり、事件や事故の発生時における、ファーストレスポンダー(現場に真っ先に駆け付ける者)として活用しているのです。そして、10〜20分ほどで到着した後、Skydio X10に搭載されている高精細可視光カメラやサーマルカメラで現場の映像を俯瞰的に撮影して、警察や消防等の関係機関へリアルタイムに伝送することにより、事件や事故への迅速な対応に役立てています。

大都市上空に世界で最も複雑な空域を擁しているニューヨーク市内で、ニューヨーク市警がFAAから上記の許可を取得することができたのは、次の(1)〜(3)に記載する3つのキーポイントによるものでした。

(1)1つ目のキーポイントは、シールドオペレーション

ニューヨーク市警は、有人航空機の飛行空域との隔たりを保つためのシールドオペレーションとして、地上高200フィート(約60m)以内、または建築物の最上部から50フィート(約15m)以内でのSkydio X10の運用を許可されました。

このようなシールドオペレーションにより、地上高500フィート(約150m)以上を飛行する有人航空機との間に緩衝帯が設けられ、低空飛行する有人航空機に遭遇する可能性を減らすことができます。

(2)2つ目のキーポイントは、Skydio X10の夜間も含めた障害物回避飛行

シールドオペレーションでは、低空飛行する有人航空機に遭遇する可能性は減りますが、建築物が密集したニューヨーク市内の低空域を飛行すれば、建築物に衝突するリスクは高まります。

しかし、Skydio X10であれば、夜間もNightSenseモードを使用した障害物回避飛行ができるため、建築物に衝突するリスクを払拭することができます。

(3)3つ目のキーポイントは、ADS-B受信によるヘリコプターの監視と回避

ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)とは、有人航空機に搭載した送信機から、当該機の位置、高度、速度、進行方向等に関する120ビットの情報を、1090MHz帯の電波を用いて、0.4〜0.6秒のランダムな時間間隔で、半径数百kmの全周囲に送信する航空交通監視技術です。ちなみに、欧米や中国、インド、オーストラリアなどでは、有人航空機にADS-B送信機搭載の義務付けが進められていますが、我が国では未だ義務付けられてはいません。

そこで、Skydio社は2023年から、ADS-B受信機能を専用ドローンポートと遠隔操作プラットホームに組み込んでいます。

このため、ニューヨーク市内で救急ヘリコプター等が地上高200フィート(約60m)以内を飛行する場合には、ニューヨーク市警のオペレーターは、低空飛行する救急ヘリコプター等に関するリアルタイムな情報(位置、高度、速度、進行方向等)をADS-Bから得て、Skydio X10の回避操作が必要かどうかを迅速に判断することができます。

5 AIドローンを震災発生時のファーストレスポンダーとして活用(4)

ニューヨーク市警におけるAIドローン(Skydio X10)のファーストレスポンダーとしての活用方法は、近い将来に発生が懸念される南海トラフ地震などへの備えとして、我が国でも大いに期待できるところです。震災発生時のこれまでのファーストレスポンダーは、警察や消防などの有人ヘリコプターでした。しかし、機体数に限りがあり、視界良好でなければ飛べないという弱点がありました。

そこで、AIドローンを震災発生時のファーストレスポンダーとして活用すれば、夜間でも迅速に被災地の被災状況や被災者を確認できるようになります。つまり、有人ヘリコプターが担ってきた役割を、AIドローンは画期的に補完・拡充・強化してくれるのです。

ところで、車の操作をシステムが担う自動運転については、技術の進歩に合わせて道路交通法や道路運送車両法が改正されました。それと同じように、航空法の規定も、操縦者を必要としないAIドローンの自動・自律飛行に対応した形に見直すことが望まれます。運行に係る人的コスト削減につながるような規制緩和が、AIドローンの普及には欠かせません。

6 KDDI、全国どこでも10分で駆けつけるドローン網の構築を開始(5)

KDDI社とKDDIスマートドローン社は、Skydio X10とDock for X10を全国の1000箇所に常設して、「全国どこでも10分でドローンが駆けつける体制」の構築を目指すとしています。

その実現に向けた第一弾として、2025年10月、石川県能登地域の4箇所(輪島市の中屋トンネルと輪島消防署、七尾市の和倉温泉お祭り会館と西部水質管理センター)に、Skydio X10とDock for X10を常設して、4GLTEによる東京からの遠隔運用を開始したところです。

目下の最大の問題は、人件費の負担が重いことです。その理由ですが、「ドローンに搭載したカメラにより、進行方向の飛行経路の直下及びその周辺への第三者の立ち入りが無いことを操縦者が確認できること」を要件の1つとするレベル3.5の飛行であるため、ニューヨーク市警の如くに、GPS等の衛星測位に基づく自律飛行により目的地までの全行程を無人運行とすることができないからです。その結果として、月間の運用コストは、人件費を含めて1箇所当たり100万円程度かかっています。

そこで、KDDI社とKDDIスマートドローン社は、災害対策予算だけでまかなうのは現実的ではないので、平時から活用できる仕組みが重要としています。しかし、抜本的には航空法の規定について、操縦者を必要としないAIドローンの自動・自律飛行に対応した形に見直すことが望まれるところです。

【 この記事に関する出典 】

  1. Skydio社のHP
  2. 2024年10月4日付ドローンジャーナル記事【Skydio、SkydioX10用ドローンポート「Dock for X10」発表】
  3. Skydio社HP掲載の2024年9月23日付News記事【FAA、NYPDに画期的な承認を発行、目視監視なしでドローンを第一応答者として運用】
  4. 2025年10月9日付毎日新聞朝刊記事【劇的に変化したAIドローン】
  5. 2025年10月16日付CNET Japan記事【KDDI、全国どこでも10分で駆けつけるドローン網の構築を開始 国内1000カ所に配備】
  6. 澤田雅之、ドローン技術の最新事情、2025年3月にAmazonから出版
《著者のプロフィール》

澤田雅之技術士事務所所長、技術士協同組合理事、元警察大学校警察情報通信研究センター所長
2016年以降、サミットやオリンピック等のカウンタードローンに向けて、警察庁、警視庁、海上保安庁、経済産業省等で講演。
2025年3月、「ドローン技術の最新事情」を出版。




前のページへ戻るホームへ戻るテクノビジョンダイジェスト