前のページへ戻るホームへ戻るテクノビジョダイジェスト
 
2002.03【特集記事−本誌編集部より−】
開発・設計から生産、廃棄まで コラボレーションの時代がやってきた
生き残るための情報活用術

 

■情報を活用するものはすべてに勝つ

「情報」の重要性はいつの時代でも変わらない。
戦国時代。織田信長が桶狭間で圧倒的に軍事的優位を誇る今川義元を破ったのも、一重に「今川軍は桶狭間で休憩中」という情報であった。また、関が原の戦い時、山之内一豊の妻が徳川家康の陣中にいた一豊に石田三成からの書状を下男の編み笠の紐に織り込み届け、これを一豊はさらに徳川家康に届けた。この書状=情報が大名へのパスポートとなったのである。
「情報」は上手につかみ、それを活用してこそ意味がある。情報を取るだけでは活かせず、活用方法やシステムだけを構築しても活かせる情報がなければ組織は死んでしまう。 製造業においても例外ではない。
生産現場でのIT活用はいまに始まったことではない。たとえば、トヨタ生産方式がビジネスモデル特許を取得しているが、これは「もともとあった考えややり方を情報機器にのせただけ」(トヨタ自動車広報)というもの。ビジネスモデルとして販売するという考えはなく、新しいコンセプトというのでもない。「いかに合理的に生産をするか、付加価値をつけるか」という発想からきた同社の生産方式を電子機器を使用して実現したものである。
カンバンも受発注情報として電子化して情報機器で管理する、あんどんにしても生産個数やその日の目標数を提示するだけでなく、その情報を蓄え、チョコ停の原因を解析すれば改善への糸口となる。
ISOにおいては文書管理を電子化することで、煩雑な事務を軽減することが可能になり、その分、本来業務である品質管理、環境インパクトの減少、職場環境の向上などに振り向けることができる。
また、米国で発達したCAD/CAM、CAEは翻訳工数が少ないことから、いち早く普及した。開発リードタイムを短縮し、品質向上に寄与できるコンカレントエンジニアリングにおいてはコンピュータなしには考えられない。
最近では一昔はライバルであった同業他社との共同開発も珍しいことではなく、ここでも「情報」そしてその「扱い」の効率化が大いに関係しているといえよう。

■情報の一元化で効率的な生産活動を

企業が管理するドキュメントは多岐にわたる。「設計部門」も単純に考えても要求仕様書、業務連絡書、見積書、受注明細書などの日常的なファイルから設計検討書、実験報告書、検査要領書、標準書、標準仕様書、製造仕様書、材料購入仕様書、実験データなどが必要になる。さらにこれに総組立図、部分組立図、外形図などの図面情報が必要である。また、電気関係であれば配線図や接続図、システムブロック図なども必要であろう。
これらを一元管理し、全社的な情報とつなげ、システム化することで効率はずいぶん上がる(図1)。最近では環境保護の観点から廃棄までの責任を問われるケースもあり、ライフサイクルを通しての管理にも情報の一元化は貢献できる。

図1 一元化した情報がすべてのステージで活用される

さて、こうした情報の一元管理にはさまざまなツールが発売されているが、有利なツールのひとつが3次元CAD。コクリエイト・ユーザ会理事長香取英男氏も「人間の感覚からしても、ものを見るときは3次元。そこから平面におとしていくという方が自然でしょう」という。たしかに干渉などは3次元で見るとすぐにわかる。
CAEではデータを蓄積し、絶対値解析にしておけば、比較解析ができ専門知識がなくても結果が得られる。つまり、新人設計者が担当すること、場合によってはアルバイト化が可能になる。
他部門とドキュメントを共有することで、合理的な購買も可能になる。設計が仕様を決定する段階で、購買部門がその内容をチェックすることで、機能は落とさず、標準部品や安価な材料、ボリュームディスカウントが可能な購入品への変更が可能になる。
とくに並行していくつかのプロジェクトが進んでいる場合、同じ材料や部品を購入するように設計部門と話し合うことでコストダウンだけでなく、在庫も削減でき、管理工数も低減できる。

一方、情報の共有化はサプライヤーにもメリットをもたらす。1個作りに近い受注生産、短納期は顧客満足をもたらすものの、サプライヤーにとって、確定情報を受けてから納品までのリードタイムが短く、負担が大きい。
ところが、受注段階でサプライヤーが情報を入手することが可能であれば、必要とされる材料を手配する、ネック工程や段取り替えなどの工程管理を先行させる、特殊なシフトが必要であればその対応をするなど、リードタイム短縮上の「ネック」に対して、先行して対策をとることができるのである。
住友重機械工業ではPDMに登録された設計属性や3Dモデルの形状・寸法をもとに全構成部品について政策手順の設定、加工時間や調達期間の見積もり、発注先の決定などを行い、これらを製作属性としてPDMデータに付加する。これらは設計部門の図面作成作業と並行して行う。
図2 JNXのイメージ

