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【連載:日本沈没に抗って!(8)】 カイロスの初号機から3号機が連続して失敗
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| 澤田 雅之 技術士(電気電子部門) |
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【画像1】は、カイロス専用発射場「スペースポート紀伊」で発射準備中のカイロス3号機(スペースワン社のHP掲載像) 【画像2】は、打ち上げから5.3秒後に自爆したカイロス初号機(中日新聞社ヘリ「わかづる」撮影画像) 【画像3】は、1段目噴射角度検知センサーの不具合によりスピン状態に陥ったカイロス2号機(スペースポート紀伊周辺地域協議会提供画像) 【画像4】は、打ち上げから68.8秒後に自爆したカイロス3号機(日経記者撮影による日経電子版掲載画像) |
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スペースワンは、2018年7月に発足した株式会社であり、小型固体燃料ロケット「カイロス」の開発・製造と打ち上げを行っています。カイロスの主な特徴は、次のとおりです。
カイロスは、初号機、2号機、3号機の打ち上げに全て失敗しました。その主因は、次の(1)から(3)に記載のとおり、いずれもソフトウェアやセンサーの誤設定・誤作動でした。
カイロス初号機は、2024年3月13日に打ち上げられました。しかし、打ち上げからわずか5.3秒後に「自律飛行安全システム」が作動して自爆してしまいました。作動した原因は、次のとおりです。
初号機の1段目の実際の推進力が予測値(燃料サンプルの燃焼特性から予測した推進力であり、予測のプロセスに問題があったため実際より高い値でした)をやや下回りました。その結果、不正確な予測値に基づいて厳しめに計画した飛行範囲を、初号機は逸脱(実際には危険な状態ではありませんでした)したのです。この逸脱を「自律飛行安全システム」が検知して、飛行を中断するために自爆してしまったのです。
カイロス2号機は、2024年12月18日に打ち上げられました。しかし、打ち上げから1分26秒後に機体はスピン状態に陥り、計画した飛行範囲を逸脱したため、「自律飛行安全システム」が作動して自爆してしまいました。逸脱した原因は、次のとおりです。
2号機の打ち上げから1分26秒後、1段目エンジンのノズル制御機構で、ノズルの噴射角度を検知するセンサーが正しい信号を出せなくなるという異常が発生しました。その結果、ノズルの噴射角度を適切に制御できなくなった機体は、スピン状態に陥ってしまったのです。そして、打ち上げから2分22秒後に2段目エンジンが正常に点火したものの、飛行経路は西側へと逸れていき、計画した飛行範囲の限界線を越えてしまったため、打ち上げから3分7秒後に「自律飛行安全システム」が作動して自爆してしまったのです。
カイロス3号機は、2026年3月5日に打ち上げられました。3号機は予定の経路を正常に飛行していたのですが、打ち上げから68.8秒後に「自律飛行安全システム」が作動して自爆してしまいました。作動した原因は、次のように推定されています。
「自律飛行安全システム」は二重化されており、片方が異常を来した場合には、他方が直ちに飛行を中断するように設定されています。このため、3号機の機体に異常は無く、計画した飛行範囲からの逸脱も無い状況下での突然の自爆は、二重化された「自律飛行安全システム」の片方の異常を検知した他方が、直ちに飛行を中断するために自爆したと推定されるところです。
カイロスの「自律飛行安全システム」は、飛行中の機体に異常が生じた場合に計画した飛行範囲を大きく逸脱しないようにするため、地上の管制センターが介入することなく機体を自爆させて、飛行を中断するシステムです。
ちなみにJAXAでは、地上の管制センターが機体の飛行状況を追跡・監視し、機体が危険な状態に陥ったと判断した場合には、管制センターから機体破壊コマンドを送信して飛行を中断しています。実は、カイロスの飛行状況も地上の管制センターで追跡・監視しているので、カイロスが危険な状態に陥った場合には、管制センターから機体破壊コマンドを送信して飛行を中断すれば済むところです。
それゆえ、機体の異常を検知した場合には直ちに自爆することのみを目的とした「自律飛行安全システム」の搭載は、カイロスに有害無益であるとしか言えません。それにも関わらず、「自律飛行安全システム」の搭載目的を確実に達成できるようにするため、「自律飛行安全システム」自体の部分最適化を徹底して追求しています。その結果として、初号機と3号機では、次の(1)と(2)に記載のとおり、飛行の安全性や信頼性に係る全体最適化が破綻してしまったのです。
「自律飛行安全システム」は、あらかじめ設定された「計画した飛行範囲」の逸脱を検知した場合には、機体を自爆して飛行を中断します。