一方、全構成部品の生産日程についても、組立完了日を出荷日から逆算、組立リードタイム、部品の製作リードタイムなどを自動的に算出して製作開始日を決定、そこからさらに各図面の出図期限を設定しているが、これらはすべて自動設定、しかもひとつのデータがもとになっている。
しかも、生産工程においても、生産日程に基づいた部品入荷、部品そのものも組立作業に沿って配膳するといった改善が図られ、コスト削減、リードタイム短縮に大いに貢献している。
ちなみに、バーン ジャパンではプロジェクトにかかわるメンバー(企業、関係者)が情報ハブに連結され、互いにWin Winの関係で結ばれるB to Bの形態を「コラボレーティブ バリュー チェーン」とよび、パラダイムシフトの到来としている。

■成果を出しつつあるコラボレーション

同業他社、ライバル会社との「共同」や「協同」。これらは最初、ロジスティクス分野で始まった。トヨタ自動車と日産自動車がそれぞれの九州工場からの出荷を共同配送で行い「呉越同舟」などといわれたのは過去のこと。いまでは「コラボレーション」という言葉はごく普通に使用されるようになった。グループ企業はもちろん、サプライヤー企業、販売会社、さらには同業他社との協同へまで発展している。
タダノとコベルコ建機では建設用クレーンの一種であるラフテレーンクレーンを共同で開発した。両社では全体のシステムを統合、CADデータの共有化を図り、開発リードタイムを半減させた。さらに両社では3次元CADデータを共有するシステム構築に前向きであり、今後も同様の展開をし、協業のメリットを出していきたいという。
TOTOと松下電工でもユニットバス、洗面台を共同開発、開発リードタイムを3割削減し、部材や商品アイテムの相互供給、金型などの設備投資を折半、さらには生産拠点をオープンにしての生産協業も行うという。情報の共有だけでなく、経営リソースの共有まで行われているのが現実である。
もともとサプライヤーなしには成り立たなかった自動車産業はどうであろうか。
早くから情報化が進み、CALSなどで実績を積んでいる自動車産業では、コラボレーションを支えるインフラとしてJNXを構築し、自動車メーカー、サプライヤーと自動車業界各社をひとつのネットワークで結んでいる。これまでは各自動車メーカーが専用回線を使用してサプライヤーと結ばれていたが、単一のネットワークで複数の自動車メーカー、取引先を結ぶことができるようになったもの(図2)。現段階で自動車メーカー13社、サプライヤー300社以上が加入している。今後、ANX(米国)、ENX(欧州)と相互接続をすることで、グローバルネットワーク目指す。

■管理項目は図面データだけではない

コラボレーションですぐに想像されるのは共同開発である。事例においてもCADデータの共有などによる効率的な設計で開発リードタイムを短縮していくというケースは多い。たしかに部品表や過去の実験データ、仕様など、現在の段階でデジタルデータとして存在するものを交換し、活用していくのは工数こそかかるものの、基本的な合意ができればワークとして落とし込んでいくことは可能である。
実際に設計部門では類似の設計があった場合はこうした過去の図面やデータを利用して応用設計をしてリードタイム短縮を図ってきた。
ところが、これからは企業付加価値を向上させていくためには図面データだけでは難しい。
まず、製品情報の完成度がはじめから高くなる3次元CADにおいては、製造情報の作成や開発中の設計データの共有、開発部門から生産技術部門へのデータ移転という課題が起こる。これがうまくいかなければトータルでのリードタイム短縮に結びつかない。設計リードタイムだけが短縮されても、市場への投入が同じであれば、何の付加価値もない。むしろ、投資をした分だけ、マイナスになるといってもいい。
そのため、図面データだけでなく、関連法規や社内規定などの各種ドキュメント、品質に関する規定や基準、さらには資材・購買データもリアルタイムに反映させていく必要がある。一方、環境についても土壌汚染や水質汚染に関する規制やリサイクルに関しての要求事項もあり、これらをクリアするための設計というテーマもある。これにはISO 14000などだけでなく、材料データや社内基準データが必要になる。
これを企業協同で行う場合、どのように行えばいいのだろうか。
また、組織のカベがある場合、メンバー間での情報の共有化は難しくなる。特に従来型企業文化では業務フローは部門完結であり、連携して最大の効果を上げるという考え方が確立されていないケースも多い。
こうしたケースでは、どのタイミングでどのようなデータをどういう形で渡していくのか。また、変更があった場合、その連絡をだれがどういう形でするかといった細かなルールづくりが欠かせない。
また、コラボレーションの規模が大きくなってくるとデザインレビューやミーティングを頻繁に開催することが時間や距離といった物理的原因で難しくなる。
そこで。こうした課題をクリアし、製品のスムーズな市場投入を支援するツールの活用も考えなくてはならないというケースもでてくるだろう。

■いまこそ 社内インフラづくりを

コラボレーションの流れとそれを効率的に進めるITなどのインフラ整備は進むが、社内ではシステムをつくればいいというのではないところが難しい。
JNXに接続することはできても、そこで受注をできるか、あるいは競合他社とコラボレーションを行うにしても、メリットを十分に出せるか。それ以前に協業をできる相手があるかはその企業の実力次第である。
たとえ、共同開発ができても、実際の生産になった段階では生産設備、協力会社が異なっていることはもちろん、企業風土、現場の実力がすべて違う。
そのなかでベネフィットを出していくには明確なストラテジー、フレキシブルで使いやすい情報システム、そしてなによりも自律的な生産システムが必要であることはいうまでもない。こうした社内インフラをつくりあげていくことが、コラボレーションを成功に導く大きな要素である。


前のページへ戻るホームへ戻るテクノビジョンダイジェスト