しかし、カイロス初号機では、「計画した飛行範囲」を設定する際に、その逸脱が本当に危険となる飛行範囲ではなく、手間のかかる推進力予測プロセスを経ながらも、結果としては不正確な予測値により算出した「理論上の飛行経路」に基づいて、「計画した飛行範囲」を設定してしまいました。
このことは、「計画した飛行範囲」について、初号機の飛行の安全性に係る全体最適化の視点からではなく、「自律飛行安全システム」自体の部分最適化に強くこだわる視点から設定されていたと言えます。つまり、「自律飛行安全システム」の部分最適化を近視眼的に追求した結果、初号機の飛行の安全性と信頼性に係る全体最適化が破綻してしまったということです。
「自律飛行安全システム」は二重化されており、片方が異常を来した場合には、他方が直ちに飛行を中断するように設定されています。これは、二重化された双方が共に作動しなくなった場合に、飛行を中断する術が無くなる事態を回避するためとされていますが、どのように見ても、自爆できなくなる恐れが生じた場合には直ちに自爆してしまうための、とんでもない設定であると言えます。 このことは、3号機の飛行の安全性と信頼性に係る全体最適化の視点が全く欠落しており、「自律飛行安全システム」自体の部分最適化に強くこだわった視点からの「空理空論」である、といっても過言ではありません。つまり、「自律飛行安全システム」の部分最適化を近視眼的に追求した結果、初号機の場合と同様に3号機でも、飛行の安全性と信頼性に係る全体最適化が破綻してしまったということです。これでは、カイロスのプロジェクト運営に問題が無かったとは、とても言えないところです。
我が国ではJAXAやスペースワンを含めて、「組織対応」によるプロジェクト運営、つまり、プロジェクトに関係する組織ごとに、それぞれが分担した役割の部分最適化を図っていくプロジェクト運営が常識であり、昔も今も普遍的に行われています。この場合のプロジェクトマネージャの主な役割は、関係する各組織間の「まとめ役」、つまり、コーディネーターに過ぎなくなります。ちなみに、JAXAではH3などのプロジェクトごとにプロジェクトマネージャを置いていますが、スペースワンではカイロスのプロジェクトマネージャを置いていません。いずれにしても、プロジェクトとしての最終的な意志決定は、関係する組織の全体会議などでの「合意」に依るところとなります。
このような「組織対応」によるプロジェクト運営では、プロジェクトの企画段階において、関係する各組織の合意を得て決定した「基本的な実施方針」の根幹に係る事項については、プロジェクトの実施段階において、臨機応変な方針変更を図ることが極めて困難です。このため、技術革新が激烈な分野におけるプロジェクト運営には、もはや適さなくなっていると言えます。
また、「組織対応」によるプロジェクト運営では、ロケットなどのメカニカルな部分については、製造に先立つ詳細な設計審査ができますが、ロケットなどの「ソフトウェアやセンサーによる制御機能」については、その作動状況が設計図面から読み取れないため、安全性や信頼性に係る設計審査ができません。その結果として、「ソフトウェアやセンサーによる制御機能」を分担した組織の他は、中身がほとんど理解できない「ブラックボックス」の扱いとなりがちです。このため、ソフトウェアやセンサーを含めた全体最適化が欠かせない分野におけるプロジェクト運営には、全く適していないと言えます。
欧米諸国では、トップダウンにより全体最適化を図るプロジェクト運営、つまり、トップダウンにより全体最適化を図る権限を有する「真のプロジェクトマネージャ」が、責任を持ってプロジェクト運営全般を司ることが常識であり、昔も今も普遍的に行われています。
このようなトップダウンにより全体最適化を図るプロジェクト運営では、プロジェクトの企画段階において、プロジェクトマネージャが最終的に確定させた「基本的な実施方針」の根幹に係る事項であっても、プロジェクトの実施段階において、プロジェクトマネージャの責任と権限により臨機応変に改善を図ることが可能です。このことは、「組織対応」によるプロジェクト運営が硬直化しやすいことと対照的です。
また、「ソフトウェアやセンサーによる制御機能」の安全性や信頼性を確保する上でも、トップダウンにより全体最適化を図るプロジェクト運営は効果的です。具体的には、基礎設計の段階から、「ソフトウェアやセンサーによる制御機能」の安全性や信頼性について、求められる機能と性能の要件を明確にして、そのような要件を詳細設計と製造に具体的に反映させていく取り組み方(つまり、欧米諸国では普遍的な、トップダウンにより全体最適化を図る性能発注方式の取り組み方)が威力を発揮するのです。このような取り組み方は、「組織対応」によるプロジェクト運営では実現できません。
それゆえ、カイロスが「組織対応」による硬直化したプロジェクト運営の産物ではなく、トップダウンにより臨機応変に全体最適化を図るプロジェクト運営の産物であったならば、カイロスの打ち上げが三連続して失敗するようなことは無かったはずと悔やまれるところです。
澤田雅之技術士事務所所長、技術士協同組合理事、元警察大学校警察情報通信研究センター所長。
2022年9月、(株)新技術開発センターから書籍【「性能発注方式」発注書制作活用実践法】を出版。


